2023年03月13日掲載
医師・歯科医師限定

【第71回日本アレルギー学会レポート】PGAM2022改訂のポイント――診断と治療、ステップダウンまで(4000字)

2023年03月13日掲載
医師・歯科医師限定

昭和大学医学部 内科学講座 呼吸器・アレルギー内科学部門 主任教授/昭和大学病院 病院長

相良 博典先生

喘息診療実践ガイドライン(PGAM)は、適切な喘息治療の推進や非喘息専門医の診療に役立つことを目標として、2021年に日本喘息学会が作成、2022年に改訂された。相良 博典氏(昭和大学医学部 内科学講座 呼吸器・アレルギー内科学部門 主任教授/昭和大学病院 病院長)は、第71回日本アレルギー学会学術大会(2022年10月7~9日)で行われた講演の中で、PGAM 2022改訂のポイントや、PGAM 2022に基づいた喘息診断のアルゴリズム、治療のフローチャートなどについて詳しく解説した。

PGAMの意義

PGAMの重要な意義は、喘息の正確な診断および治療の選択に役立つ情報を非専門医にも分かりやすい内容で掲載していることにある。診断や治療、併存疾患、禁忌薬剤、評価指標に関する情報はもちろん、専門医療機関への紹介のタイミングや、吸入指導箋のやりとりを含めた多職種連携の重要性についても記している。

またPGAMは、正確な診断と治療の適正化により、コントロール良好な状態を継続させ、喘息死を減少させることも目標としている。日本では喘息コントロールは大きな課題である。日本人成人喘息患者を対象とした横断的調査によれば、治療ステップ1の症例においても、良好なコントロールを維持している割合は55.2%にとどまることが分かっている。アドヒアランスの問題もあるが、非専門医を含めた医師からの適切な治療介入によってコントロール良好の割合を向上させることが重要だ。

2022年版の改訂ポイント

PGAM 2022の主な改訂ポイントは以下のとおりである。

  • 長時間作用性抗コリン薬(LAMA)およびトリプル製剤に関する記載を追加
  • 喘息コントロールテスト(ACT)による評価の際に、数値だけではなく使用薬剤を参考にして評価するように記載や選択を追加
  • 慢性咳嗽のフローを充実
  • コントロール良好となった後の薬剤のステップダウンについて簡単なフローを提示
  • 喘息の気道炎症に対する生物学的製剤の最新の知見を追記
  • 生物学的製剤の薬剤選択のフローを作成し、指標を提示
  • 合併症としての慢性閉塞性肺疾患(COPD)において、オーバーラップの概念に触れながら内容を充実
  • 移行期医療や高齢者喘息、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)、アレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)を追記
  • ウイルス感染と喘息、COVID-19などの呼吸器感染症について追記
  • アスリート喘息の特徴、対応、予防について記載


以下、PGAM2022における喘息の診断や治療の記載について解説していく。

喘息の診断

喘息は小児から高齢者まで全年代において発症し得る疾患だ。診断には臨床症状が重要であるため、詳細な問診を行う必要がある。喘息の診断には、現在のところ“ゴールドスタンダード”となるような客観的指標は存在しない。いくつかのバイオマーカーはあるが、それらの陽性は必ずしも喘息を意味しないため、臨床症状をしっかりと聞き取り、マーカーと併せて判断することが重要だ。

喘息を疑う臨床症状には、喘鳴や咳嗽、喀痰、胸苦しさ、息苦しさ、胸痛がある。そのうち、もっとも特異性が高いのは「喘鳴」、頻度が高いのは「咳嗽」である。PGAM2022の問診チェックリストでは、大項目として「喘息を疑う症状(喘鳴、咳嗽、喀痰、胸苦しさ、息苦しさ、胸痛)がある」を、小項目として症状と背景(家族の既往歴や基礎疾患など)に関する15項目の質問を記載した。大項目と小項目(いずれか1つ以上)にチェックが入れば喘息の疑いとして、喘息の診断アルゴリズムに移行する。

診断アルゴリズムでは、まず中用量以上の吸入ステロイド薬(ICS)/長時間作用性β2刺激薬(LABA)を3日以上使用して反応性の有無を確認する。反応がない場合には喘息以外の疾患の可能性を考える。反応がある場合には、ICS/LABA吸入前の喘鳴の有無によって判断が分かれ、ICS/LABA吸入前に喘鳴がある場合には喘息診断とする。喘鳴がなかった場合は喘息疑いとして再現性の有無を調べる。再現性があれば喘息診断、なければ他疾患の可能性を考慮する。

喘息の治療

喘息治療においては、Treatable traitsという概念が重要だ。気道炎症に対してはICS、気流制限(喘鳴、息切れ、咳)に対してはLABAまたはLAMAを用いる。

PGAM2022の喘息治療フローチャートでは、まずはICS/LABAを中用量から開始することとしている。コントロール不十分・不良の場合はその原因を検討する。原因が咳や痰、呼吸困難、喫煙歴、増悪にあればLAMAレスポンダーと判断してLAMAを追加し、鼻汁、鼻閉があればロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を追加する。咳や痰、呼吸困難が強ければLTRAとLAMAが併用できる。それでもなおコントロール不十分・不良であれば専門医への紹介をすすめるが、経験豊富な医師で対応可能と判断した場合はICSを増量するのも選択肢の1つである。

また、もし咳や痰、呼吸困難の症状が強い場合にはICS/LABA/LAMA(トリプル製剤)から開始することも可能としている。

喘息治療のステップダウン

喘息治療のステップダウンを検討する条件は、喘息コントロール良好な状態が3~6か月続いている、あるいは呼吸機能(スパイロメトリー、PEF)が安定していることだ。呼吸機能検査ができない施設の場合は、病診連携を介して専門医に評価を依頼するとよい。

しかし、前年に増悪や救急受診があった場合や、気道過敏性亢進、喀痰中好酸球増多がみられる場合はステップダウン後の増悪リスクが高く、慎重な判断を要する。判断に迷う場合は2型炎症の有無や、必要に応じてPGAM掲載のStep-down Failure Scoreを参考にするとよい。8点以上であればステップダウンによる増悪リスクが高い。

吸入デバイスの選択

喘息のコントロール不良は、アドヒアランス不良や不適切な吸入方法、複数の吸入器の使用による混乱など、吸入治療自体がうまくできていないために起こる場合もある。吸入薬のアドヒアランス不良の割合は、特に若年成人と高齢者で高いことが報告されている。また、複数の吸入器を使用した患者群では、1つの吸入器のみを使用した群と比較して、治療中止の割合が高くなるとの報告もある。

そのため、吸入デバイスを選択する際は、患者背景に合ったデバイスを選択する、吸入手技を確認する、薬剤師の吸入指導報告書を参考にするなどのポイントを考慮するとよい。たとえば、勢いよく吸入できない(練習器で音が鳴らない)場合はエアータイプを選択する。音が鳴ればドライタイプを検討するが、操作の理解が難しかったり、粉でむせたりする場合などはエアータイプを選択する。

吸入器による治療では、処方医から薬剤師への吸入指導依頼書、および薬剤師から処方医への吸入指導報告書を利用しながら、双方向で情報を共有することも重要である。

中等症以上の喘息治療

中等症以上の喘息治療のフローチャートは次のとおりである。まず「経口ステロイド薬(OCS)の頓用が年2回以上」と「日常的な喘息コントロール不良」に該当するかを確認する。どちらか1つ、または両方とも当てはまる場合で、アドヒアランスや吸入手技の確認、合併症の管理を行っても2型炎症を認める場合には生物学的製剤の投与を考慮する。

OCS頓用の基準を年2回以上とした理由は、増悪が年2回以上ある症例は、増悪がない症例や年1回の症例と比較して、1秒量(FEV1)の経年変化量が大きいと報告されているためである。また、間欠的なOCSの使用においても、有害事象の増加がみられるとの報告があることや、OCSの蓄積投与量の増加と有害事象との関連が明らかとされている点から、OCSの投与をできるだけ少なくすることが重要と考えている。

生物学的製剤の効果は喘息の病型によって異なり、薬剤選択においてはバイオマーカーの測定が必須である。ただし、バイオマーカーを基にしても複数の薬剤が適応となることが多く、併存疾患や費用、投与間隔、自己注射の可否、長期安全性などを総合的に判断して選択することになる。

現在、喘息に対して使用可能な生物学的製剤は、オマリズマブ、メポリズマブ、ベンラリズマブ、デュピルマブ、テゼペルマブの5剤である。それぞれの特徴はPGAM2022に掲載されているため、参考にして選択するとよい。

成人重症喘息に対する生物学的製剤

成人の重症喘息では、血中好酸球数150/µL未満と150/µL以上で選択する生物学的製剤が異なり、150/µL以上の場合は5種類全ての生物学的製剤が使用可能である。いずれの生物学的製剤を選択するにせよ、重要となるのは投与後の副作用や治療効果のモニタリングである。反応が良好であればOCSの減量を検討するが、反応が不良であれば生物学的製剤の切り替えなども含めて検討しなければならない。

高齢者喘息の注意点

喘息死は65歳以上の患者で圧倒的に多く、高齢者喘息への対策は重要である。高齢者では長期罹患の割合が高く、難治例も存在する。

高齢者喘息の病態は成人喘息と同様に好酸球優位の慢性気道炎症であり、治療も共通である。しかし、COPD、心不全、胃食道逆流症などの鑑別疾患や合併症・併存症が多く、的確な診断を要する。また、吸入指導においては、記銘力、呼吸機能、手指筋力、聴力の低下などを想定したデバイスの選択・指導が必要である。PGAM2022では高齢者喘息における留意事項についても細かく記載している。

PGAMでは、喘息患者を診療する際の注意点をはじめ、さまざまな情報を非専門医においても分かりやすく掲載している。今後も新しい情報を取り入れながらステップバイステップで改訂していきたいと考えている。

講演のまとめ

  • PGAMの重要な意義の1つは、非専門医における喘息の適切な診断・治療に役立つことにある
  • PGAM2022では、新たにLAMA、トリプル製剤、生物学的製剤に関する記載が追加され、慢性咳嗽のフローが充実した
  • PGAM2022では、治療のステップダウンについてフローを提示したほか、合併症としてのCOPDの内容も充実した
  • PGAM2022には、移行期医療や高齢者喘息、EGPA、ABPM、ウイルス感染と喘息、COVID-19などの呼吸器感染症についても追記され、アスリート喘息の特徴、対応および予防についても記載された
  • 喘息診療に関する新たな情報を取り入れながら、PGAMは今後も改訂を重ねていく予定である

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