2022年12月02日掲載
医師・歯科医師限定

【第55回日本てんかん学会レポート】限局性皮質異形成II型に対するシロリムスの有効性・安全性に関する医師主導治験(FCDS-01)――第III相試験 2023年度に開始(2800字)

2022年12月02日掲載
医師・歯科医師限定

昭和大学医学部小児科学講座 教授/昭和大学病院 てんかん診療センター センター長

加藤 光広先生

先天性の脳形成異常によって、てんかん発作などを生じる限局性皮質異形成(Focal cortical dysplasia:FCD)。外科切除が基本的な治療であるが、その効果は限定的であり新規薬剤の開発が求められる。昭和大学医学部小児科学講座 教授/昭和大学病院 てんかん診療センター センター長の加藤 光広氏は、第55回日本てんかん学会学術集会(2022年9月20日~22日)において、FCD II型に対するシロリムスの有効性・安全性に関する医師主導治験(FCDS-01)の概要と結果を解説するとともに、2023年度から予定されている第III相医師主導治験の概要を紹介した。

限局性皮質異形成(FCD)――mTOR活性化が引き起こすFCD II型

限局性皮質異形成(FCD)は、大脳皮質の一部に先天性の脳形成異常が生じることで、難治てんかん発作や認知障害、運動障害を呈する病態である。乳幼児期に発症し、現時点で国内の患者数は約1,000人と考えられている。基本的な治療法は外科切除であるが、30~40%の患者で術後も発作が持続し、知能・運動能力が低下していく。

FCDは病理組織によって以下に分類される。

・FCD I型:皮質構築異常が主体で異型細胞は認めない(MRIでは検出困難)

・FCD II型:皮質構築異常+異型細胞(Dysmorphicニューロン/バルーン細胞)

 ・FCD IIA型:皮質構築異常+Dysmorphicニューロン

 ・FCD IIB型:皮質構築異常+Dysmorphicニューロン+バルーン細胞

・FCD III型:皮質構築異常+海馬硬化、脳腫瘍、破壊性病変など

我々はFCD IIB型の脳組織において46%(13人中6人)でMTOR遺伝子の体細胞モザイク変異を明らかにし、mTORの活性化がFCD II型を引き起こすことを報告している。また韓国の研究チームが、mTOR変異導入マウスの巨細胞と、てんかん発作がmTOR阻害剤であるシロリムスの投薬で抑制されることも報告した。さらに、FCD II型の脳組織において、mTOR経路遺伝子でありリンパ脈管筋腫症や結節性硬化症の原因遺伝子であるTSC1/2変異を同定し、他研究チームによって結節性硬化症のてんかん発作がシロリムス誘導体であるエベロリムス投与により、用量依存性に減少することが明らかにされている。

FCD II型へのシロリムス投与に関する医師主導治験(FCDS-01)

治験の概要

2017年に北海道大学の白石 秀明氏らによる先行臨床研究が行われ、シロリムスを投与したFCD II型患者3例中2例でけいれん発作症状の減少を認めた。大きな有害事象もなかったことから、2018年度から「限局性皮質異形成 II型のてんかん発作に対するシロリムスの有効性と安全性に関する無対照非盲検医師主導治験(FCDS-01)」を開始した。

加藤氏講演資料(提供:加藤氏)

FCD II 型 16 例がエントリーし、ベースライン観察期(28日間で2回以上の部分発作確認)後に初期用量でシロリムスを投与した。その後、8~24週間の用量調節期(目標5~15 ng/mL)を経て、最終的に15例が 12 週間の維持療法期を完了している。主要評価項目は28日あたりの部分発作の減少率とし、他の発作型の減少率、奏効割合、有害事象を副次評価項目とした。

さらに、外部対照群として「限局性皮質異形成II型のてんかん発作の前向きコホート研究(RES-FCD)」を実施した。希少疾患であり症例を集めることが困難で、希少てんかんに関する調査研究(RES-R)に登録されたFCD II型患者からリクルートした。目標60例に対し63例がエントリーし、最終的に基準を満たした60例が対象となった。

結果

結果、28 日あたりの部分発作頻度の中央値は、ベースライン観察期で24.0(4.0–1122.0)、維持療法期で18.2(0–867.4)であり、残念ながら差はみられなかった(P=0.11:両側検定有意差<0.1)が、事後の副次解析でslope解析を実施したところ、傾き3.822(P=0.0079)と示された。また、維持療法期において、0~4週、5~8週、9~12週に分けて分析した結果、5~8週ではP=0.013、9~12週ではP=0.003と有意差を証明することができた。

また、シロリムス投与群と外部対照群において、ベースライン観察期から患者ごとの発作頻度の減少率をみたところ、外部対照群の0.5%に対してシロリムス投与群では25%であり、奏効率は33%という結果であった。なお、両群において患者背景の特性(年齢、発症時年齢、ベースライン部分発作頻度、外科治療の有無)に差がみられたことから、比較可能性が担保できないと判断し、部分発作減少率の差は解析していない。

有害事象としては感染症や口内炎など、既報のものと変わりはなかった。また、mTOR阻害剤は間質性肺炎を引き起こすケースがあることから、血清KL-6濃度も解析した。結果、KL-6濃度の経時的な上昇がみられたものの、KL-6濃度が低値でも間質性肺炎の兆候を示した患者もいたことから、シロリムス投与によるKL-6上昇は必ずしも間質性肺炎の発症と比例しないと考えた。

第III相医師主導治験(FCDS-03)が2023年度より開始

現在は、継続投与試験として医師主導特定臨床研究FCDS-02(限局性皮質異形成II型のてんかん発作に対するシロリムスの安全性に関する臨床研究)が進行中だ。PMDA申請前相談によって追加試験を求められたことから、2023年度から第III相医師主導治験(FCDS-03)を実施することが決定した。

現時点では、全国6施設(北海道大学、西新潟中央病院、国立精神・神経医療研究センター病院、昭和大学、静岡てんかん・神経医療センター、大阪大学、岡山大学)にて実施予定だ。対象疾患にはFCD II型に加えて、同じ病態である片側巨脳症も含め、対象年齢は1歳以上としている。シロリムスの安全性がある程度担保されたことと、錠剤だけでなく細粒剤も使用可能となったことから、年齢を引き下げることにした。もし対象になる患者がいる場合には、ぜひ治験への参加を検討していただきたい(後日、大分県立病院が追加され7施設で実施予定)

講演のまとめ

  • FCD II型はMTOR遺伝子変異によるmTORの活性化によって引き起こされる
  • mTOR阻害剤であるシロリムス投与により、FCD II型の部分発作が経時的に減少したことを医師主導治験(FCDS-01)で確認した
  • シロリムス投与による有害事象は口内炎や感染症など既報のものと同じだった
  • シロリムス投与後、KL-6の血中濃度が経時的に上昇したものの、間質性肺炎との関連性は明らかではなかった
  • 2023年度からFCD II型と片側巨脳症を対象とした第III相医師主導治験(FCDS-03)が開始される

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