2023年03月09日掲載
医師・歯科医師限定

【インタビュー】「Cancer, Science and Life」テーマに20年を振り返る日本臨床腫瘍学会・福岡で3月中旬に開催

2023年03月09日掲載
医師・歯科医師限定

九州大学大学院医学研究院 社会環境医学講座 連携社会医学分野 教授

馬場 英司先生

日本臨床腫瘍学会学術集会が2023年3月16日〜18日、福岡国際会議場・マリンメッセ福岡(福岡市博多区)で開催される(現地開催・Web配信のハイブリッド形式)。節目となる第20回の本学術集会では、ノーベル医学・生理学賞を受賞された大隅 良典氏(東京工業大学栄誉教授)や、災害地域や紛争地域で支援活動を行う建築家の坂 茂氏による講演が予定されている。大会長を務める馬場 英司氏(九州大学大学院医学研究院 社会環境医学講座 連携社会医学分野 教授)に、本集会の見どころやテーマ「Cancer, Science and Life」に込めた思いなどを聞いた。

ノーベル賞受賞の大隅良典氏、建築家の坂茂氏の講演

第20回記念となる本集会では、記念講演と特別講演を予定している。記念講演にはオートファジーの仕組みを解明した功績でノーベル医学・生理学賞を受賞した、大隅 良典氏を迎え、最新の研究成果に加えご自身のあゆみや基礎研究への思いを語っていただく予定だ。分子標的治療の作用機序にも深く関わるオートファジーについて、理解を深める機会になると期待している。

特別講演では建築家の坂 茂氏に講演いただく。坂氏は国際的な建築家として活躍されるとともに、国内外の災害地域や紛争地域に出向き、紙管でできた仮設住宅やシェルターをつくる活動をしており、建築界のノーベル賞とも呼ばれる「プリツカー賞」を2014年に受賞している。阪神・淡路大震災時には、焼失した教会の跡地に住民が集まれるホールを紙管でつくり、最近ではウクライナ支援も積極的に行っている。坂氏の「建築家も医療者も困難な状況にある人を助ける役目がある」という言葉が強く印象に残っている。どちらも貴重な講演になるだろう。ぜひ奮って参加いただきたい。

テーマ「Cancer, Science and Life」に込めた思い

日本臨床腫瘍学会は、科学の進歩に基づいてがん治療の発展に取り組み、予後が厳しい状態にある患者が毎日を快適に過ごし、豊かな人生を送るための助けとなることを常に目指してきた。そこで第20回の節目となる本集会では この取り組みを共有し、改めて考える場にしたいと思い、テーマを「Cancer, Science and Life」とした。

当学会には、患者さんを目の前にがん治療に奮闘する医療者、新規抗がん薬の開発や臨床試験に力を注ぐ研究者、緩和ケアや患者支援の専門家、あるいは企業や行政に所属する会員など、さまざまな立場の会員がおり、その数は約9,000人にのぼる。その一人ひとりが自身の視点から「Cancer, Science and Life」について考え、互いに知見を深められる学術集会になることを願う。

個別化医療実現へのハードルを越えていく努力を

20年前に比べても、がん治療は飛躍的に進歩した。有効な抗がん薬の種類は格段に増え、エビデンスに基づく治療により生存期間は延びている。しかし、いまだに治癒に至らないがんが多いことも事実だ。がんを治せる病にするためには、個々の患者に最適な新たな個別化医療を実現する必要がある。そのためには、適切なバイオマーカーの同定、その標的に対する特異的薬剤の開発、そしてバイオマーカーを有する患者を対象とした臨床試験の実施などの過程を経る必要がある。もちろん十分な安全性を担保することも重要である。我々はこうしたハードルを越え、可能な限り早く患者に有効な治療を届けることが望まれている。学術集会ではこのような課題について知見を共有し合う機会も多く設けている。

チーム医療の中心に立つ腫瘍内科

腫瘍内科は、治療効果と副作用をコントロールしながらがん薬物療法を適切に行うことが求められる。一方で、薬だけでは治せないがん、あるいは外科手術だけでは治せないがんは数多くあり、薬物療法と外科手術、放射線治療など、さまざまな治療法の専門家と協力して治療戦略を練る集学的治療が必要となる。

また、新しいタイプの抗がん薬が使われるようになり、従来とは異なる副作用がみられるようになってきた。たとえば、免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞を破壊するT細胞を活性化させることで治療が成り立つが、このときに自己反応性T細胞という正常な組織を攻撃してしまう免疫細胞の一部も同時に活性化する。それによって1型糖尿病や下垂体炎、甲状腺炎など、以前の抗がん薬では見られなかった副作用が起こることがある。腫瘍内科医はこれらの疾患を迅速に診断・治療するとともに、関連する診療科の専門医と連携し、患者さんを適切な治療へとつなげている。

がん患者はメンタルケアや生活支援を必要とすることが多い。緩和ケア医・看護師、ソーシャルワーカーなどさまざまな職種が関わるため、腫瘍内科医は多職種と円滑なコミュニケーションを図って患者さんを支援することが求められる。こうしたチーム医療の一員として活躍できる腫瘍内科医を育成することも日本臨床腫瘍学会の責務である。

患者自身が知見を深められる機会も

学術集会では毎年、患者や家族、市民が参加できる特別プログラム「ペイシェント・アドボケイト・プログラム(以下、PAP)」を開催している。学術集会は医師などが研究発表や情報交換をする場だが、当事者である患者が自身の病気について理解を深められる場にもしたいという思いでPAPが始まった。医学的知識の提供だけでなく、学会活動を理解いただくことも目指している。これにより患者団体などの活動が活発化し、患者同士の協力体制を作ることで、より円滑ながん医療が実現することが期待される。第9回大会から実施しており、年々規模が拡大している。

今回のプログラムでは、2023年度に見直される国の「第4期がん対策推進基本計画」について解説する基礎講座や、新規薬剤の早期承認に関する話題について、医薬品医療機器総合機構 (PMDA)の理事長を務める藤原 康弘氏に解説いただく講座も予定している。

学術集会に向けて――歴代理事長からのメッセージ

西條 長宏氏(初代):今では臨床腫瘍学が学問として認められ、多くの大学に臨床腫瘍学講座ができた。ゲノム解析に基づいた有効な薬剤も数多く使用可能となっている。学術集会の必要条件はMONEY、FACULTY、AUDIENCEといわれるが、もっとも重要なのはAUDIENCEであり、活発な討論が期待される。臨床腫瘍学がますます発展し多くのがん患者さんに福音をもたらすことを、あの世に行っても祈り続けるつもりだ。

田村 和夫氏(第2代):テーマ「Cancer, Science and Life」には20年の活動が集約されている。科学に基づく知見こそががん医療を進歩させ、その結果として患者の満足度の向上に貢献してきたこと、さらに学会の未来像を展望することは時宜を得ただろう。この機に本学会のミッション・ビジョンをぜひ再考してほしい。

大江 裕一郎氏(第3代):学術集会は米国のASCO、欧州のESMOに匹敵するアジアのJSMOを目指して国際化が進められており、多くの学術的なセッションが英語で行われるようになっている。今年は多くの方に海外から参加いただけることを期待している。

南 博信氏(第4代):日本臨床腫瘍学会は患者や国民のために何ができるか、世界の医療にどう貢献するかを常に考えて、目指すところを見失ってはならない。今後20年間の活動によるさらなる発展を期待する。

石岡 千加史氏(第5代):新型コロナの影響があるにもかかわらず、内外から大変多くの演題が登録され、今年も最新で魅力的なプログラムが企画された。この学術集会は第1回学術集会が福岡で開催されてから、ちょうど20年目にあたる。多くの方に参加いただけることを願う。

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