2022年11月02日掲載
医師・歯科医師限定

【第109回日本泌尿器科学会レポート】低リスク前立腺がんに対する凍結療法の是非(2300字)

2022年11月02日掲載
医師・歯科医師限定

東京慈恵会医科大学附属病院 泌尿器科 診療副部長/東京慈恵会医科大学 泌尿器科学講座 講師

三木 健太先生

凍結療法の歴史は長く、古くからさまざまな疾患の治療に用いられてきた。前立腺がんに対する凍結療法は1960年ごろから始まったが、日本では現時点で保険診療としては認められていない。東京慈恵会医科大学 泌尿器科 診療副部長の三木 健太氏は、第109回日本泌尿器科学会総会(2021年12月7〜10日)で行われたシンポジウムの中で、低リスク前立腺がんに対する凍結療法の是非について解説した。

前立腺がんに対する凍結療法

凍結療法の歴史は古く、体を冷やして炎症を抑えたり、痛みがある部分を冷やして麻酔効果を得たりする手法は古くから存在する。1860年代には、凍結によるがん治療を行ったという報告がある。塩と氷を混ぜたもので患部を冷やし、乳がんや子宮がん、皮膚がんに使用したようだ。1963年には、液体窒素を使ったパーキンソン病治療の報告もある。

前立腺に対する凍結療法の報告が登場し始めたのは1960年代だ。1990年代には、経直腸エコーを使用した前立腺の凍結療法も始まっている。初期の治療方法は、ジュールトムソン効果を応用したものだった。アルゴンガスを高圧ボンベから小さな穴を通して一気に放出させて前立腺の中に氷を作り、氷によって組織を破壊する方法である。しかし、破壊力の強い氷で前立腺全体を冷やしたことにより、合併症が問題となった。

全体治療からフォーカルセラピー(部分治療)へ

前立腺全体を凍結させることによる合併症の問題から、フォーカルセラピー(部分治療)の概念が登場した。2014年には、男性機能がある低リスク前立腺がん患者集団に対し、全体治療とフォーカルセラピーを比較した結果が報告されている。

三木氏講演資料(提供:三木氏)

全体治療とフォーカルセラピーで疾患の経過に有意差はなく、男性機能の回復についてはフォーカルセラピーのほうが有意であった。よって全体治療は不要であるとの考え方が普及し始めた。冷却療法が実施された患者データの推移を見ると、2005年を契機に全体治療の件数は減少しているのが分かる。

三木氏講演資料(提供:三木氏)

低リスク限局性前立腺がんに対する部分凍結療法の是非

2016年版の前立腺癌診療ガイドラインでは、低リスク限局性前立腺がんに対する凍結療法の推奨度はグレードC1とされている。

フォーカルセラピーはそもそも、根治的療法と監視療法の中間に位置する概念である。患者の予後に影響すると考えられる病巣を治療する一方で、正常組織はできる限り温存する。がん治療と患者機能を温存することの両立を目指した治療法なのだ。たとえ部分凍結療法といえども正常組織の機能を低下させるリスクはあり、そもそも積極的ながん治療が不要なことが多い低リスクの前立腺がんには、積極的に推奨されない。

フォーカルセラピーを積極的に実施している研究チームの報告でも、「低リスク前立腺がんに対する部分凍結療法は過剰治療である」という見解がなされている。

東京慈恵会医科大学での凍結療法

当院では、前立腺がん患者に対する凍結療法の事例がある。救済凍結療法がメインだが、初期治療としての凍結療法も経験している。

救済凍結療法

救済凍結療法は、放射線治療後に局所再発を認めた患者に対する凍結療法だ。2015年10月〜2020年12月までに19例を経験した。前立腺がんに対する凍結療法は保険診療外であるため、特定臨床研究という形で実施している。患者背景を以下に示す。

三木氏講演資料(提供:三木氏)

実際の治療イメージを下図に示す。

三木氏講演資料(提供:三木氏)

腫瘍の周辺に3〜5本のプローブを刺し、氷を作る。腫瘍近辺に温度センサーを設置し、病変部が十分に冷えていることを確認しながら施術を進める。直腸側にも温度センサーを設置し、安全性も同時に確認する。

救済凍結療法を実施した全症例の治療後のPSA推移と、予後不良患者の経過を以下に示す。予後不良の事例ではリンパ節転移が見つかったり、救済の全摘が実施されたりと経過はさまざまだ。

予後良好群と不良群の差は不明であるが、本治療を適応する時点で、前立腺がんがどの程度再燃しているか(病勢)が影響している可能性がありそうだ。今後も詳細な検討が必要だ。

三木氏講演資料(提供:三木氏)

初期治療としての凍結療法

当院において、初期治療での凍結療法が適応される基準は以下のとおりだ。


  1. 病理診断のグリソンスコアが7以下
  2. 治療前のPSA値が20ng/mL未満
  3. MRIで標的部位に陽性所見を認めること(PIRADS score 3/4/5)
  4. MRI/US癒合標的生検にて標的部位から前立腺がんを認めていること
  5. 経会陰的前立腺針生検で標的部位以外のがんはGS6であること
  6. 標的部位以外はMRIで陽性所見がないこと
  7. 臨床病期はT3a未満
  8. PS 0-1(ECOGの分類)


4が重要な条件で、MRIで標的部位から前立腺がんを認めることが必要だ。実際に初期治療で凍結療法が実施された事例は経過良好で、治療後12か月目で再発はみられていない。

三木氏講演資料(提供:三木氏)

講演のまとめ

  • 前立腺がんに対する凍結療法が始まった当初は全体治療が主流だったものの、合併症の問題からフォーカルセラピーの有意性が示されている
  • 低リスク前立腺がんに対する凍結療法は、フォーカルセラピーであっても過剰治療に値するというのが現状の見解だ
  • 救済凍結療法実施後の予後には、治療前の病勢が関与しているかもしれない

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