2022年03月11日掲載
医師・歯科医師限定

【第80回日本癌学会レポート】食道がんにおける免疫チェックポイント阻害剤の臨床――適用承認の元となった臨床試験の結果と今後の展望(4700字)

2022年03月11日掲載
医師・歯科医師限定

国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科科長(消化管内科科長併任)

加藤 健先生

がん死の原因として6番目に多い食道がん。近年、免疫チェックポイント阻害剤(以下、ICI)の登場によって食道がんの治療開発が急速に進展している。第80回 日本癌学会学術集会(2021年9月30日~10月2日)において、国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科科長 加藤 健氏は「食道がんにおける免疫チェックポイント阻害剤の臨床」と題し、食道がん治療におけるICIの最近の進歩や臨床試験結果について講演を行った。

背景

食道がんはがん死の原因としては6番目である。いわゆるメジャーな5大がんには含まれないが、世界的にみれば患者数は多い。患者分布が東アジアやアフリカなどの新興国に集中しているため、これまでは欧米の製薬企業のフォーカスからは外れがちであったが、ICIの上市以来、食道がんに対するICIを用いた治療開発が急速に進められてきた。

セカンドラインとしてのICIの効果

まず、食道扁平上皮がん(以下、ESCC)に対するセカンドラインとしてICIが用いられた臨床試験について解説する。

ニボルマブに関しては、国内で行われた第2相試験ATTRACTION-1でESCCに対して奏効割合が約20%と非常に良好な結果が得られた。続いて行われたATTRCTION-3は東アジアを中心としたグローバルな試験であり、プラチナ製剤とフッ化ピリミジン製剤(以下、5-FU)を併用した1次治療の不応不耐例において、パクリタキセルあるいはドセタキセルに対して、ニボルマブ投与の優越性を比較検討したものだ。その結果、全生存期間(OS)の中央値は8.4か月(化学療法群)vs  10.9か月(ニボルマブ群)となり、ニボルマブが有意にOSを延長した(ハザード比 = 0.77)。

一方、無増悪生存期間(PFS)に関しては、ニボルマブ群において初回のCT評価で進行(progressive disease:PD)となる症例がみられたが、投与4か月目以降、化学療法群よりも改善がみられた。PFSのハザード比は1.08だが、後治療を含めたOSで優越性を示した。この結果をもって2020年2月、ニボルマブは食道がんに対するセカンドラインの適用承認を受けたのである。

 <ATTRACTION-3試験>加藤氏講演資料(提供:加藤氏)

同様に、ペムブロリズマブに関してもセカンドラインでの臨床試験KEYNOTE-181が行われた。この試験は、食道がんだけでなく食道腺がん(以下、EAC)患者も対象とした欧米中心の試験で、日本人も2~3割含まれている。

セカンドラインでの化学療法の標準治療としては、パクリタキセル、ドセタキセル、あるいはイリノテカンが用いられた。それに対するペムブロリズマブの優越性が検討された。主要評価項目として、1. PD-L1のCPS(Combined Positive Score)≧10の集団におけるOSの優越性、2. ESCC集団での優越性、3. 全体集団での優越性、以上3つが示されていた。当初2、3については統計学的な有意差がなく、1については優越性を示したと報告されたが、追加で解析を行ったところ、1についても統計学的な有意差は得られなかった。 

一方、後解析においては、ESCC、かつPD-L1 CPS≧10の症例に対しては良好な効果を示した。元々治療の選択肢が少ないがん種であることが考慮され、ペムブロリズマブはFDA並びにPMDAから、ESCC、かつCPS≧10の症例に対する適用承認を受けたのである。

<KEYNOTE-181試験>加藤氏講演資料(提供:加藤氏)

以前は、食道がんに対する初回治療として5-FU+プラチナ製剤を投与し、セカンドラインでタキサン系抗がん剤を投与すると、サードラインは何も治療法がないという状態だった。しかし、先述の2つの臨床試験の結果により、セカンドラインでペムブロリズマブ、ニボルマブの投与、その後にタキサン系抗がん剤での治療も可能となった。このように治療の選択肢が増加したというのが昨今の現状である。

ファーストラインでのICIの効果

さらに、ICIをファーストラインで用いた際の効果を検証する臨床試験も行われた。

まず、ペムブロリズマブを用いたKEYNOTE-590試験は、初期治療のESCC、EAC、胃食道接合部がんの患者を対象とした、5-FU+シスプラチンにペムブロリズマブを併用する群とプラセボ(偽薬)を併用する群を比較した試験である。母集団には欧米人が約5割、ESCC症例が約7割、CPS≧10の症例が約5割含まれている。

<KEYNOTE-590試験>加藤氏講演資料(提供:加藤氏)

主要評価項目はCPS≧10の症例、ESCC、および全体集団のPFSとOSだ。OSに関しては、ESCCかつCPS≧10の症例、ESCC症例、CPS≧10の症例、全体集団のいずれにおいても優越性を示しており、中でもESCCかつCPS≧10の症例においてハザード比が0.57と顕著な改善効果を示した。またESCC、EACのいずれにおいても同様にOS、PFSの改善が示された。

 <KEYNOTE-590試験>加藤氏講演資料(提供:加藤氏)

フォレストプロットを見ると、PD-L1のCPS<10ではOSが0.86と若干見劣りはするが、1を超えていないので全体集団としても悪くはない。特筆すべきは、前相まではEACはそこまで改善されずESCCのみ改善されたが、本試験ではESCC・EAC共に同様に効果があるという結果が示されている点だ。

 <KEYNOTE-590試験>加藤氏講演資料(提供:加藤氏)

ニボルマブに関しては、2021年にCheckMate648試験の結果がASCO(米国臨床腫瘍学会)で報告されている。

CheckMate648試験では、標準治療の5-FU+シスプラチン(Chemo群)、5-FU+シスプラチン+ニボルマブ(Chemo+NIVO群)、そしてイピリムマブ+ニボルマブ(Chemoフリー群)の3群を比較した。KEYNOTE-590との違いは全員ESCC患者であること、一方でアジア人が70%という点は同等である。TPS≧1の集団におけるPFS、OSが主要評価項目となっている。

<CheckMate648試験>加藤氏講演資料(提供:加藤氏)

まずOSに関して、Chemo+NIVO群はChemo群に対してTPS≧1の集団、全体集団共に優越性を示した(TPS≧1集団のハザード比 = 0.54、全体集団のハザード比 = 0.74)。

Chemoフリー群については、化学療法が入らないぶん初回の早期死亡例が目立つ。早期からがんを抑えるという点では化学療法が入った治療が効果を発揮するが、イピリムマブ+ニボルマブが効果のある症例に対しては、その後の経過で非常に長く効果を発揮している。その傾向はTPS≧1%の集団においてより顕著になり、全体集団では弱くなる。最終的にはポジティブな結果となった。

 <CheckMate648試験>加藤氏講演資料(提供:加藤氏)

 <CheckMate648試験>加藤氏講演資料(提供:加藤氏)

PFSに関しても、Chemoフリー群 vs Chemo群では早期の成績はChemo群のほうがよく、一方で、Chemo+NIVO群 vs Chemo群においては化学療法が早期から効果を発揮するため2群の差は大きく開いてはいない。しかしChemo+NIVO群には化学療法が入るため、durable response(持続的奏効)を示す症例が若干少なくなっている。

そして奏効割合(ORR)について、Chemo群と差が大きいのは、Chemoフリー群であった。これは、奏効した症例での効果が長く続く傾向が、Chemo+NIVO群よりもChemoフリー群においてが顕著に表れているためである。ただ、完全奏効(CR)の割合や奏効に限ると、Chemo+NIVO群が53%と非常に高い数字を示している。

 <CheckMate648試験>加藤氏講演資料(提供:加藤氏)

この結果から、イピリムマブ+ニボルマブは初期の腫瘍増大の割合も多いので、もし腫瘍が増大しても次治療に期待できるような症例を選んで投与することになるだろうと考えている。

また、懸念されていた毒性に関しては、グレード3以上の副作用発現割合に全群で大きな差はなかった。ただし、Chemoフリー群で内分泌系の副作用(Grade3以上)が6%、皮膚障害が4%発現していることには注意が必要である。

<CheckMate648試験>加藤氏講演資料(提供:加藤氏)

ここまで見てきたように、ファーストラインとして3つのレジメンが標準治療に対して優越性を示した。治療アルゴリズムは非常に複雑になっている。今後はこれらのレジメンの選択と使い分けが課題になってくるであろう。あわせて、イピリムマブ+ニボルマブを用いる場合、薬剤が奏効せずに患者が早期死亡するという事態を避けるための対策が重要になると考えている。

 <ESCCの治療アルゴリズム>加藤氏講演資料(提供:加藤氏)

アジュバント療法におけるICIの効果

さらに現在は、アジュバント療法においてもがん免疫療法(以下、IO)がすでに導入されている。CheckMate577試験は、海外の標準治療である術前化学放射線療法を実施のうえ、手術したものの病理学的完全奏効とならなかった比較的予後が悪く再発しやすいESCC、およびEAC症例に対するニボルマブとプラセボの比較試験だ。海外の参加者が中心で、日本では胃がんとして治療されているような症例も対象になっている。

主要評価項目である無病生存期間(DFS)は、中央値が11か月(プラセボ群)vs 22か月(ニボルマブ群)となっている。とくに組織学的分類で見ると、扁平上皮がんにおいて2群間の差が開いており、ニボルマブ群のDFSの中央値は29か月と非常に高くなっている。ただ、本試験で実施した術前治療が日本の標準治療と異なるため、結果の解釈には注意が必要である。またPD-L1発現に関して分類すると、CPSの高いほうがより効果が高いことが示された。

 <CheckMate577試験>加藤氏講演資料(提供:加藤氏)

食道がんに対する現在進行中のICIの臨床試験

最後に、現在進行中の臨床試験についても紹介する。

現在、食道胃接合部がん、胃がんの術前術後の化学療法にペムブロリズマブを上乗せするKEYNOTE-585、そして食道がんの化学放射線療法にペムブロリズマブを上乗せした際の効果を検討するKEYNOTE-975、といった臨床試験が実施されている。

また、ネオアジュバントの化学放射線療法や化学療法にIOを上乗せする第II相試験がアジアを中心に進行中だ。さらにセカンドラインでは、ICI+チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の複合免疫療法について将来的な臨床導入に向けて試験が実施されている。

講演のまとめ

・臨床試験ATTRACTION-3やKEYNOTE-181の結果により、ニボルマブとペムブロリズマブは食道がんのセカンドラインとして適用承認を受け、サードラインでタキサン系抗がん剤を使った治療も可能となったため治療の選択肢が増えた

・臨床試験KEYNOTE-590やCheckMate648の結果を受け、ペムブロリズマブとニボルマブは食道がんのファーストラインとして適用承認された

・ICIを将来的にネオアジュバントや複合免疫療法として臨床導入すべく、臨床試験が進行中である

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