2022年11月28日掲載
医師・歯科医師限定

【第59回日本癌治療学会レポート】食道がんにおけるロボット支援手術の現状と展望(1800字)

2022年11月28日掲載
医師・歯科医師限定

国立がん研究センター中央病院 食道外科長

大幸 宏幸先生

ロボット支援手術による食道がん切除は、保険適用となった2018年以降急速に増加している。今後は胸腔鏡手術に代わって、標準治療化されていくだろう。大幸 宏幸氏(国立がん研究センター中央病院 食道外科長)は、第59回日本癌治療学会学術集会(2021年10月21日~10月23日)におけるシンポジウムの中で、食道がんにおけるロボット支援手術の現状と今後の展望について解説した。

食道がんにおける低侵襲手術の変遷

食道がんに対する低侵襲手術の歴史は、1992年に報告された左側臥位による腹腔鏡下食道切除から始まった。2年後の1994年には、腹臥位による胸腔鏡下食道施術が報告されている。特に腹臥位による食道切除は、食道をダイレクトに確認できることが大きなメリットとなり、ブレイクスルーを引き起こした。

低侵襲手術のメリットは、従来の手術と比べて傷や痛みが少なく済むことだ。患者の身体的負担を減らすことで、早期回復が期待できる。手術を担当する医師にとっては、拡大視効果によって解剖学の理解が深まったことで、手術の標準化につながった。

「縦隔同心円状3層構造モデル」を提唱し、この解剖学的コンセプトをもとに手術の標準化を行った。これによって食道がんにおける低侵襲手術の精度が向上し、反回神経麻痺の発生率低下につながったと考えている。

そしてロボット支援手術の時代が訪れた。ロボット支援手術最大のメリットは「Well-Accentuated Space」の一言に尽きる。微細解剖が拡大視されて臓器間の間隙が明瞭に確認できることで、緻密な層切除による食道がん手術が可能だ。臓器間の間隙を確認しながら手術を行うには、絶対的に安定した視野が必要である。従来の胸腔鏡手術では心拍が影響し、安定した視野を得ることが難しい一方で、ロボット支援下手術では同様の心配をする必要がない。

食道がんロボット支援手術の手順とポイント

食道がんにおけるロボット支援手術はおおむね以下の手順で進めている。

1. ティップアップグラスパーに特製のガーゼを把持させて、心臓などvital organを愛護的に圧排して広い視野を確保する。

2. 食道後壁を大動脈より剥離する。

3. 食道前壁の下縦隔リンパ節を郭清後、気管分岐部リンパ節(107)を郭清する。

4. 上縦隔の両側反回神経周囲リンパ節郭清を行う。反回神経に緊張や熱を加えないように愛護的に操作し、反回神経とリンパ節を含んだ周囲組織とのwell-accentuated spaceに沿って神経機能を確実に温存しながら確実にリンパ節郭清を行う。

当院におけるロボット支援手術の手術成績

当院では、2018~2021年3月までの期間で91例にロボット食道切除を行った。当初早期がんを対象に行っていたが、現在は進行がんまで適応を拡大させている。なお、当院では食道がんロボット支援手術のラーニングカーブ変曲点である27例目以降、医療コスト削減とロボット手術への順応を目的として、胃管再建術にもロボット手術を適応させている。

結果として34%にCD1以上の合併症が認められ、反回神経麻痺は29%であった。しかし反回神経麻痺発生率は低下傾向にあり、早期41例における約39%に対して直近50例は約20%と改善がみられている。

ロボット支援手術の完遂率は99%であり、残す1例はT4のため胸腔鏡手術へ移行した。術後在院日数の中央値は13日で、在院中の死亡はない。

手術時間は、当初総手術時間が6時間以上、胸部操作時間3時間以上を要していたが、現在胸部操作時間は1時間半ほどに短縮されており、総手術時間も6時間を切っている。

ロボット支援手術(RETML-4)と胸腹腔鏡下食道切除胃管再建術(TLE)の安全性も比較した。ラーニングカーブが変曲点の27例目以降のロボット支援手術45例と同一術者が同一時期に行った胸腔鏡手術群38例と比較検討を行った。

総手術時間は、ロボット支援手術群が327±55分、胸腔鏡手術群が273±46分であり、胸腔鏡手術群が有意に短い結果だった。しかしながら胸部操作時間に関しては両群共に100分前後と大きな差は認められなかった。合併症などほかの比較項目に有意差は認められず、ロボット支援手術の安全性が示される結果となった。

当院では2018年からロボット支援手術を行っており、2020年は1年間で40例、2021年は56例実施した。日本全体でも、食道がんのロボット支援手術が保険適用となった2018年度以降急速に症例数が増加しており、2020年は700~800件の実施数であった。食道がんにおけるロボット支援手術は近い将来標準治療となり得るだろう。

講演のまとめ

  • ロボット支援手術最大のメリットは、微細解剖が拡大視されて臓器の間隙が明瞭に確認できる点である(well-accentuated space)
  • ロボット支援手術は、胸腹腔鏡下食道切除胃管再建術と同様の安全性が示された
  • 総手術時間はロボット支援手術のほうが有意に長いものの、胸部操作時間に関しては胸腹腔鏡下食道切除術と大差ない結果が示された

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