2022年11月07日掲載
医師・歯科医師限定

【第66回日本リウマチ学会レポート】リウマチ膠原病における新たな分子標的治療――抗リウマチ薬の有効性と安全性(3300字)

2022年11月07日掲載
医師・歯科医師限定

北里大学病院 膠原病・感染内科学 主任教授

山岡 邦宏先生

関節リウマチ治療には、メトトレキサートをアンカードラッグとして、生物学的製剤やJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬などさまざまなメカニズムの薬剤が使用されている。

山岡 邦宏氏(北里大学病院 膠原病・感染内科学 主任教授)は、第66回日本リウマチ学会総会・学術集会(2022年4月25日~27日)で行われた講演の中で、JAK阻害薬を中心とした抗リウマチ薬の有効性と安全性について、減薬・休薬の可能性を含めエビデンスを基に解説した。

抗リウマチ薬の有効性

アンカードラッグであるメトトレキサート――他剤との併用効果も

メトトレキサートは、もともと1960~1970年代ごろに乾癬および乾癬性関節炎に対する治療効果が認められた薬剤である。今でも、乾癬の皮膚のターンオーバーを参考に、12時間間隔の投与が行われている歴史ある薬剤である。

これまで、メトトレキサートと合成抗リウマチ薬との混合や併用投与の治療効果について、さまざまな臨床試験が実施され、有効性が確認されてきた。併用投与においてはメトトレキサートとJAK阻害薬、あるいは生物学的製剤を組み合わせることがゴールドスタンダードだ。しかし、メトトレキサートを用いない組み合わせで治療効果がみられたものもあり、メトトレキサートを使用できない症例に対する投与として参考にしたい。

生物学的製剤の有効性――短期間で劇的な効果

2010年の総説では、日本人関節リウマチ患者が参加した生物学的製剤を用いた治験結果においてインフリキシマブ+メトトレキサート、エタネルセプト、トシリズマブ、アダリムマブ、アバタセプト+メトトレキサート、いずれの群においても、12〜24週の検証でプラセボよりも有意に高いACR20達成率が得られた。それぞれに異なるメカニズムを持つ生物学的製剤であるが、関節リウマチに対しては一定の効果を示すことが明らかとなっている。

JAK阻害薬の有効性――生物学的製剤と同様に高い効果

JAK阻害薬トファシチニブの有効性については、中等症から重症の関節リウマチ患者を対象に行われた研究で確認されている。同研究内のORAL Standard試験では、アダリムマブと同等のACR20達成率も得られている。関節リウマチに対する高い有効性が考慮され、本邦では2022年10月現在、以下5種類のJAK阻害薬が承認されている。

  • トファシチニブ
  • バリシチニブ
  • ペフィシチニブ
  • ウパダシチニブ
  • フィルゴチニブ

減薬・休薬による再燃リスク――現実的な戦略とは

生物学的製剤とJAK阻害薬は、高い有効性が示されているが非常に高価である。そこで減薬や休薬の可能性について、非対照試験やシングルアーム試験、ランダム化比較試験により検討されてきた。しかし、寛解もしくは低疾患活動性の状態にある関節リウマチ患者において、減薬や休薬によってその状態を維持できる割合は限定的であり、再燃リスクは高い。結論としては休薬や漸減からの休薬は難しく、減薬がもっとも現実的である。

JAK阻害薬の減薬と休薬に関する研究は生物学的製剤と比較して極めて乏しいが、バリシチニブ4mg/日投与で寛解もしくは低疾患活動性の状態に至った関節リウマチ患者に対し、48週間2mg/日の減薬を試みた試験でも生物学的製剤と類似した結果が得られている。寛解または低疾患活動性の状態いずれの患者においても、減薬によってその状態が維持可能であるが、寛解で減薬した群のほうが維持できる割合は高かった。つまり、一度寛解に到達し、その状態を維持できている患者において減薬を考慮することが、JAK阻害薬減量の現実的な戦略であると考えられる。いずれにせよ、減薬に関しては患者とよく相談のうえで実施することが大切である。

JAK阻害薬の安全性――がんや帯状疱疹のリスク

関節リウマチ治療の課題

関節リウマチ治療においては、さまざまな課題が存在する。特に、SDM(Shared decision making)は非常に重要な問題である。医療従事者は決断に大きく関与するが、それを患者と共有できているのか常に考えなければならない。JAK阻害薬の安全性を主要評価項目とした治験結果が大きな課題となっており、試験結果の解釈方法によりSDMを困難とさせる可能性があることに注意すべきである。

トファシチニブの米国ORAL Surveillance試験

米国においては、トファシチニブ(2012年承認)およびバリシチニブ(2018年承認)についてFDAの指導の下、安全性を検証するための試験が実施された(トファシチニブは2020年に試験終了、バリシチニブは2024年に終了予定)。ORAL Surveillance試験の中間解析の結果を受けて、JAK阻害薬での主要心血管イベント、悪性腫瘍、死亡、血栓症のリスクについて警告を発し、JAK阻害薬の前にTNF(Tumor Necrosis Factor:腫瘍壊死因子)阻害薬を使用することを患者とよく話し合うことをすすめている。

しかし、トファシチニブのORAL Surveillance試験においては、慎重に結果を解釈すべき要素が多く挙げられる。

  • 3群に分けられた関節リウマチ患者のうち1群では、非常に高用量(トファシチニブ10mgを1日2回)で投与されていること
  • アジア人の割合が全体の5%未満にとどまっていること
  • 疾患活動性(SDAI)が高い患者を対象としていたため、主要心血管イベントや悪性腫瘍のリスクがもともと高かった可能性があること
  • 評価すべきイベント発生数が非常に少なかったこと


また、本試験の目的は、トファシチニブがTNF阻害薬に対して非劣性であることの証明であったが、結果として非劣性は証明できなかったとの結論に至っており、劣性が証明されたこととは異なる。

がんスクリーニングの必要性

本邦でのトファシチニブ全例市販後調査では、トファシチニブの投与後3か月以内にがんを発症した患者のうち、約50%に転移が認められたとの報告(ゼルヤンツ適正使用情報vol.12)がある。JAK阻害薬の作用機序を考慮すると、投与前の時点でがんの有無についてスクリーニングを実施することが重要と考えられる。

帯状疱疹の発症リスク

帯状疱疹も、JAK阻害薬投与時に特に注意すべき合併症の1つである。ウパダシチニブを投与された関節リウマチ患者を対象とした試験の安全性解析によれば、アジア人、50歳以上、女性、帯状疱疹の既往歴が、発症リスクとなることが報告されている。

ただ、帯状疱疹の既往歴については、日本人よりも非日本人の関節リウマチ患者で、JAK阻害薬投与後の帯状疱疹発症リスクが高くなることも報告されている。上記を踏まえたうえで、帯状疱疹の既往歴について聴取していくことが重要である。

また、関節リウマチ患者における帯状疱疹の発症は、JAK阻害薬が使用される以前より増加していたことを認識することが重要である。まだJAK阻害薬が承認されていない2007~2010年のデータを集計した米国レセプトデータベースの研究では、5万人超の関節リウマチ患者において、対象となる20歳以上のいずれの年代においても、健常人と比較して帯状疱疹のリスクが2~3倍弱高いことが明らかとなっている。

帯状疱疹ワクチンの効果

がんや帯状疱疹のリスクが高い高齢者にJAK阻害薬を投与する機会が多いことから、ワクチンなどを利用して患者の安全性を担保していくことが重要である。50歳以上または70歳以上で免疫関連疾患を有する成人に対し、帯状疱疹ワクチンの接種を行った試験がある。2か月間隔で2回接種したところ、帯状疱疹発症抑制効果は全体で90.5%、もっとも低い70~79歳の群でも84.4%と高い効果が得られている。

別の報告では、帯状疱疹ワクチンの最初の2回接種から10年後でも、液性免疫応答は接種前の約6倍、細胞性免疫応答は約3.5倍高く保たれていた。さらに、最初の2回接種から10年後にもう1回接種することにより、初回よりも高い特異的免疫誘導効果が得られることも明らかとなっている。

一方で、4回目の接種については顕著な効果が得られないことから、初回の2回接種に加えて、10年後に追加で1回接種するのが現状でもっともよいと考えられる。帯状疱疹ワクチンは決して安価ではないが、10年効果が持続することを考慮し、実際の費用を10で割り1年あたりの負担額を示すなどして患者に説明すると接種率が上がるとも聞く。治療の有効性だけでなく安全性についても、患者とリスクとベネフィットを話し合うことが重要である。

講演のまとめ

  • 抗リウマチ薬は、メトトレキサートを筆頭に生物学的製剤、JAK阻害薬などが登場し、いずれも高い有効性が認められている
  • 生物学的製剤、JAK阻害薬の休薬は難しく、寛解状態を保っている場合のみ、患者と話し合いながら減薬できる可能性がある
  • トファシチニブのORAL Surveillance試験によりその安全性が危惧されたが、試験の内容を精査しながら、結果を慎重に捉えるべきである
  • JAK阻害薬の投与前にがんのスクリーニングを実施することが重要である
  • 関節リウマチで特に帯状疱疹の既往歴がある患者は帯状疱疹発症リスクが高く、投与前に既往歴の有無を聴取することが重要である
  • 帯状疱疹ワクチンの効果が認められており、最初の2回接種から10年後に追加で1回接種することで高い効果が維持できる可能性がある
  • 関節リウマチ治療はSDMを重視して患者とよく話し合いながら進めていくことが大切である

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