2022年12月06日掲載
医師・歯科医師限定

【第7回日本肺高血圧・肺循環学会レポート】医療用AIの現状と今後の可能性――診断や予後予測への応用(2600字)

2022年12月06日掲載
医師・歯科医師限定

名古屋大学医学部附属病院メディカルITセンター 特任助教/特定国立研究開発法人理化学研究所 画像情報処理研究チーム 客員研究員

古川 大記先生

人工知能(AI)は掃除機や画像認識、近年では軍事用ロボットなど、さまざまなところで活躍している。医療分野においても、AIを活用することで診断や治療の質を向上させることが可能だ。古川 大記氏(名古屋大学医学部附属病院 メディカルITセンター 特任助教)は、第7回日本肺高血圧・肺循環学会学術集会(2022年7月2日〜3日)のシンポジウムにおいて、医療分野でのAI活用の現状や可能性について講演を行った。

医療用AIの現状と医療者がAIを学ぶ必要性

AIは我々の生活に深く入り込んでいるため、AIを理解していないと、AIに使われる人間になってしまう。このことを踏まえ、文部科学省は名古屋大学と東北大学を中心に、医療用AIを学ぶ人材養成プログラムを行っている。現在、医療用AIは作業的な業務だけでなく、時間とお金、人材さえかければ、専門医の仕事や実験結果の解釈なども行うことが可能である。しかし、超エキスパートの判断や治療、いわゆる“さじ加減”の部分や、新しい価値観を生み出すことは難しい。

呼吸器領域における医療用AIの開発は2010年ごろから広がっていった。機械学習による喘息サブタイプのクラスタリングをはじめ、現在は診断機器で特に開発が進んでいる。たとえば、Googleでの3,000万人のデータを用いた糖尿病網膜症の診断、スタンフォード大学での13万枚の画像による皮膚腫瘍の診断など、大量のデータをもとにしたAIの開発が進められている。

一方、使用する際の注意点として、AIによる診断は元になったデータセットに依存していることが挙げられる。たとえば、黒人や社会的マイノリティーに対してはAIを適用できないことがあるほか、データセットにアジア人のデータをほとんど使っていない企業もある。AIを開発したり活用したりする際は、データの多様性を念頭に置いておく必要がある。

医療現場へのAIの適用――PROMISE試験

間質性肺炎の事例から、医療現場へのAIの適用について考察する。間質性肺炎は肺の間質組織の線維化により起こる疾患で、中でも特発性肺線維症(IPF:Idiopathic Pulmonary Fibrosis)の予後は平均3〜5年と非常に不良である。一般の呼吸器科医が診断することは難しく、ガイドラインには呼吸器内科医、胸部放射線診断医、肺病理医の3者が話し合う合議(MDD:multi-disciplinary discussion)診断が必須と記載されている。しかし、実際にMDD診断を実施できる専門家は少ないのが現状である。呼吸器専門施設を対象とした調査でも、96%が「オンラインでMDD診断を受けられるなら利用したい」と回答している。

このような背景を踏まえ、現在我々が実施しているPROMISE試験では、患者データをオンライン登録することでMDD診断を行う仕組みを構築した。加えて、我々が開発した診断用AIと臨床経過を予測するAIを組み込み、臨床に近い形で研究を進めている。AI開発の目的は、生検を行わずにIPFを診断することであり、患者の負担が少ない画像データや血液検査や肺機能検査などの結果をもとに診断している。

また、間質性肺炎患者の予後予測AIモデルを構築したところ、高精度に患者毎の予後予測が可能となった。構築したAIモデルを用いて、中等度のIPF患者2例の治療への反応性や臨床経過の予測を例示する。60歳代の男性患者は薬物治療を希望されず、死亡まで無治療であった。実際に、AIで予測した無治療での生存確率が50%程度となる、26か月後に死亡した。一方、70歳代の女性患者は、抗線維化薬による治療を行った。しかし、前述の患者と同様に、AIで予測した無治療での生存確率が50%程度となる、24か月後に死亡した。

この2症例に対して治療反応AIによるシミュレーションを適用したところ、異なる結果が得られた。男性患者に抗線維化薬を投与した場合、予測生存確率は大幅に改善し、治療を行っていれば大幅に予後が延長できた可能性があった。しかし、女性患者は抗線維化薬投与後も予測生存確率はほとんど変化がみられず、抗線維化薬を投与しなくても予後は変わらなかった可能性が示された。個別に治療効果を予測することで、患者ごとに最適な治療法を提供できる可能性がある。

研究者、研究参加者双方にメリットを――レジストリ研究の質の向上

PROMISE試験は、全国から約270施設、約2,700症例が参加する世界最大規模の試験である。新規の間質性肺炎患者が登録されると名古屋大学が専門の診断チームに診断を依頼する。約2週間で診断結果や助言などのレポートとAI診断が各施設に届く。本試験は当初2年間の予定であったが、参加施設からの継続依頼を受け、オンラインMDD診断の保険収載を目指して調整を進めている。

本試験では、レジストリ研究で得られるデータの質が大幅に改善された。過去のレジストリ研究は、患者や医師へのインセンティブがなかったこともあり、良質なデータを得ることは難しかった。本試験では精緻な診断レポートを返送することで、研究参加施設から精緻な検査データが得られた。双方にメリットがある関係を構築することが正確な人工知能の開発につながるだろう。

さらに、患者が自宅で過ごす際のデータも重要であることから、今年度よりAMED(日本医療研究開発機構)にてプログラム医療機器(SaMD: Software as a Medical Device)開発を行っている。患者が自宅で肺機能や動脈血酸素飽和度などを測定して記録することで、AIがその時点の身体状態を把握し、リハビリテーションの提唱や急性増悪の予測などを行う。

間質性肺炎患者に対する心臓カテーテル検査のスクリーニング――スコア解析とAI解析

IPFは平均肺動脈圧(mPAP:mean Pulmonary Artery Pressure)が21mmHg以上で予後不良とされている。しかし、肺動脈圧を測定するために、全ての患者に対して侵襲的な心臓カテーテル検査を行うことが問題視されていた。肺拡散能力(DLCO)および動脈血酸素分圧(PaO2)、肺動脈/大動脈比(PA/AO)の3項目を点数化して肺高血圧傾向を予測する計算式を作成した。AUC(Area Under the Curve)は0.75であったが、臨床現場で活用するにはさらなる精度向上が望ましかった。

予測精度を上げるべく、間質性肺炎患者854例(IPF患者405例を含む)の初診時データ(患者背景・血液検査・肺機能・エコー)をAIで解析した。平均肺動脈圧が21mmHg以上の患者を対象に、従来のスコア解析とAI解析を用いてそれぞれスクリーニングしたところ、従来のスコア解析ではAUCは0.726だったが、AI解析ではAUCが0.81と改善がみられた。mPAPが25mmHg以上の患者にスクリーニングを行った場合でも、従来のスコア解析ではAUCは 0.753であったが、AI解析ではAUCが0.94との結果が得られた。 AI解析を活用することで、ほとんどの間質性肺炎患者に対する心臓カテーテル検査の必要性はほぼスクリーニング可能である。

講演のまとめ

  • 医療AIは、特に診断分野で進化を遂げており、医療者もAIを学ぶ必要がある
  • 医療用AIを用いると、IPFの診断や予後、治療経過の予測が可能である
  • すでにAIによる診断、治療選択などが利用され始めている
  • 実臨床への導入を見据えた仕組みづくりが大切である

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