2021年11月30日掲載
医師・歯科医師限定

コロナ禍における糖尿病に携わる医療者の役割

2021年11月30日掲載
医師・歯科医師限定

京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学 講師

山崎 真裕先生

2020年、COVID-19の流行によって我々の生活は一変した。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発出が続くなか、日常が大きく変化した人もいるだろう。生活習慣が深く関与する糖尿病領域においてもコロナ禍前後で診療に変化が起こっている。

第64回 日本糖尿病学会年次学術集会(2021年5月20~22日)にて行われたシンポジウムのなかで、山崎 真裕氏(京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学 講師)は、コロナ禍における糖尿病の傾向と対策について講演を行った。

COVID-19患者におけるチーム医療の重要性

山崎氏ははじめにCOVID-19患者に求められる血糖コントロールと栄養管理について、自身が経験した症例を用いて解説した。患者は58歳の男性(身長175cm、体重90kg)で以下のようなCOVID-19リスク因子を持っていた。

・2型糖尿病

・常染色体優性多発性嚢胞腎

・高血圧

・肥満

患者は初期の段階から重症化が予想されたため、デキサメタゾンを投与された。また、腎不全によるカリウム高値への対処として、ハイカリックRFを投与したものの、ナトリウム値の上昇がみられたことから50%ブドウ糖液に切り替えたという。

経腸栄養剤については、インスローを投与し徐々に増量したが、カリウム値が上昇したためリーナレンに変更した。その後心不全の傾向がみられ、ECMOの使用が始まったタイミングでたんぱく質の補充を目的にペプタメンへ切り替えた。

血糖値に関しては、リアルタイムCGMの活用によって1日に216単位という大量のインスリンを投与することができたと山崎氏は振り返り、チーム医療として、NST(栄養サポートチーム)と協働して緻密な血糖コントロールや栄養管理を行うことの大切さを訴えた。

<患者の治療経過>


山崎氏講演資料(提供:山崎氏)

糖尿病とCOVID-19重症化の関連性

次に山崎氏は、所属する京都府立医科大学附属病院におけるCOVID-19患者のデータを提示した。京都府立医科大学附属病院は第一種感染症の指定医療機関であり、重症隔離病床5床、軽症中等症病床9床を備えている。第1波から第3波(2020年3月4日~2021年2月22日)までの期間でCOVID-19患者117名が入院し、うち27名が重症化例であったという。

また、糖尿病内科で血糖コントロールを行った症例は117名中53名(45.3%)で、うち16名(59.2%)が重症化例であった。「糖尿病患者は重症化しやすい」といわれているが、まさにそのとおりの結果となっているのである。

この53名の内訳をみると、糖尿病合併例は男性に多く、第3波までの期間でみると男性患者のおよそ半数が糖尿病を合併していたことになる。また、男性ほどではないものの、女性の糖尿病合併率も高い。山崎氏はこの原因を、京都府立医科大学附属病院で治療したCOVID-19患者に重症例が多く含まれていたためだと分析した。

ここで山崎氏は『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き』に記載されている重症度分類を提示した。本手引きでは軽症・中等症I・中等症II・重症と分けられているが、京都府立医科大学附属病院ではECMO導入を検討した症例を重篤と位置付けている。

そして、同院における糖尿病の有無と重症度の関連について調査した結果を示した。第1波では糖尿病合併例で重篤・重症患者の割合が高く、第2波は第1波と比べて重症化以上の割合は減少したものの、第3波では再び糖尿病患者の半数近くが重症化した。このことから、糖尿病がCOVID-19重症化要因の1つであることが推測できると山崎氏は述べた。


山崎氏講演資料(提供:山崎氏)

さらに血糖コントロールを行った53名を以下のように分類したうえで詳しい解析を行った。

・糖尿病治療中の患者:30名

・糖尿病未治療もしくは治療中断中の患者:12名

・糖尿病はなかったが、COVID-19治療中に血糖値の上昇がみられた患者:11名

このうちCOVID-19治療中に血糖上昇を認めた患者11名に関しては、もともとのHbA1cは糖尿病と診断できる範囲になく、サイトカインストームやデキサメタゾンの使用による血糖値上昇と考えられる。実際に約90%の患者がデキサメタゾンの使用によって血糖値が上昇していることが分かっている。

さらに着目すべき点として、山崎氏は重症化リスクのデータを提示した。糖尿病治療中の患者と未治療の患者の平均HbA1cを比較すると、未治療の患者のほうが少し低い結果であった。しかし重症化リスクを比べると、糖尿病でない患者を1とした場合の糖尿病治療中の患者におけるリスクは約5倍であったのに対し、未治療もしくは治療中断中の患者におけるリスクは約9倍もあることが分かったのである。


山崎氏講演資料(提供:山崎氏)

このことから山崎氏は「糖尿病の治療中断とならないような療養支援が必要である」と訴え、コロナ禍にあっても病院に継続して通院してもらい、薬物療法を続けていくことが重要だと強調した。

生活習慣の変化が血糖値にもたらす影響

次に山崎氏は、COVID-19蔓延による生活習慣の変化が2型糖尿病患者の血糖コントロールに与えた影響について調査した研究を報告した。

ここでは運動量の減少、間食の増加、食事量の増加が体重増加に関与したことがデータとして明らかとなっている。さらに、ストレスなどによる睡眠時間の減少や食事量の増加が、HbA1cの悪化に関与している傾向を示し、COVID-19による療養行動の制限が血糖値に悪影響を及ぼした可能性が高いと見解を述べた。

しかしここで注意すべきなのは、全体としてHbA1cが悪化しているわけではないことだ。HbA1cの変化をグラフ化して平均データとしてまとめると悪化傾向にみえるものの、個別のデータに分けて注視すると、悪化した患者から改善した患者まで大きなばらつきがみられたのだ。

こうした結果を受け、山崎氏は「全体的なデータで判断するのではなく、患者一人ひとりと向き合いながら、それぞれの変化要因を追究することが必要だ」と語った。

コロナ禍による血糖値の変化と療養支援

コロナ禍での生活習慣の変容によって血糖値に変化がみられた患者は少なくない。山崎氏は具体例として、特に印象深い2つの症例を紹介した。

61歳男性の症例

COVID-19流行後、血糖値の改善がみられた要因としてアルコールや会食の減少によるものが多い。山崎氏が1症例目に提示したのは61歳男性の2型糖尿病患者で、ホテルでイベント関係の仕事をしていた。コロナ禍前は毎日のように接待や会食があったといい、2020年1月のHbA1cは年末の宴会の影響もあり8.4%と高値であった。

しかし、コロナ蔓延による緊急事態宣言発出後からHbA1cは改善傾向を示し、本人にも「アルコールを飲まないと体重が減ることが分かった」という前向きな発言がみられていた。

その後、2020年10月にはHbA1cが7.2%まで改善したが、仕事が本格的になくなってきたことで「時間があるときに何をしたらよいか分からない」などという否定的な発言を繰り返すようになったという。

山崎氏は、単に血糖値をみるだけではなく、精神面のサポートまで必要だと感じた症例であったと述べた。

76歳女性の症例

2例目に紹介したのは、老舗旅館の女将をしている76歳女性の2型糖尿病患者の症例だ。

コロナ禍前から息子に仕事を譲りつつあり、HbA1cは7%台前半を維持していた。しかし、旅館の満室状態が続いたコロナ禍前の年末年始には、ジムで運動はしていたものの、食べ過ぎなどによってHbA1c 8.3%と上昇がみられていた。

さらに緊急事態宣言発出後の2020年5月には、HbA1cが8.6%に上昇していた。話を聞くと、ジムは休業で通えなくなり、旅館の予約は全てキャンセルになったという。このまま赤字が続くと旅館が潰れてしまうと精神的ストレスを訴えていた。

2021年の3月にはHbA1cが9.4%にまで上昇した。コロナ禍による観光業へのダメージが続き、経営が回復する見込みも立たないなかでの精神的なダメージは大きく「私がいなくなれば息子も楽になるかもしれない」との発言もみられた。山崎氏は、糖尿病であること以前に、生きることの大変さを痛感した症例だったと振り返った。

患者の社会的背景を踏まえた医学の提供を

こうした症例からも分かるように、糖尿病患者にはさまざまな社会的背景がある。患者一人ひとりが違った環境で社会生活を営むなかに糖尿病があり、それぞれが違った思いを持って生きている。

そのため、患者に継続して治療を受けてもらうためには、医学として型にはまった治療を行うのではなく“医療学”として、患者一人ひとりに向き合いながら治療を進める必要がある。山崎氏は、COVID-19の流行によって医学を患者に届ける工夫の重要性がより浮きぼりとなったと述べ、講演を締めくくった。

講演のまとめ

・COVID-19患者においてはNSTの介入などチーム医療が重要

・糖尿病の未治療/治療中断はCOVID-19の重症化リスクを高めるため、治療中断とならないような療養支援が重要

・単に血糖コントロールを行うだけでなく、患者一人ひとりの社会的背景や思いを理解したうえで療養支援を行うことが大切

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