2022年09月22日掲載
医師・歯科医師限定

【第59回日本癌治療学会レポート】RET融合遺伝子陽性肺がんに対する治療開発の現状と課題――臨床試験の症例を踏まえて(2300字)

2022年09月22日掲載
医師・歯科医師限定

鳥取大学医学部附属病院 呼吸器内科・膠原病内科 特任助教

阪本 智宏先生

RET融合遺伝子陽性肺がんは、非小細胞肺がんの1〜2%程度にみられる稀少な事例だ。複数の症例を集めるために大規模スクリーニングが必要なことから、LC-SCRUMという基盤を利用して治療開発が行われている。鳥取大学医学部附属病院 呼吸器内科・膠原病内科 特任助教の阪本 智宏氏は、第59回日本癌治療学会学術集会(2021年10月21~23日)で行われたシンポジウムの中で、RET融合遺伝子陽性肺がんに関する治療開発の現状と課題について講演を行った。

RET融合遺伝子の概要

RET融合遺伝子は、肺がんにおける重要なドライバー遺伝子異常の1つだ。RETKIF5BCCDC6などのパートナーと融合することで、異常タンパク質の転写や翻訳が促進されることが分かっている。生じた異常タンパク質は二量体を形成し、細胞内チロシンキナーゼドメインをリン酸化する。最終的には細胞の異常増殖が引き起こされる。

RET融合遺伝子の頻度は、非小細胞肺がんの1~2%程度だ。ALKよりは少なく、ROS1BRAFと同じかやや多い程度の発現頻度である。非常に稀少なドライバー遺伝子異常といえるだろう。

RET融合遺伝子陽性非小細胞肺がんの臨床試験

RET融合遺伝子陽性肺がんはまれなケースであることから、複数の症例を集めるには大規模なスクリーニングが必要だ。そこで現在、LC-SCRUMという基盤を利用した治療開発が行われている。

LC-SCRUM関連施設では、RET融合遺伝子陽性非小細胞肺がん対象のバンデタニブPhase2試験(LURET試験)が実施された。LURET試験には19例がエントリーされ、奏効割合が47%、病勢制御割合が90%、無増悪生存期間中央値が4.7か月という一定の有効性がみられている。

阪本氏講演資料(提供:阪本氏)

なおLURET試験以外にも複数の薬剤で検討が行われたものの、LURET試験以上によい奏効割合を示すものはなかった。検討に使用された薬剤のRET選択性が低かったためと考えられる。

阪本氏講演資料(提供:阪本氏)

RET選択性の高い薬剤が望まれていたところ、セルペルカチニブおよびプラルセチニブという2種類の薬剤が登場した。RET異常を有する固形腫瘍を対象としたセルペルカチニブのPhase1/2試験として、LIBRETTO-001試験の結果が報告されている。

RET融合遺伝子陽性肺がん症例では、既治療例で64%、未治療例で85%という高い奏効率を示した。少数ではあるものの、頭蓋内奏効も期待される報告がある。同様のデザインで実施されたプラルセチニブのPhase1/2試験(ARROW試験)では、既治療例で61%、未治療例で70%の奏効割合を示した。

RET融合遺伝子陽性肺がん症例に対するセルペルカチニブの奏効率

 Drilon A et al. N Engl J Med. 2020 Aug 27;383(9):813-824.より引用 

プラルセチニブは現時点で国内承認の動きはないが、セルペルカチニブは2021年9月27日に承認されている。

鳥取大学におけるLIBERTTO-001試験の症例――過敏症を生じた例

患者は54歳女性。PS0であり日常生活は制限なく送れている方。他院でステージ3Aの肺腺がんと診断され、化学放射線治療後にデュルバルマブによる維持療法を受けていた。しかし再発が見つかり、当院に紹介となった。

治療選択のためのスクリーニングでRET融合遺伝子の陽性が判明し、LIBERTTO-001試験に参加。セルペルカチニブを投与開始後、2週間で軽度の肝機能障害と血小板減少が現れた。減量はせず慎重に投与を継続していたものの、2週間後に発熱。肝機能障害と血小板減少が増悪していたため、一度休薬した。

休薬後に症状が改善したタイミングで、用量を減量して投与再開。治療効果が十分にみられていたため、肝機能障害と血小板減少が改善した後も減量後の用量で継続している。

結果としてセルペルカチニブは奏効したが、経過中に過敏症を疑う所見がみられた症例だった。

阪本氏講演資料(提供:阪本氏)

セルペルカチニブの過敏症は全症例の5%程度にみられ、発現時期は開始早期が多い。主な症状として以下が挙げられる。

・関節痛や筋肉痛を伴う発熱

・斑状丘疹状皮疹

・ALTまたはASTの上昇

・血小板減少

また、まれではあるが血圧低下や頻脈、クレアチニン増加などの症状が現れることもある。

過敏症を疑う症状が現れた場合は、第一に休薬する必要がある。その後、症状の程度や回復度合いに応じてステロイドを使用する。回復後はセルペルカチニブを減量して再開し、再発しなければ再増量も可能である。

セルペルカチニブの診断薬

セルペルカチニブのコンパニオン診断システムは、現在「オンコマインDx Target Test」のみだ。これは肺がんに関連する5つのドライバー遺伝子(EGFR、ALK、ROS1、BRAF、RET)を同時に検査できるマルチ遺伝子検査である。検査方法は患者に合わせて選択するが、以下の理由から、基本的には治療前にできる限り多くのドライバーを調べる必要があると考えている。

・さまざまな遺伝子変異が発見され、それらに対する分子標的薬が開発されている

・セルペルカチニブに対する耐性変異がすでに報告されている

セルペルカチニブに対する耐性機序

セルペルカチニブに対する耐性機序について主に報告されているのは、Solvent front(薬剤の結合部位の入り口に当たる部分)の変異やMET過剰発現によるものだ。METの過剰発現については、MET阻害活性を示すクリゾチニブとの併用により耐性を克服できたというデータが得られている。

阪本氏講演資料(提供:阪本氏)

標的治療の宿命といわれる耐性の克服は、RETでも同様の課題といえるだろう。

講演のまとめ

  • 選択的阻害薬が開発されたことで、RETは治療可能なドライバーになった
  • セルペルカチニブの高い有効性を生かすために、過敏症を含む有害事象のマネジメントが必要である
  • 進行非小細胞肺がんの治療前には、遺伝子異常によるものも考慮してマルチ遺伝子検査を用いた事前スクリーニングを行うことが重要だ

会員登録をすると、
記事全文が読めるページに遷移できます。

会員登録して全文を読む

医師について

新着記事