2022年08月16日掲載
医師・歯科医師限定

【第62回日本肺癌学会レポート】進行非小細胞肺がんにおける免疫療法――各種薬剤が免疫系にもたらす影響と将来的な可能性(3300字)

2022年08月16日掲載
医師・歯科医師限定

独立行政法人 国立病院機構 四国がんセンター 呼吸器内科/臨床研究センター長

上月 稔幸先生

非小細胞肺がんの免疫療法では、PD-1/PD-L1が主なターゲットとなるが、細胞障害性抗がん薬、血管新生阻害薬、マルチターゲットキナーゼ阻害薬などにも免疫を賦活化させる作用があるとの報告がある。上月 稔幸氏(独立行政法人 国立病院機構 四国がんセンター 呼吸器内科/臨床研究センター長)は、第62回日本肺癌学会学術集会(2021年11月26〜28日)で行われたシンポジウムの中で、これらの薬剤が免疫系にもたらす影響について解説した。

免疫療法の歴史と非小細胞肺がんにおける位置づけ

免疫療法の歴史は、ジェームズ・P・アリソン氏によるCTLA4の発見、および本庶 佑氏によるPD-1の発見から始まった。2012年より臨床研究が盛んになり、現在はがん免疫治療薬単剤でも他剤との併用でも有益なデータが複数上がっている。

「肺癌診療ガイドライン2021年版」によると、非小細胞肺がんの治療において、免疫療法は大きく以下のフローで導入の是非が検討される。


  1. ドライバー遺伝子の有無を検討
  2. ドライバー遺伝子がnegativeの場合、PD-L1が高発現かどうかの検討
  3. PD-L1が高発現の場合は免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を選択
  4. PD-L1の発現が不明の場合は細胞障害性抗がん薬との併用や二次治療における選択肢として検討

非小細胞肺がんにおける免疫療法の主なターゲットはPD-1/PD-L1だ。そのほか、CTLA抗体やVEGFも免疫療法のターゲットとして着目されている。また、細胞障害性抗がん薬にも腫瘍効果以外に免疫賦活作用があるといわれており、期待が高まっている。

細胞障害性抗がん薬が免疫系にもたらす影響

細胞障害性抗がん薬は小細胞に対する腫瘍効果だけでなく、免疫賦活作用も持っていることが示唆されている。マウスモデルのin vivo試験では、ペメトレキセド投与後に白血球やT細胞が増えたとの報告が上がっている。また、ペメトレキセドやパクリタキセル、カルボプラチンを投与後、免疫に関わる遺伝子の発現亢進やHMGBの発現上昇がみられたとの報告もある。

こうした中、これまで多くのPhase3の試験が行われており、PD-1/PD-L1阻害薬と化学療法の併用で全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)に有意差がついたとの報告が多数上がっている。

血管新生阻害薬が免疫系にもたらす影響

VEGFなどをターゲットとした血管新生阻害薬については、ICIと併用することでPFSに有意差がついたとの報告がある。VEGFは腫瘍細胞に発現する因子で、以下のような作用を示す。

  • 制御性T細胞(Treg)や骨髄由来抑制細胞(MDSC)の増殖促進
  • 樹状細胞の成熟化抑制


VEGFがターゲットの血管新生阻害薬であるベバシズマブを投与することにより、TregやMDSC増殖の低下、樹状細胞の成熟化促進が期待される。血管新生阻害薬とICIとの併用結果については、IMpower150TASUKI studyで報告が上がっている。どちらの試験も、カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブにICIを上乗せして効果を比較している。PFSに有意差があることは認められたが、ICIを上乗せすることのメリットに関しては確立されたデータはない。そこで現在、九州大学の岡本 勇氏や白石 祥理氏らを中心とした、ICIおよびカルボプラチン+ペメトレキセドにベマシズマブを上乗せすることの有効性について検証するWJOG11218L(APPLE Study)が進行中だ。今後の結果に期待が集まっている。

マルチターゲットキナーゼ阻害薬が免疫系にもたらす影響

マルチターゲットキナーゼ阻害薬は、VEGFやFGFR、PDGFRなどをターゲットとした分子標的薬剤である。基礎研究レベルではあるものの、抗PD-1抗体との併用による相乗効果が期待できると考えられている。マウスモデルのin vivo試験にて、レンバチニブと抗PD-1抗体を併用した場合に以下の結果が得られた。

  • 腫瘍随伴マクロファージ(TAM)の減少
  • 形質細胞様樹状細胞(pDC)の増加
  • CD8T細胞の増加
  • インターフェロンγ、グランザイムBの発現上昇


Kato Y,et al.PLoS One.2019 Feb 27;14(2):e0212513.より引用

上記の結果より、マルチターゲットキナーゼ阻害薬を抗PD-1抗体と併用することで、免疫賦活作用をもたらす可能性が示唆されている。現在Phase3で行われている試験もあり、今後の進展に期待がかかる。

抗CTLA4抗体が免疫系にもたらす影響

抗CTLA4抗体については、メラノーマの事例において、腫瘍浸潤リンパ球やエフェクターT細胞の増加、制御性T細胞の減少、PD-L1の発現亢進などの作用があると考えられている。現在、抗CTLA抗体とPD-1/PD-L1阻害薬、細胞障害性抗がん薬の3剤を併用した複数の臨床試験(CheckMate227CheckMate9LAKEYNOTE598MYSTIC、POSEIDON)が実施されている。一定の集団で有効な可能性が示唆されているが、集団の詳細な条件については解明されていない。現在進行中のJCOG2007(NIPPON Study)において、その詳細が明らかとなる可能性を期待している。

抗TIGIT抗体が免疫系にもたらす影響

TIGITは、免疫抑制系のチェック分子である。抗TIGIT抗体は単体でも免疫系へ影響を及ぼすが、PD-L1阻害薬との併用により相乗効果が得られると期待されている。Phase2の臨床試験では、特にPD-L1が高発現(50%以上)の群において、高い反応性が確認されている。現在はPhase3の試験が行われており、今後の結果に期待がかかる。

PARP阻害薬が免疫系にもたらす影響

PARP阻害薬は、乳がんや卵巣がん、前立腺がんなどの治療薬として承認されている。DNAの修復に関わる酵素を阻害することで効果を発揮する。免疫系への影響としては、共刺激因子の誘導、インターフェロンγや炎症性サイトカインの分泌促進、PD-L1の発現誘導が考えられている。現在、ペムブロリズマブとオラパリブ併用時の相乗効果に関するPhase3の臨床試験として、KEYLYNK-006/KEYLYNK-008が進行中だ。

ミトコンドリアの代謝と免疫賦活化

抗PD-1抗体の投与が、ミトコンドリア代謝の活性化を通して免疫系を賦活化させる可能性が考えられている。ミトコンドリア代謝の亢進は免疫系に以下の変化をもたらす。

  • T細胞の活性化および増殖
  • mTOR、AMPKシグナルを介したT細胞の分化
  • PGC-1αの分泌によるT細胞の分化


抗PD-1抗体の投与によって活性化したT細胞は、最終的にはアポトーシスに至る。しかし、PPAR作動薬を併用することにより、T細胞の持続的な活性化が可能になるのではないかと考えられている。抗PD-1抗体とPPAR作動薬の併用による相乗効果として、ベザフィブラートやメトホルミンが候補に上がっている。現在メトホルミンとニボルマブの併用による相乗効果について、岡山大学 木浦 勝行氏を中心に医師主導治験が行われている。

講演のまとめ

  • 非小細胞肺がんにおける免疫療法の主なターゲットはPD-1/PD-L1
  • PD-L1の発現が不明なケースでも、細胞障害性抗がん薬との併用や二次治療における選択肢として免疫療法は用いられる
  • 細胞障害性抗がん薬は腫瘍効果だけでなく、免疫賦活作用も持つことが示唆されている
  • 血管新生阻害薬はICIとの併用でPFSが有意に延長したとの報告がある
  • マルチターゲットキナーゼ阻害薬は基礎研究において、抗PD-1抗体との併用で免疫賦活作用をもたらす可能性が示唆されている
  • 抗CTLA4抗体の免疫賦活作用について、JCOG2007(NIPPON Study)で詳細が明らかとなる可能性がある
  • 乳がんや卵巣がん、前立腺がんに使用されているPARP阻害薬は、現在Phase3の臨床試験でペムブロリズマブとオラパリブ併用時の相乗効果に関する検討が行われている
  • 抗PD-1抗体とPPAR作動薬の併用による相乗効果が示唆されており、現在治験が行われている
  • 免疫療法は単剤から多剤併用へと主要方針が移行しており、今後は個別化医療が重要視される

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