2023年01月12日掲載
医師・歯科医師限定

【第84回日本血液学会レポート】同種造血幹細胞移植に対するCOVD-19ワクチンの有効性――低抗体価リスク因子、中和抗体薬との併用は(3800字)

2023年01月12日掲載
医師・歯科医師限定

久留米大学医学部 内科学講座 血液・腫瘍内科部門 主任教授

長藤 宏司先生

造血幹細胞移植(HSCT)患者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による重症化・死亡リスクが高く、感染予防が重要となる。長藤 宏司氏(久留米大学医学部 内科学講座 血液・腫瘍内科部門 主任教授)は、第84回日本血液学会学術集会(2022年10月14日~16日)の教育講演において、主に同種HSCT患者におけるCOVID-19ワクチンの有効性、ワクチン接種後の低抗体価リスク因子、中和抗体薬チキサゲビマブ/シルガビマブとの併用について解説した。

HSCT患者ではワクチンによる感染予防が重要

HSCT患者がCOVID-19に罹患した場合の致死率は、自家移植で17%、同種移植で21%と報告されている(2021年12月までの報告)。日本での流行初期の平均致死率が約2%だったことからも、HSCT患者におけるCOVID-19リスクは極めて高いことが分かる。

そのため、HSCT患者ではワクチン接種による感染予防がより重要となるが、どのように接種するのが望ましいのだろう。米国のASH/ASTCTガイドラインでは、移植後3か月以降に接種すること、3回目の接種から3か月以上経過したら追加接種すること、移植によりワクチンの効果が失われるため移植後再度ワクチンを接種すること――などの記載がある。

欧州のEBMTガイドラインもおおむね同様であるが、接種時期については、COVID-19の流行地域では移植後3か月以降、流行が落ち着いている地域では移植後6か月以降で接種することが推奨されている。これは、移植後早期の接種ではワクチンの有効性が低下するためであり、日本でも不活化ワクチンの接種は移植後6か月以降とされている。

複数の観点で評価するワクチン有効性

HSCT患者に対するCOVID-19ワクチン2回接種後の抗体陽性率は自家移植で約70%、同種移植で約82%、CAR-T療法では28%との報告がある。このように、ワクチンの有効性は通常抗体によって評価されるが、有効性を評価する際は以下の観点にも着目する必要がある。

(1)免疫原性(immunogenicity)

  • SARS-CoV-2抗原特異的抗体の産生
  • SARS-CoV-2に対する中和抗体の産生
  • SARS-CoV-2に対する細胞性免疫


(2)臨床試験での有効率(efficacy)

  • 接触群とコントロール群との発症率の差を比較


(3)実社会での有効率(effectiveness)

  • ワクチン普及後に目的の感染症が実際にどの程度減少したかを評価


免疫原性の評価

1つ目の免疫原性のうち、中和活性に関する抗体はIU(International Unit)、統合活性に関する抗体はBAU(Binding Antibody Unit)で評価される(WHO国際標準品)。

mRNA-12373ワクチン第III相試験(COVE Study)の検討では、抗S蛋白が250 BAU/mL以上で90%の感染予防効果があることが示されている。また、ChAdOx1-Sワクチン第III相試験の検討では、抗S蛋白が264 BAU/mL以上でアルファ株による症候性感染のワクチン有効性は80%であると報告されている。なお、いずれの報告もワクチン2回接種後にもっとも抗体価が高くなったタイミングでの検討である。

COVID-19ワクチンには、抗体獲得だけでなくT細胞に対する免疫効果もある。T細胞反応性は、SARS-CoV-2の特異抗原刺激によってIFN-γを分泌するT細胞数を測定するELISpotアッセイが用いられる。T細胞反応がどの程度COVID-19に関与しているかは不明であるが、先天的にB細胞を欠損している患者や、抗CD20抗体投与により正常B細胞が欠損した患者もCOVID-19から回復することから、T細胞性免疫の関与が示唆されている。

臨床試験・実社会での有効率

そのほか「臨床試験での有効率」と「実社会での有効率」に基づいた評価も重要だ。特に重要なのが後者であるが、造血器腫瘍患者における報告は極めて少なく、1つだけ国を挙げてワクチン普及に努めたイスラエルからの報告がある。この報告では、造血器腫瘍の患者はワクチンを接種してもCOVID-19感染リスクが1.60倍、入院リスクが3.13倍、死亡リスクが1.67倍とされている。やはり造血器腫瘍の患者は健常人に比べてCOVID-19の重症化リスクも致死率も高くなることが分かる。

同種HSCT患者に対するCOVID-19ワクチンの効果

それでは次に、同種HSCT患者に対するCOVID-19ワクチンの有効性について考えてみたい。同種移植後のワクチン接種に関する22の報告をまとめてみたところ、総症例数は2,750例あり、抗体陽性化率は68~96.5%、慢性GVHD(移植片対宿主病)の発症・増悪は30例(約1%)に認められていた。

このうち、神戸大学の報告では、同種HSCT患者25例の抗体陽性化率は76%であり、重篤な副作用や慢性GVHDの発症・増悪はなかった。抗体価に関わる予後因子としては、IgG低値、ステロイド投与、リンパ球減少が挙げられている。また亀田総合病院の報告では、同種HSCT患者65例における抗体陽性化率が87.7%、抗S蛋白264 BAU/mL以上が76.9%であると示された。予後因子はCD19陽性細胞数およびIgG値とされている。論文には記載されていないが、慢性GVHDの発症・増悪も認めていないという。

同種HSCT患者の低抗体価リスク因子は――多施設共同前向き観察研究

福岡血液骨髄移植グループ(FBMTG)では、HSCT患者におけるCOVID-19ワクチンの有効性と安全性を検討するために、多施設共同前向き観察研究(FBMGT-COVID-19-VAC試験)を実施した。移植6か月経過後にワクチンの2回接種を行い、もっとも高い抗体価で有効性を評価した。副作用については患者にアンケート調査を行った。

まず副作用について、38度以上の発熱は2回目接種後に10%前後の患者でみられたが、重篤な副作用の報告はなかった。GVHD増悪は1回目接種後で0.2%、2回目接種後で0.4%であったことから、移植後6か月を経過した重症GVHDのない症例にワクチン接種を躊躇う必要はないと考えられる。

同種HSCT患者510人に限定して見ると、抗体陽性化率は91.4%で、有効抗体価(250 BAU/mL以上)を獲得したのは74.1%であった。また低抗体価リスク因子としては、年齢が60歳以上、HLAミスマッチ移植、ステロイド全身投与、リンパ球1,000/μL未満、B細胞100/μL未満、血清IgG 500mg/dL未満が挙げられた。これらのうち、該当する因子を点数化(血清IgGは2点、それ以外の因子は1点)して、その合計点数によって抗体が得られない確率を算出した。結果、0点では3.9%、1~3点では21.8%、4~7点では75%で抗体が得られない可能性が示唆された。

上記のリスク因子は、HSCT患者におけるCOVID-19死亡リスク因子とほぼ同じである。つまり「もっともワクチンの効果が得にくい移植患者=もっともワクチンにより保護しないといけない移植患者」であり、こうした患者はワクチンだけでは守ることはできない。

チキサゲビマブ/シルガビマブによる感染予防

そこで期待されるのが、最近日本でも使用可能となった中和抗体薬「チキサゲビマブ」および「シルガビマブ」だ。海外第III相試験(PROVENT試験)では、造血幹細胞移植患者を含む免疫不全の強いリスクの患者に対しプラセボ群と比較した結果、投与半年後の累積発症率のハザード比が0.17と、COVID-19の感染予防への有効性が示唆されている。

造血器腫瘍患者に対するこれらの投薬については、日本造血・免疫細胞療法学会と日本血液学会が共同でガイダンスを作成している。同種HSCT患者では以下の基準が設けられている(あくまでも目安のため、個々の例に応じて判断するとの記載あり)。

(1)移植前処置開始前

(2)移植後、生着を確認後、安定期に入った後から退院までのタイミング

(3)移植後のフォロー中で、免疫抑制剤を服用している患者

チキサゲビマブ/シルガビマブを投与する際にもう1つ懸念されるのが、ワクチン接種の関係だ。これについては、注射部位さえ変えれば、同じタイミングで実施して問題ないと明確な回答が出ている。

同種HSCT患者のCOVID-19予防

最後に、同種HSCT患者のCOVID-19予防法に関する私見をお話ししたい。

先に述べた日本のガイダンスの指針のとおり、移植後に生着を確認したら、安定期に入った後から退院の間に、チキサゲビマブ/シルガビマブを投与する。そして、移植後6か月経過した時点でコントロール不良なGVHDを認めなければmRNAワクチンを投与開始し、ブースター接種も行う。さらに、能動免疫の効果が期待できない場合には、初回のチキサゲビマブ/シルガビマブ投薬後から6か月経過時点で、再投与を考慮してもよいと考えている(ただし、現時点で再投与の安全性・有効性に関するデータはない)。

講演のまとめ

同種HSCT患者へのCOVID-19ワクチンについて

  • 移植後6か月を経過した患者には安全に投与できる
  • GVHD発症・増悪のリスクはわずかにあるが、増悪時は免疫抑制剤などを適切に用いることで対処できる
  • ワクチンの有効性は抗体価の上昇だけで評価されるが、実際は細胞性免疫も関与している
  • 2回接種で抗体価の上昇が不十分な患者でも3回目の接種で抗体獲得が期待できる
  • オミクロン株以降の変異株に対するワクチン効果は今後検討する必要がある
  • 中和抗体薬「チキサゲビマブ/シルガビマブ」との併用が可能である

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