2022年04月11日掲載
医師・歯科医師限定

【第80回日本癌学会レポート】消化管がんに対する新しい内視鏡治療の開発――光免疫療法や腫瘍溶解性ウイルス療法の可能性(3700字)

2022年04月11日掲載
医師・歯科医師限定

国立がん研究センター東病院 消化管内視鏡科長・内視鏡センター長 

矢野 友規先生

内視鏡技術の進歩は、消化管がんの早期診断や治療成績向上に大きく貢献している。内視鏡治療は外科手術と比較して侵襲性が低いこともあり、早期の食道がんや胃がんでは外科手術を上回る症例数である。現在、さらなる適応拡大や治療成績の向上を目指して、さまざまな技術革新が試みられている。

矢野 友規氏(国立がん研究センター東病院 消化管内視鏡科長・内視鏡センター長)は、第80回日本癌学会学術総会(2021年9月30日〜10月2日)で行われたシンポジウムで、内視鏡治療の最新技術や現在進行中の研究を紹介した。

内視鏡診療の役割

内視鏡の大きな特徴は、ほかの診断医療機器と異なり消化管の内部を直接肉眼視することができる点にある。内視鏡が登場する以前は、胃がんにより多くの患者が死亡していた。そこで、早期発見を目的として胃の内部を直接見る方法が模索され、1950年代に胃カメラが開発された。

全国がんセンター協議会の資料によると、消化管がんの患者のうちステージIで発見される割合は、1997〜2000年と10年後の2008〜2010年を比較すると大きく増えている。これは内視鏡検査の普及がもたらした大きな恩恵といえるだろう。

もう1つ、内視鏡の大きな役割は、早期に発見したがんの局所治療だ。

1980年代に、リング状の電気メスを内視鏡の先端に設置してがんの切除をするEMR(Endoscopic mucosal resection)が確立したが、大きな病変や潰瘍による瘢痕があると綺麗に切除できない場合があった。しかし、2000年代になり特殊な電気メスを用いて粘膜下層を剥離するESD(Endoscopic submucosal dissection)が開発され、大きな病変でも切除することが可能となった。

胃がんの治療で開発されたESDだが、その後に食道や大腸に対する保険診療の治療として認められている。2018年のNDBオープンデータによると、胃がんでは外科手術件数を上回り、食道がんでは外科手術の倍の件数が実施されている。この傾向は海外でも同様だ。

内視鏡治療の進歩

集学的治療としてのESDの可能性

通常、ESDは局所治療の目的で行われるが、集学的治療のファーストラインの治療としての有用性が臨床試験(JCOG0508)で示されている。試験では、粘膜下層まで浸潤した食道がんに対して、初回治療としてESDを行い、その病理結果によって(A)粘膜内がんで切除できていれば経過観察、(B)粘膜下層浸潤であれば予防的な化学放射線療法、(C)深部断端が陽性であれば根治的な化学放射線療法に分けて、治療効果を評価した。その結果、3年OS(全生存期間)は90.7%であり、外科手術に匹敵する治療成績が得られることが示されたのだ。

食道がんに対するPDTの登場

食道がんに対する化学放射線療法は根治を目指した治療であり、完全奏効が得られれば長期生存が期待できるが、治らなかった場合は早期増悪の恐れがある。そこで期待されている新しい内視鏡治療が、PDT(Photodynamic therapy:光線力学的療法)だ。

PDTとは、腫瘍親和性のある光感受性物質を投与した後、がんにレーザーを照射することで、がん組織に高いダメージを与えることができる局所治療である。PDTの医師主導治験では、90%近いCR(完全奏効)率が得られており、食道がんに対する保険診療の治療として認められている。

Yano T,Muto M,et al.Oncotarget.2017 Mar 28;8(13):22135-22144.より引用

クライオバルーンアブレーションシステムの可能性

欧米では、バレット食道に対するがん予防のための「クライオバルーンアブレーションシステム」の開発が進んでいる。クライオバルーンアブレーションは、食道内にバルーンを広げ、マイナス80度の亜酸化窒素を局所に噴霧することで、食道粘膜を凍結させる手技である。この手法の大きなメリットは、バレット食道に対する標準的なアブレーション治療であるRFA(Radiofrequency ablation)に比べて痛みが非常に少ないことだ。アメリカのデータでは、異形成を伴うバレット食道の1年間完治率が95%という報告もある。

日本において、食道扁平上皮がんに対する初期治療はESDだが、瘢痕部にかかる異時多発病変や再発病変に対する治療が問題になっている。また、再ESDを行う場合、硬化した粘膜が穿孔してしまう恐れがあるなど、非常に難易度が高い。こうした内視鏡治療後の遺残再発に対し、クライオバルーンアブレーションの有用性が期待できる。現在は、日本での薬事承認を目指して、医師主導治験が進行中である。

光免疫療法

光免疫療法の効果

ここまで内視鏡を用いた局所治療について述べてきたが、我々はより進行した患者のために、局所治療を超えた内視鏡治療の開発に取り組んでいる。その1つが光免疫療法だ。

光免疫療法は、光に反応する薬剤を投与した後に、レーザー光を照射することでがんを破壊する新しい治療法である。現在、外科手術や化学放射線療法、抗がん剤治療では効果が得られない難治性再発頭頸部がんに対する治療として承認されている。

光免疫療法では、フタロシアニン化合物IR700とEGFR抗体を複合させた薬剤を投与する。これが細胞膜に付着して物性変化が起こることで、膜に穴が開いて急速に水が注入される。すると、細胞が膨化破裂してダメージが加わり、抗腫瘍効果を発揮すると考えられている。

PDTで照射するのは664nmの光だが、光免疫療法ではさらに長い波長である690nmの光を使用することで、より深部まで効果が得られる可能性も示唆されている。さらに、光免疫療法による免疫原性細胞死の報告もあり、樹状細胞の成熟化などが発生することでT細胞が活性化するとの推測から、免疫学的な効果にも期待が寄せられている。

内視鏡治療と光免疫療法

我々は、レーザー治療の豊富な経験や日本の内視鏡メーカーの技術力の高さを生かし、食道がんに対する内視鏡治療に光免疫療法を取り入れる開発に取り組んでいる。

この新規開発技術を用いて、現在2つの医師主導治験を行っている。1つは食道がんに対する光免疫療法単独の第I/II相試験だ。第I相試験では適切なレーザー照射量を明らかにし、第II相試験では効果や安全性を明らかにする目的で行う。もう1つは、免疫原性細胞死の効果を期待した併用医師主導治験で、EGFR陽性の胃がんや食道がんに対してニボルマブ併用の臨床試験を実施している。

腫瘍溶解性ウイルス療法

腫瘍溶解性ウイルス療法は、ウイルスの感染によってがん細胞にダメージを与える治療法である。我々はOBP-301/Telomelysinという治療法の開発にチームの一員として参加している。ヒトテロメラーゼ逆転写酵素は、テロメラーゼを転写レベルで調節し、腫瘍細胞増殖に対して選択的に高い活性を示すことが知られており、いくつかのがん種で発現している。OBP-301は弱毒化したType-5のアデノウイルスで、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素を含んだ製剤であり、がん細胞内で複製して自己細胞融解を引き起こす。

開発者である岡山大学の藤原 俊義氏らのグループは、食道がんに対する放射線療法との併用で相乗効果が得られることを基礎研究で明らかにしている。研究では、放射線療法60GyとOBP-301の局所注射によるORR(奏効率)は91%、CR率は61%であることが示され、放射線治療単独と比較して高い効果が得られたことが報告された。

当院では、消化器内科の小島 隆嗣氏を中心に藤原氏らと共同して、OBP-301とペムブロリズマブとの併用療法の第I相試験を進めている。基礎研究では、併用療法を行うことで局所注射をしていない腫瘍も縮小する、いわゆる“アブスコバル効果”が得られている可能性が示唆されている。さらに、治療28日後の患者データではCD8のT細胞やAPC(抗原提示細胞)が増加していることも分かっており、相乗効果も期待される。

この第I相試験はウイルス製剤を一段階ずつ増量する試験であり、9例中3例でPR(部分寛解)が得られている。局所注射をした箇所だけでなくリンパ節の腫瘍も縮小しており、非常に期待ができる併用療法となる可能性がある。

内視鏡治療は局所治療として広く普及しているが、より進行したがん患者にも内視鏡治療で貢献したいと考えている。企業やオンコロジスト、リサーチャーとコラボレーションすることで内視鏡治療の可能性を広げていきたい。

講演のまとめ

  • 内視鏡を用いた診断や治療は急速に普及してきた
  • 特に上部消化管の内視鏡治療は外科手術に匹敵する治療成績であり、集学的治療のファーストラインになり得る
  • 内視鏡の技術を応用したクライオバルーンアブレーションシステム、光免疫療法、腫瘍溶解性ウイルス療法などの研究も進んでいる

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