2022年09月22日掲載
医師・歯科医師限定

【第59回日本癌治療学会レポート】泌尿器科ロボット支援手術の現状と未来――次世代教育の課題(2700字)

2022年09月22日掲載
医師・歯科医師限定

国立がん研究センター東病院 泌尿器・後腹膜腫瘍科 科長

増田 均先生

患者への根治性を担保した低侵襲手術の提供、術者への高い操作性の提供の双方からロボット支援手術の需要が高まっている。特に泌尿器科での悪性腫瘍手術は次々とロボット支援手術に置き換わっており、全てがロボット支援手術となる時代が間近に迫っている。国立がん研究センター東病院 泌尿器・後腹膜腫瘍科長の増田 均氏は、第59回日本癌治療学会学術集会(2021年10月21~23日)のシンポジウムにて、泌尿器科におけるロボット支援手術の現状と課題について講演を行った。

ロボット支援手術の現状と進歩――国産ロボットへの期待

当科におけるロボット支援手術の件数は急増しており、2017年度の36件から2020年度には242件となった。2021年現在、前立腺全摘除術、膀胱全摘除術、腎部分切除術の3術式がロボット支援手術の対象である。今後対象術式は拡大し、泌尿器の悪性腫瘍手術は、全てがロボット支援手術で行う時代が到来しつつあるのだ。

ロボット支援手術において、注目されているのが、2021年に開発された国産の手術支援ロボット「hinotori」だ。日本人の体型にマッチすること、AI(人工知能)や5G(第5世代移動通信システム)などの技術と組み合わせて使用する際に国内メーカーと連動しやすいことが利点だ。

一方、手術支援ロボット「 ダ・ヴィンチ」は、鉗子を入れるポートが1個のみというシングルポート型の「ダ・ヴィンチSP」が新たに発売される予定だ。ただし現時点で使用されている「ダ・ヴィンチXi」のリモデルやアップデートなどで対応できないため再度購入する必要があるという問題がある。

泌尿器科のロボット支援手術はここ数年急激に進歩した。当科も含めたハイボリュームセンターでは、膀胱全摘後の尿路変向(変更)術として、体腔内で腸管処理、尿管・回腸導管吻合、新膀胱・尿道吻合もスムーズに実施できるようになった。手術時間も経験の蓄積に伴い短縮傾向にある。技術的には、成長期から安定期に入り、教育・普及が課題となってきた。

ロボット支援手術の普及がもたらした変化

ロボット支援手術は、我々外科医に大きく2つの変化をもたらした。1つは、開腹手術では視認が困難だった深部の部位が可視化できるようになり、解剖に対する理解が向上したことだ。2つ目は、多関節鉗子により動きの自由度が高まり、腹腔鏡下手術以上に安定性の高い手術が可能になったことである。

ロボット支援手術の強みは低侵襲であることだけではなく、根治性を担保した機能的アウトカムを向上させられることだ。特に前立腺がんや直腸がんにおいて、術後の排尿や勃起の成績も上がっていると考えられる。また、ロボット支援手術で解剖への理解を深めたことにより、開腹手術の技術が向上したという意見もある。

ロボット支援手術導入による術後回復の改善

泌尿器科における手術の主体である前立腺全摘除術について「前立腺全摘除術=尿失禁」というイメージを持っている患者も多い。尿失禁を理由に手術を敬遠する患者もいたが、ロボット支援手術の導入により術後経過は改善傾向だ。術後の尿失禁について、ロボット支援手術と腹腔鏡下小切開手術を比較すると、術後1~3か月の短期的回復がロボット支援手術では格段に改善されている。

増田氏講演資料(提供:増田氏)

ロボット支援手術後の短期的回復が改善した大きな要因の1つに、骨盤の構造を確実に確認しながらの手術が可能となり、機能的な尿道を可及的に長く温存できるようになったことが挙げられる。前立腺の中にある尿道を引き出して、前立腺の形状を見ながら切除することで、尿道の長さを担保しつつ、根治性も損なわない手術が可能となったのだ。また、ロボット支援手術では尿道の粘膜、平滑筋、横紋筋などを一層ずつ視覚的に確認できるため、膀胱・尿道吻合時に尿道の筋肉構造をなるべく障害しないような吻合が可能となり、尿禁制に関わる術後の機能的尿道を最大限残せるようになった。

2つ目の要因は、神経を温存しやすくなったことだ。ロボット支援手術の導入により神経のレイヤーを確実に視認しながら手術が進められるため、術後の尿失禁早期回復につながっている。その理由として、神経の温存自体が有効なのか、あるいは神経温存のラインでの手術により骨盤の構造がより残っているためかは議論が残る。現状、腫瘍がない片側の神経だけでも温存できれば、術後早期の尿失禁は少ないというデータがある。

増田氏講演資料(提供:増田氏)

ロボット支援手術を担う次世代の教育――その手法と展望

外科医の教育はロボット支援手術の普及に向けて、もっとも大きな難題といえるだろう。まずは、ロボット支援手術の症例数がもっとも多い前立腺の手術に立ち合い、真似をすることで学んでいくことが重要だろう。併せて、解剖を言語化する能力の習得も必要とされる。解剖に沿って正確に展開することやメルクマールの上手な使用、サードアームを上手に活用することがポイントだ。

前立腺全摘除術には(1)場をつくる(2)前立腺を摘出する(3)吻合する、の大きく3つのプロセスがある。このうち(2)前立腺の摘出は、前立腺の大きさや形状などの個体差により難易度が極端に変わる。そのため、個体差の少ない(1)と(3)の手技をしっかり身につけてから、(2)の技術を習得できるよう指導するのがよいだろう。将来的には、AIによるメルクマールの可視化、CT画像の立体再構築を用いた術前・術中のシミュレーション(VR/MR技術)の活用も求められるだろう。

増田氏講演資料(提供:増田氏)

講演のまとめ

〈泌尿器科ロボット支援手術の技術的側面について〉

  • 国産ロボット「hinotori」は、日本人の体型に配慮されており、国産のほかのシステムとの連動が取りやすいという利点がある。国産という利点を生かした、今後の発展的な改良・進歩が期待される
  • ロボット支援手術は触覚の欠如という点で問題視されている側面もあるが、可視化のメリットが大きく、視覚情報で充分補える


〈泌尿器科ロボット支援手術の教育面について〉

  • 術式を徹底的に定型化して真似できるようにするのが大切である
  • AIによるメルクマールの可視化が課題である
  • VRやMR技術を用いた術前・術中シミュレーションを手術と連動させる必要がある

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