2022年11月16日掲載
医師・歯科医師限定

【第66回日本リウマチ学会レポート】リウマチ性疾患患者におけるSARS-CoV-2ワクチン(2800字)

2022年11月16日掲載
医師・歯科医師限定

九州大学病院別府病院 内科 助教

木本 泰孝先生

リウマチ性疾患患者におけるCOVID-19発症リスクは健常者よりも高く、SARS-CoV-2ワクチン接種による免疫誘導が重要である。一方、リウマチ性疾患患者に用いられる免疫抑制作用のある抗リウマチ薬は、ワクチンの効果に影響を及ぼすと考えられ、ワクチン接種によるリウマチ性疾患の活動性再燃や新規誘発、ワクチンの副反応などについても懸念が持たれている。

木本 泰孝氏(九州大学病院別府病院 内科 助教)は、第66回日本リウマチ学会総会・学術集会(2022年4月25〜27日)で行われたシンポジウムにおいて、リウマチ性疾患患者におけるSARS-CoV-2ワクチン接種にまつわる臨床上のさまざまな疑問について、最新のエビデンスに基づいた知見を紹介した。

※本レポートでは、学会後にアップデートされた情報を注記として記載している。

抗リウマチ薬がSARS-CoV-2ワクチンの効果に及ぼす影響

SARS-CoV-2ワクチン接種は、リウマチ性疾患患者においても有効である。死亡率の低下や、接種回数の増加に応じた入院率の低下が報告されている。

しかし、抗リウマチ薬のうち、リツキシマブ(Rituximab:RTX)やミコフェノール酸モフェチル(mycophenolate mofetil:MMF)を投与中の患者では、ワクチンによる抗体誘導が低下すると報告されており、ブレイクスルー感染(ワクチン2回接種完了から約2週間後以降のCOVID-19感染)との関連が示唆されている。

RTX投与中の患者では、RTX最終投与からワクチン接種までの期間が短いと抗体誘導が得られず、その抑制期間は半年以上に及ぶと報告されている。一方、ワクチンによるT細胞の免疫誘導は、抗体誘導の有無にかかわらず、RTX投与中の患者でも健常人と同等であった。

SARS-CoV-2ワクチンとリウマチ性疾患活動性

SARS-CoV-2ワクチン接種のリウマチ性疾患活動性との関連について、関節リウマチ・全身性エリテマトーデス・乾癬性関節炎・強直性脊椎炎の罹患者を対象とした検討が行われた。ワクチン接種後も大多数の患者の病状は安定しており、疾患活動性の再燃、いわゆるフレアの出現は一部に留まっていた。

別の集団を対象とした検討でも、ワクチン接種に伴うフレアの頻度は、関節リウマチ患者で7.8%、全身性エリテマトーデス患者で3%と報告されている。また関節リウマチ患者において、関節炎に伴う専門外来受診と入院は、ワクチン接種とは関連しなかったとする報告もある。

ヨーロッパリウマチ学会が行っている、SARS-CoV-2ワクチンのレジストリであるCOVAXは、リウマチ性疾患患者における疾患活動性の再燃は4.4%であり、重症のフレアは0.6%と比較的低頻度であったことを報告している。

さらにGlobal Rheumatology Allianceによる調査でも、リウマチ性疾患のSARS-CoV-2ワクチン接種に伴うフレア発生頻度は約5%であり、発生頻度について以下のような特徴が示されている。

  • 関節リウマチよりも全身性エリテマトーデスや乾癬性関節炎、リウマチ性多発筋痛症の罹患者でフレアの発生頻度が高い
  • 特発性炎症性筋疾患患者ではフレアの発生頻度が少ない
  • フレアの発生頻度は、ファイザー社よりもアストラゼネカ社のワクチンで多い
  • SARS-CoV-2ワクチン以外のワクチンでの重篤な副反応の既往者や女性では、フレアの発生頻度が多い

SARS-CoV-2ワクチンとリウマチ性疾患の新規誘発

SARS-CoV-2ワクチン接種による、リウマチ性疾患を含めた自己免疫疾患の新規誘発については、散発的な症例報告に留まっており、現状では明確な因果関係は証明されていない。誘発メカニズムについては、ワクチンへの免疫応答との分子相同性(molecular mimicry)や、潜在的な免疫異常の顕在化などが考えられており、今後さらなる知見の集積が求められている。

リウマチ性疾患患者におけるSARS-CoV-2ワクチンの副反応

リウマチ性疾患患者におけるSARS-CoV-2ワクチンの副反応を調査したところ、1回目よりも2回目の接種で倦怠感・頭痛・筋肉痛・寒気など、全身性の副反応の頻度が増加するものの、重篤な副反応はごく一部に留まっていた。

リウマチ性疾患患者に対するSARS-CoV-2ワクチンの使い方

リウマチ性疾患患者におけるSARS-CoV-2ワクチンの3回目接種の予後への効果について検討した臨床研究も行われている。未接種と比較して合計2回・3回の接種により、段階的にCOVID-19感染や感染に伴う入院が抑制され、生存率も高くなる結果が得られた。

木本氏講演資料(提供:木本氏)/Bieber A, et al. Ann Rheum Dis. 2022 Jul; 81(7): 1028-1035. より改変

2021年アップデート版のヨーロッパリウマチ学会によるSARS-CoV-2ワクチンのガイダンスでは、RTX・MMFを投与中の患者に対し、3回目のワクチン接種を推奨している。2022年2月にアップデートされたアメリカリウマチ学会によるガイダンスでも同様に、3回目の接種を強く推奨している。

※2022年8月にアップデートされたアメリカリウマチ学会のガイダンスでは、3回の接種を完了した患者に対して、追加接種(例:追加ブースター接種2回以上、合計5回)を強く推奨している。

またワクチン接種に際し、リウマチ治療薬を投与するタイミングについては、抗リウマチ薬を休薬しても継続しても、疾患活動性やリンパ球サブセットには変化がなかったことが示されている。一方、60歳以上の高齢者では、メソトレキセートを休薬するほうが継続するよりもワクチンの効果が高かったとする報告もみられる。さらにMMFは、ワクチン接種の際に休薬することで、抗体検出の頻度と抗体力価がいずれも上昇すると報告されている。

これらを含めたエビデンスに基づき、前述のアメリカリウマチ学会のガイダンスではリウマチ治療薬の休薬について解説している。

*具体的なサイトカイン阻害薬は以下の通りである。IL-6受容体:サリルマブ、トシリズマブ、IL-1受容体:anakinra、カナキヌマブ、IL-17:イキセキズマブ、セクキヌマブ、IL-12/23:ウステキヌマブ、IL-23:グセルクマブ、リサンキズマブ

木本氏講演資料(提供:木本氏)/アメリカリウマチ学会によるワクチンのガイダンスより改変

SARS-CoV-2ワクチンの効果減弱例への対応

合成したウイルスタンパク質の断片を複数注入して作られたマルチペプチドワクチン、CoVac-1は、健常人において幅広く長期的にT細胞免疫を誘導することが報告されている。さらに、B細胞の欠損したがん患者においても、本ワクチンによってT細胞の応答を高率に得られたことが、2022年4月の米国癌学会で報告されている。RTX投与中の患者など、承認済のSARS-CoV-2ワクチンの効果が乏しい症例において、有力な予防手段となることが期待される。

また、Fc部分を改変して血中濃度の半減期を6か月程度に延長した長時間作用型抗体も、ワクチンの効果が乏しかった集団(免疫不全患者は3.8%)を対象とした検討で、症候性COVID-19の発症を有意に抑制した結果が示されている。

※2022年8月、長時間作用型抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体は特例承認され、日本でも使用可能となった。

講演のまとめ

  • 抗リウマチ薬のうち、RTXやMMFはSARS-CoV-2ワクチンの効果を減弱させる
  • SARS-CoV-2ワクチンによるリウマチ性疾患のフレアの頻度は3〜8%に留まる
  • SARS-CoV-2ワクチン接種に伴うリウマチ性疾患の新規誘発は、因果関係・メカニズムとも明確には示されていない
  • リウマチ性疾患患者におけるSARS-CoV-2ワクチンの副反応は限定的である
  • SARS-CoV-2ワクチンの3回目接種は強く推奨される
  • SARS-CoV-2ワクチン接種に際してのリウマチ治療薬の投与タイミングは、最新の学会ガイダンスを参照し、病勢や使用薬剤を考慮して休薬の必要性を検討する必要がある
  • マルチペプチドワクチンや長時間作用型抗体が、SARS-CoV-2ワクチンの効果が乏しい患者におけるCOVID-19の予防手段として期待される


長時間作用型抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体は、2022年8月に特例承認された

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