2022年09月30日掲載
医師・歯科医師限定

【第74回日本胸部外科学会レポート】局所進行胸部食道がんの集学的治療戦略――T3-T4ボーダーライン症例、T4症例に対する治療戦略と検証結果(2500字)

2022年09月30日掲載
医師・歯科医師限定

がん研有明病院 副院長/食道外科部長/消化器外科部長

渡邊 雅之先生

局所進行胸部食道がんのT3とT4のボーダーライン症例に対し、より有効性の高い導入化学療法を検証すべく臨床試験が進行中だ。またT4症例では、化学放射線療法(chemoradiotherapy:CRT)後の遺残・再燃に対してサルベージ療法を行うが高いリスクを伴う。しかし症例によっては、サルベージ手術を行うことで長期生存が期待できるケースもあるという。今後、局所進行胸部食道がんの治療戦略はどのように変わっていくのだろう。がん研有明病院 副院長/食道外科部長/消化器外科部長の渡邊 雅之氏は、第74回日本胸部外科学会定期学術集会(2021年10月31日~11月3日)において「局所進行胸部食道癌に対する集学的治療戦略」と題し、実際の症例をまじえながらがんの進行度合いによる治療戦略の違いについて講演を行った。

T3-T4ボーダーラインの症例に対する治療戦略

局所進行胸部食道がんは周囲縦隔の重要臓器に浸潤する性質があり、浸潤の程度によって治療戦略が異なる。進行度でみると、明らかなT4のものはCRTが適応となり、T3と考えられるものは術前化学療法を行ったうえで手術を目指す。T3とT4の間のボーダーライン(明らかなT4とはいえないまでも縮小が得られないと切除が難しい症例など)に対しては、導入化学放射線療法(Induction CRT)を行う。

導入化学放射線療法――自施設における検討

我々もボーダーラインの症例に対して導入化学放射線療法を実施してきた。具体的な内容は、40グレイの放射線療法とCF療法(5-FU+シスプラチン療法)2コースによるCRTを行い評価する。評価時点で切除可能と判断されれば手術し、切除不能であれば再度CRTの後サルベージ療法を行う、というものだ。

この治療戦略で、2005〜2018年まで50例を治療している。切除可能になった症例は50例中27例(54%)で、うち22例(全症例の44%)は腫瘍を完全に切除できた。腫瘍が完全に消失した完全寛解 (complete remission: CR)は10%であった。一方で23例は切除に至らず、うち19例では局所障害、3例では遠隔転移、1例では瘻孔が生じた。

全生存期間(Overall survival:OS)をみると、50例全例の中央値(Median Survival Time:MST)が1.6年であり、厳しい結果といえるだろう。完全切除できた群はできなかった群と比較して予後は良好(ハザード比0.29)であるが、完全切除できた群でも2〜3年以内に再発するケースが多い。なお、再発の多くは遠隔転移であった。

渡邊氏講演資料(提供:渡邊氏)

完全切除できなかった症例を多変量解析したところ、術前のSCC抗原腫瘍マーカーが高値であることと、リンパ節転移陽性であることの2点が、完全切除できない予測因子と考えられた。また、長期予後に関する多変量解析でも、予後不良の予測因子として術前のSCC抗原腫瘍マーカーが含まれていた。

COSMOS trial

DCF(5-FU+シスプラチン+ドセタキセル)による導入療法の著効例は、治療前に切除困難とされていた病変であっても手術可能になるケースがある。そこで、切除不能あるいはボーダーラインの症例に対して導入DCF療法を実施し、切除可能に変化した場合には外科切除へ変更する多施設共同前向き第II相試験(COSMOS trial)が行われた。

結果は生存期間中央値が33.8か月と比較的良好で、特に完全切除が施行できた症例の生存率は非常に良好であった。現在はCOSMOS trialで実施された戦略の有効性を検証するための第III相試験であるJCOG1510試験が進行中であり、結果が待たれる。

T4症例に対する治療戦略

根治的CRTはT4症例においても効果を期待できる治療戦略であるが、遺残・再燃に対してはサルベージ手術が必要である。しかしサルベージ手術は、合併症や死亡率の高い非常にハイリスクな手段である。

症例紹介――T4で根治的CRT後、再燃に対して完全切除に至った症例

胸部上中部食道の3型病変の一例を示す。気管、気管支さらには大動脈にも一部接しており、左の反回神経周囲のリンパ節が大きく腫れていて、声帯麻痺があった症例である。根治的CRTの効果は比較的良好であったが、11か月目に局所の再燃を認めた。FDG-PET検査を行うと、食道内に限局したFDGの集積を認めたがリンパ節に集積はなく、がんが食道に限局したものだと確認できたため、手術に踏み切った。手術によって完全切除ができ、術後2年半が経過した現在でも再発はみられていない。

渡邊氏講演資料(提供:渡邊氏)

解析結果

我々は、1988〜2017年の間にT4の症例36例に対してサルベージ手術を行った。短期成績をみると、Clavien-Dindo分類にてIIIb以上の重症例は22%、術後の死亡は8.3%と、以前の成績と比べ改善傾向だ。完全切除は55%に実施できた。

長期成績はMSTが8.7か月となった。ただし完全切除が施行できると、T4の症例であっても長期生存が認められる。なお、術後に肺炎を生じた症例は極めて予後不良であった。

渡邊氏講演資料(提供:渡邊氏)

多変量解析の結果は、病理学的にT3、T4であった症例は予後不良だ。術後の肺炎は独立した予後不良因子であることも示された。また、長期生存のためには完全切除が必須であることも明らかになった。

サルベージ前時点での予測因子を知るため、クリニカルファクターでの多変量解析も実施している。T3やT4、リンパ節転移陽性は非常に予後不良であり、T1やT2、リンパ節転移がクリニカルにないものが、長期生存を期待してサルベージに臨める症例ではないかというふうに考えている。

講演のまとめ

  • T3とT4のボーダーライン症例に対して、導入DCF療法の有効性が検討されている
  • T4症例に対しても根治的CRTは効果が期待できるが、遺残や再燃の症例ではサルベージ手術が必要となる
  • サルベージ手術は合併症や死亡率の高い手術だが、完全切除によって長期生存が期待でき、サルベージ前時点での予後予測因子についても明らかになりつつある

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