2022年10月26日掲載
医師・歯科医師限定

【第65回日本腎臓学会レポート】分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害薬による腎障害の対策(2900字)

2022年10月26日掲載
医師・歯科医師限定

名古屋大学医学部附属病院 化学療法部 部長(教授)

安藤 雄一先生

現在日本腎臓学会では、日本癌治療学会・日本臨床腫瘍学会・日本腎臓病薬物療法学会と合同で「がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016」の改訂作業が行われている。改訂版では、11のCQ(Clinical Question)とその推奨文、ならびに4つのGPS(Good Practice Statement)、16の総説が記される予定だ。安藤 雄一氏(名古屋大学医学部附属病院 化学療法部 部長(教授))が、第65回日本腎臓学会学術総会(2022年6月10日~12日)において、ガイドライン改訂案の第3章にあたる「がん薬物療法による腎障害への対策」について解説した。

※本改訂案は、パブリックコメント(2022年7月10日受付締切)やその後の検討により、内容が変更される可能性があります。

※「がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2022」は、2022年11月発行予定です。

総説10:血管新生阻害薬・マルチキナーゼ阻害薬による蛋白尿、腎機能障害、高血圧への対策

蛋白尿は頻度が高い有害事象のひとつであり、時には血清クレアチニン値上昇などの腎機能障害を生じる。ネフローゼ症候群(nephrotic syndrome:NS)への進展リスクもあるため、血管新生阻害薬やマルチキナーゼ阻害薬を投与する際には、蛋白尿と血清クレアチニン値のモニタリングが重要である。また、CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events、有害事象共通用語規準)ver 5.0 における Grade 3以上、またはこれらの薬物以外に起因する腎機能障害の合併が疑われる場合には、腎臓内科への紹介を考慮する。

高血圧も高頻度に生じる有害事象である。時に心血管疾患や腎機能障害、心不全など重篤な合併症の誘因となるため、循環器専門医と綿密に連携し対処する必要がある。降圧目標は、高血圧治療ガイドライン2019で示されている最高血圧140mmHg/最低血圧90mmHgを目安にするとよいだろう。血管新生阻害薬による血圧上昇の主な機序は、血中におけるNO産生の低下である。そのため降圧薬は、NO産生を亢進するACE阻害薬やARBなどのRAS阻害薬を第一選択とし、降圧が不十分な場合にはCa拮抗薬を併用、両薬の併用によっても効果不十分な場合はβ遮断薬、硝酸薬、利尿薬などの追加や原因薬物の休薬を検討する。

総説11:ネフローゼ、蛋白尿を有する患者へのがん薬物療法

血管新生阻害薬の投与に際しては、治療開始前の尿蛋白(2g/day以上)は治療開始後のNSや血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)のリスク因子となり得ると指摘されている。血管新生阻害薬によるTMAは腎限局性・非用量依存性であり、発症時期が多岐にわたることが特徴である。

また、蛋白尿により低アルブミン血症が生じると、薬物の蛋白結合率が低下し体内動態が大きく変動する。しかし、その変動が薬物の有効性や安全性に影響を及ぼす程度についてのデータは限定的であるため、対策として定期的な副作用モニタリングを提案する。投与を中止しても蛋白尿が持続する場合などは、TMA評価を目的として腎生検の適応を考慮する必要もあるだろう。

これらに関連するCQとして、ガイドラインでは以下2つのCQが掲載される予定である。

  • CQ7:蛋白尿を有する、または既往がある患者において血管新生阻害薬の投与は推奨されるか?
  • CQ8:抗EGFR抗体薬の投与を受ける患者が低Mg血症を発症した場合、Mgの追加補充は推奨されるか?

総説12:免疫チェックポイント阻害薬による腎障害への対策

2022年6月現在、本邦では6種の免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)が承認されている。近年、各薬剤の適応拡大によりさまざまながん種がICIの適応となったほか、ICIの2剤併用や化学療法・分子標的薬との併用など、さまざまなエビデンスが蓄積され臨床で用いられている。一方、併用療法の増加により、これまで発現率の低かった副作用の増加、発現時期の早期化や重症化につながる危険性もある。

免疫関連有害事象(immune-related adverse event:irAE)とは、ICI投与時に発現する免疫の再活性化に伴う有害事象である。全身のさまざまな器官や臓器が標的となり、中には重篤な症状を呈することもあるため注意が必要だ。ICI投与時には、常にirAE発現の可能性を念頭に置く必要がある。

ICI関連腎障害患者138例と対照患者276例を対象とした後ろ向き研究によれば、ICIの2剤併用やプロトンポンプ阻害薬の投与、ベースライン時における腎機能障害などがirAEによる急性腎障害(acute kidney injury:AKI)発現のリスク因子であったと報告されている。投与開始からAKI発現までの期間は14週(中央値)であった。

ICI治療中の腎障害に関しては、原因の鑑別診断が重要だが、確定診断は腎生検によってのみ行うことが可能である。しかし、がん患者における腎生検の安全性を検証したデータは限定的であり、本邦における明確な指針は示されていない。また、irAEは免疫の再活性化によるものであるため、治療には免疫抑制薬としてステロイド薬を使用し、遷延する場合にはほかの免疫抑制薬を併用する。ステロイドパルス療法の効果も報告されているが、投与量を含め確立されたものはない。

米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology:ASCO)のガイドラインでは、Grade 1に該当する軽症例ではモニタリングを行いながらICI投与を継続する。Grade 2以上では投与を中断してステロイド薬投与を行い、重症度に応じてステロイド薬の用量を調節する。Grade 1程度まで症状が回復した場合にはICIの再投与を検討するが、改善がみられない場合は免疫抑制薬の投与を検討する。なおGrade 4に関しては、ホルモン補充療法によりコントロールされている内分泌障害を除き、ICIを永続的に中止する必要があるとされている。日本臨床腫瘍学会欧州臨床腫瘍学会のガイドラインもおおむね同様の方針である。

安藤氏講演資料(提供:安藤氏)/Schneider BJ, et al. J Clin Oncol. 2021 20; 39(36): 4073-4126.

これらに関連するCQとして、ガイドラインでは以下2つのCQが掲載される予定である。

  • CQ9:免疫チェックポイント阻害薬による腎障害の治療に使用するステロイド薬の投与を、腎機能の正常化後に中止することは推奨されるか?
  • CQ10:免疫チェックポイント阻害薬投与に伴う腎障害が回復した後、再投与は治療として推奨されるか?

まとめ

本講演のポイントは以下のとおりである

  • 血管新生阻害薬、マルチキナーゼ阻害薬投与中は、血圧や腎機能のモニタリングを行い、各専門医と綿密な連携を取ることが求められる
  • ICI投与中はirAE発現の可能性を常に念頭に置き、発現した場合は症状に応じてICIの休薬やステロイド薬投与を検討する
  • ICIによる腎障害が回復した後は、リスクとベネフィットを十分に検討したうえで、ステロイド薬中止やICI再投与を考慮する

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