2022年05月27日掲載
医師・歯科医師限定

【第119回日本内科学会レポート】糖尿病の病態に関する分子生物学的解析、治療薬のメカニズム――開発が進む新たな治療法とは(8800字)

2022年05月27日掲載
医師・歯科医師限定

熊本大学大学院生命科学研究部 代謝内科学 教授

荒木 栄一先生

インスリン発見から約100年が経過し、インスリンの臨床応用やインスリン以外の糖尿病治療薬の開発など、糖尿病診療は大きく進歩した。また、インスリンの生合成・分泌機構や作用機序が分子レベルで解明され、糖尿病の病態や疾患感受性遺伝子の解析も進んできている。

荒木 栄一氏(熊本大学大学院生命科学研究部 代謝内科学 教授)は、第119回日本内科学会総会・講演会(2022年4月15日〜17日)で行われた招聘講演において、糖尿病研究の進歩や糖尿病治療薬の作用機序について解説したうえで、同氏らが取り組んでいる新たな糖尿病治療法の開発状況について紹介した。

インスリンの発見とインスリン療法の始まり

インスリンは1921年に発見され、翌年から1型糖尿病の治療に用いられるようになった。その後1型糖尿病患者の平均余命は著しく改善されたが、糖尿病網膜症・腎症・神経障害といった慢性合併症が新たな問題として浮かび上がった。

そこで、厳格な血糖管理が1型糖尿病の慢性合併症の発症・進展を阻止するのかについて検討すべく行われたのがDCCT(Diabetes control and complications trial)だ。HbA1cは従来療法群(1日1〜2回のインスリン注射)で9%弱、強化療法群(1日3回以上のインスリン注射またはインスリンポンプ療法)では7%強でそれぞれ10年間維持された。その結果、糖尿病網膜症・腎症・神経障害の発症・進展のリスクはいずれも、強化療法群で有意に低下していた。さらに、HbA1cの上昇に応じて慢性合併症の発症リスクが高くなる関係も示され、細小血管障害が血糖値に依存し、発症・進展することが明らかとなった。

2型糖尿病患者において同様の検討を行ったのが、Kumamoto Studyである。強化療法によって良好な血糖コントロールが得られ、慢性合併症の発症・進展リスクも低下する結果が示された。さらに同研究により、HbA1cが6.9%未満、空腹時血糖値が110mg/dL未満、食後2時間血糖値が180mg/dL未満であれば、網膜症・腎症の進行を抑制できる可能性が示唆された。この結果も考慮され、日本糖尿病学会では2013年に熊本宣言として、HbA1c 7.0%未満を合併症予防のための目標値として提唱した。

インスリンの生合成と分泌機構

インスリン遺伝子は、膵β細胞内で転写・翻訳されてプレプロインスリンが合成され、このN末端のシグナルペプチドが切断されてプロインスリンとなる。次に、プロインスリンのA鎖とB鎖との間でジスルフィド結合が形成され、カルボキシペプチダーゼEやプロホルモン転換酵素により切断・分解され、A鎖とB鎖からなるインスリンとCペプチドとが合成され、β顆粒内に貯蔵される。

<インスリンの生合成>

荒木氏講演資料(提供:荒木氏)

食後に血糖値が上昇すると、GLUT2(glucose transporter type 2)を介してグルコースが膵β細胞内に取り込まれ、クエン酸回路で代謝されてATP(adenosine triphosphate)が産生される。細胞内のATP増加に伴いATP感受性Kチャネルが閉鎖して細胞膜の脱分極が起こることで電位依存性Caチャネルが開口し、細胞外から細胞内にCa2+が流入する。この刺激によりβ顆粒が開口分泌し、血液中にインスリンが分泌される。これが、ブドウ糖反応性のインスリン分泌機序(惹起経路)である。さらに食事の栄養素は、小腸のK細胞、L細胞からインクレチンであるGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)とGLP-1(glucagon-like peptide-1)の分泌を促す。インクレチンは、それぞれの受容体を介して細胞内にシグナルを伝え、惹起経路を増幅する機序(増幅経路)としてはたらく。この増幅経路は、血糖値が高いときのみ活性化する。

<インスリン分泌機序とインクレチンの作用>


荒木氏講演資料(提供:荒木氏)

インスリンの作用機序

インスリン受容体は、αとβのサブユニットが2つずつ結合したヘテロ4量体構造を持つ。インスリンがαサブユニットに結合すると、細胞内にあるβサブユニットのチロシンキナーゼが活性化され、細胞内基質のIRS(insulin receptor substrate:インスリン受容体基質)-1および2などがチロシンリン酸化を受ける。IRSにはチロシンリン酸化可能部位が散在しており、チロシンリン酸化によって各々にさまざまなシグナル伝達タンパクが結合することで、多様なインスリン作用が発現される。

たとえば、あるチロシンリン酸化部位にはGrb2(growth factor receptor-bound protein2)/SOS(son on sevenless)が結合し、MAP(mitogen-activated protein)キナーゼ経路を活性化してインスリンの増殖作用が伝達される。また、他のチロシンリン酸化部位にはPI-3(phosphatidylinositol 3)キナーゼが結合し、グリコーゲン合成の促進、糖新生の抑制、糖取り込みの亢進といったインスリンの代謝作用が伝達される。これらの機序により、インスリンは種々の標的臓器において、多様な作用を発現して血糖値を調整する。

<細胞内インスリン作用伝達経路>


荒木氏講演資料(提供:荒木氏)

2型糖尿病の成因

2型糖尿病は、インスリン分泌の障害(インスリン分泌不全)とインスリン作用の障害(インスリン抵抗性)が相まって発症する。インスリン抵抗性は肥満や過栄養、身体運動低下、糖毒性、慢性高インスリン血症などによって引き起こされることが分かっている。

脂肪細胞はさまざまな生理活性物質を分泌する。そのうち、大型の脂肪細胞は遊離脂肪酸やTNFα(tumor necrosis factorα)などを分泌し、これらがインスリン作用を障害してインスリン抵抗性をもたらす。一方で、小型の脂肪細胞からはアディポネクチン分泌が多く、インスリン作用の改善にはたらく。すなわち、小型の脂肪細胞はインスリン感受性を改善に導き、脂肪細胞が肥大化するとインスリン抵抗性が悪化する。

TNF αはインスリン標的臓器でTNF α受容体と結合し、SOCS(suppressor of cytokine signaling)経路、JNK(c-Jun N-terminal kinase)・IKK(inhibitor kappa B kinase)経路、セラミドの活性化を介し、インスリン受容体によるチロシンリン酸化やGLUT4(glucose transporter type4)の細胞膜への移行を抑制する。また、酸化ストレスや小胞体ストレスも、ストレス誘導酵素の代表であるJNKを活性化し、IRS-1のセリンリン酸化を促してインスリン受容体によるチロシンリン酸化を阻害する。脂肪酸の増加に伴い活性化されたプロテインキナーゼCも、IRSやインスリン受容体のセリンリン酸化を促し、同様にインスリン受容体によるチロシンリン酸化を阻害する。このような機序で、インスリン抵抗性が生じる。

<インスリン抵抗性の機序>


荒木氏講演資料(提供:荒木氏)

膵β細胞においても、酸化ストレスによりJNKが活性化される。その結果、転写因子のFoxO1(Forkhead box transcription factor O1)が核内に移行し、インスリンやグルコキナーゼなどβ細胞機能に重要な遺伝子の発現を調整している転写因子のPdx-1(Pancreas duodenum homeobox 1)が核外に追いやられ、β細胞機能が低下することも分かってきた。

また小胞体ストレス応答経路が、インスリン抵抗性やインスリン分泌不全と関係することも報告されている。細胞小器官の小胞体は、タンパクの合成・品質管理を行う。折りたたみ不全タンパクが小胞体内で増加すると、それを排除するために折りたたみ不全タンパクを正常化する小胞体シャペロンの転写が誘導される。そして、新たなタンパクが合成されないようにmRNAの翻訳が抑制され、折りたたみ不全タンパクを分解する経路(小胞体関連分解)も活性化される。さらに、小胞体ストレスが過剰に加わると、CHOP(C/EBP-homologous protein)という転写因子が誘導され、アポトーシスが起きて細胞全体が排除される。

2型糖尿病患者の膵β細胞では、インスリン抵抗性に伴いインスリン産生が代償性に増加する。その結果、折りたたみの悪いプロインスリンが増加して過剰な小胞体ストレスを生じ、最終的にアポトーシス、β細胞障害に至ることが仮説として考えられている。

2型糖尿病の疾患感受性遺伝子に関する研究も進んでいる。遺伝子変異を全ゲノム領域にわたって関連解析するGWAS(genome wide association study)によって、2型糖尿病の発症リスクを規定する遺伝子が数多く同定されている。なお、これらの遺伝子は単独で糖尿病発症に及ぼす影響は小さく、複数の遺伝子変異が重なることで発症リスクを規定していると考えられている。

実際に、インスリン抵抗性の指標であるHOMA-IR(homeostasis model assessment of insulin resistance)を横軸、インスリン分泌能の指標であるHOMA-β(homeostasis model assessment of βcell)を縦軸とし、2型糖尿病の疾患感受性遺伝子をプロットした研究では、インスリン抵抗性、インスリン分泌不全、あるいはその両方に関係する遺伝子がそれぞれ存在することが示されている。また疾患感受性遺伝子には、民族によらず共通のものと、民族特有のものが認められている。さらに、2型糖尿病の発症リスクを推定するPRS(polygenic risk score)も提唱されている。これは、2型糖尿病の発症と関連する遺伝子型の個数と、それぞれの疾患感受性遺伝子のリスク上昇率(オッズ比)とを掛け合わせて合計し、発症リスクを求めるものである。実際にPRSの上昇に従い、2型糖尿病の有病率が高まること、カットオフ値の設定により高い確率で2型糖尿病の発症リスクを推定できることが報告されている。

2型糖尿病の発症に関与する環境因子では、肥満・過食・高脂肪食・ストレス・加齢といった古典的なものに加え、エピゲノム、母体の肥満、出生時体重、嗜好品、睡眠、運動、腸内細菌なども挙げられている。2型糖尿病の成因である環境因子・遺伝因子を明らかにすることで発症リスクの推定と発症予防法の確立につながり、新たな糖尿病治療標的の同定も期待できる。

糖尿病治療薬の作用機序

2型糖尿病の血糖降下薬は、インスリン分泌非促進系、インスリン分泌促進系、インスリンの3つに分けられる。インスリン分泌非促進系にはビグアナイド薬、チアゾリジン薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬が含まれる。インスリン分泌促進系は血糖依存性と血糖非依存性に分けられ、前者はDPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬、いわゆるインクレチン関連薬であり、後者にはSU薬と速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)がある。

ビグアナイド薬「メトホルミン」の作用機序

ビグアナイド薬であるメトホルミンは、肝臓における糖新生抑制、脂肪組織や骨格筋におけるインスリン抵抗性の改善、小腸における糖吸収抑制など多面的な作用機序を持つ。その主要なメカニズムの1つに、AMP(Adenosine monophosphate)キナーゼの活性化がある。

メトホルミンはOCT1(organic cation transporter 1)を介して細胞内に取り込まれ、ミトコンドリアの呼吸鎖Complex Iを阻害する。これによってATPが減少してAMPが増加し、AMPキナーゼが活性化される。その結果、肝臓で糖新生抑制、脂肪酸β酸化の亢進、脂肪酸の合成抑制が生じる。一方でAMPキナーゼ活性以外の経路もいくつか報告されている。たとえば、肝細胞におけるAMPの増加がアデニル酸シクラーゼ活性を低下させ、グルカゴンのシグナルを抑制する。その結果、グルカゴンによる糖新生系の酵素の発現を抑え、AMPキナーゼとは独立した機序で、肝臓における糖新生を抑制するというものだ。

そのほか、メトホルミンによる小腸からのシグナルが、延髄孤束核を経て迷走神経遠心線維を活性化し、肝臓での糖産生を抑制するという報告や、低用量のメトホルミンがライソゾームのプロトンポンプであるvATPase(vacuolar adenosine triphosphatase)活性を阻害することで、ミトコンドリアを介さずにAMPキナーゼを活性化するという報告が、それぞれ基礎研究の結果として示されている。

チアゾリジン誘導体の作用機序

チアゾリジン誘導体の標的分子はPPARγ(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor γ)である。チアゾリジン誘導体がPPARγに結合すると、特定のDNAに対する転写活性が上昇し、種々の遺伝子発現が誘導される。その結果、大型の脂肪細胞が減少し、小型の脂肪細胞が増加することでアディポサイトカインが変化する。また脂肪酸代謝に関与する分子にも変化が起こる。このような機序でインスリン抵抗性が改善すると予想されている。

αグルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬の作用機序

αグルコシダーゼ阻害薬は、小腸において二糖類から単糖類への分解を阻害し、糖吸収を緩やかにして食後の血糖上昇をなだらかにする。SGLT2阻害薬の作用部位は腎尿細管である。通常、糸球体でろ過されたグルコースのうち、近位尿細管のSGLT2で約90%、SGLT1で約10%が再吸収される。SGLT2阻害薬は糖再吸収を阻害して尿糖を増やし、血糖値を下げる効果がある。

インスリン分泌促進系薬の作用機序

SU薬、グリニド薬は、膵β細胞においてATP感受性Kチャネルに結合し、血糖非依存性に惹起経路を活性化してインスリンを分泌させる。一方でインクレチン関連薬のDPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬は、増幅経路を活性化して血糖依存性にインスリンを分泌させる作用を持つ。

新たな糖尿病治療薬であるイメグリミンは、メトホルミンと構造式が類似している。作用機序もメトホルミンと同様、ミトコンドリアの呼吸鎖Complex Iを阻害し、肝臓での糖新生を抑制することでインスリン抵抗性を改善させる。それに加え、膵β細胞において細胞内カルシウムイオン濃度を増加させ、ブドウ糖依存性のインスリン分泌促進作用も有している。

糖尿病の成因解明や治療法開発に関する取り組み

最後に、生活習慣への集団介入(田原坂スタディ)、褐色脂肪細胞の活性化、ミトコンドリア由来活性酸素の制御、Heat shock protein 72(HSP72)の誘導に関する当科の研究成果を紹介する。

田原坂スタディ――メタボリックシンドローム予備軍に対する生活習慣介入試験

田原坂スタディは、熊本県植木町の住民における生活習慣病改善のための集団介入の有効性を検討した研究である。全人口約3万人(2002年当時)のうち2,986人の健診データを解析し、耐糖能異常・脂質異常症・高血圧・肥満のいずれか1つ以上を有した417名をピックアップし、同意の得られた137名を対象とした。

この対象者を、まったく介入しないコントロール群、月に1回ずつ4か月間講義中心の介入を行った標準介入群、標準介入後に月に1回ずつ集団運動指導を行った延長介入群の3つに分け、介入終了時(10か月後)、介入終了1年後(22か月後)、介入終了2年後(34か月後)まで追跡した。

その結果、BMIはコントロール群では変化がなかったが、標準介入群および延長介入群では有意な減少を認め、介入終了2年後まで維持されていた。さらにメタボリックシンドロームを構成する因子の数も、コントロール群では経時的に増加する一方、標準介入群と延長介入群では因子数の増加が抑制されていた。これらの結果より、専門家による集団への介入がメタボリックシンドローム危険因子を改善し、その効果が少なくとも2年間は持続することが示された。

褐色脂肪細胞の活性化

脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞があり、カロリー消費を行う褐色脂肪細胞の活性化により、代謝が高まり体重が減少することが期待される。脂肪細胞でのインスリン作用を特異的に阻害したマウスとコントロールのマウスの血清タンパクを比較し、褐色脂肪細胞を活性化する因子を同定してBAF(Brown adipocyte activation factor)と名付けた。

今後、BAFが褐色脂肪細胞を活性化するメカニズムや、BAFと白色脂肪細胞のベージュ化(褐色脂肪細胞と同様に熱産生を行うベージュ脂肪細胞への移行)の関連について検討することで、肥満や糖尿病の治療薬開発に役立つことが期待される。

ミトコンドリア由来活性酸素の制御

高血糖により増加したミトコンドリア由来活性酸素種は、糖尿病合併症の成因の1つであることが提唱されている。ミトコンドリア由来活性酸素種のマーカーである尿中8-OHdGは、日本人2型糖尿病患者においてHbA1cと有意に正相関し、網膜症・腎症・大血管障害の合併により上昇していると報告している。

そこで、ミトコンドリア由来活性酸素を除去する酵素であるMnSOD(Manganese superoxide dismutase)を血管内皮に発現させた糖尿病マウスにおいて、合併症に関する検証を行った。すると、糖尿病を誘発しても尿中8-OHdGが上昇せず、糖尿病網膜症に関与するVEGF(vascular endothelial growth factor)の発現が抑制され、血管新生を生じづらいことが分かった。さらに、メトホルミンやピオグリタゾンは、遺伝子転写を制御するPGC-1αを活性化し、MnSODやミトコンドリア数を増加させることが明らかになった。これらの糖尿病治療薬は血糖降下作用に加えて、ミトコンドリア由来活性酸素種を減少させ、糖尿病合併症を抑制することが予測された。

Heat shock protein 72(HSP72)の誘導

熱によって発現誘導されるシャペロンのHSP72は、ストレス誘導酵素であるJNKの活性を抑制する作用を持つ。我々は温熱と同時にパルス状直流電流を加えるMET療法により、HSP72が強く誘導されることを明らかにし、糖尿病治療への活用について検討している。

たとえば、糖尿病モデルの高脂肪食負荷マウスでは、MET療法により空腹時・糖負荷後血糖値の低下、インスリン感受性の改善、内臓脂肪の減少、肥満に伴うアディポネクチンの減少抑制を認めている。また、肝臓ではPI-3キナーゼ活性が高まり、インスリン受容体のリン酸化が増えて、下流のシグナルが回復していることも示された

また、健常人において安全性を確認した後、肥満の2型糖尿病患者においてもMET療法を行ったところ、内臓脂肪の減少、血圧低下、インスリン抵抗性の改善、高感度CRPなど慢性炎症を示唆するパラメーターの低下、アディポネクチンの上昇が認められた。さらにMET療法の頻度を増やすと、回数依存性に内臓脂肪面積が減少し、HbA1cが低下する結果も得られた

MET療法前後での末梢血の単球を解析した結果、ストレス誘導酵素の発現を活性化する転写因子のNF-κBの減少とHSP72の増加、またAMPキナーゼは活性化し、JNK活性は低下していることが確認された。さらに炎症性マーカーのmRNAも減少していた。健常男性やメタボリックシンドロームを有する男性においても、同様の結果が得られている。以上より、MET療法は内臓脂肪を減少させてインスリン抵抗性を改善させる効果、抗炎症効果、血糖改善効果を有することが期待される。

講演のまとめ

  • インスリンの分泌機構には惹起経路と増幅経路がある
  • SU薬とグリニド薬は血糖非依存性に惹起経路を活性化してインスリンを分泌させ、インクレチン関連薬のDPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬は、増幅経路を活性化して血糖依存性にインスリンを分泌させる
  • インスリン作用は、受容体のチロシンキナーゼが活性化し、細胞内基質がチロシンリン酸化することで伝達される。このプロセスがTNF-α・酸化ストレス・小胞体ストレスなどにより阻害されると、インスリン抵抗性を生じる
  • ビグアナイド薬であるメトホルミンの作用には、肝臓における糖新生抑制、脂肪組織や骨格筋におけるインスリン抵抗性の改善、小腸における糖吸収抑制などがある。その主要なメカニズムとして、AMPキナーゼの活性化が挙げられる
  • チアゾリジン薬の誘導体は、PPARγに結合すると、大型の脂肪細胞が減少して小型の脂肪細胞が増加し、アディポサイトカインが変化してインスリン抵抗性が改善する
  • αグルコシダーゼ阻害薬は、小腸からの糖吸収を緩やかにする
  • SGLT2阻害薬は尿細管からの糖再吸収を阻害して尿糖を増やし、血糖値を下げる
  • イメグリミンはメトホルミンと同様に、肝糖新生抑制作用によるインスリン抵抗性改善効果を有するほか、膵β細胞におけるブドウ糖依存性のインスリン分泌促進作用も持つ
  • 生活習慣への集団介入に加え、褐色脂肪細胞の活性化、ミトコンドリア由来活性酸素の制御、HSP72の誘導など、糖尿病や合併症の成因解明や治療法開発を進めており、これらの臨床応用が期待される

会員登録をすると、
記事全文が読めるページに遷移できます。

会員登録して全文を読む

医師について

新着記事