2022年04月21日掲載
医師・歯科医師限定

【論文紹介】Casirivimab and imdevimab in patients admitted to hospital with COVID-19 (RECOVERY): a randomised, controlled, open-label, platform trial

2022年04月21日掲載
医師・歯科医師限定

ダナ・ファーバー癌研究所 メディカルオンコロジー分野

郭 悠先生

論文タイトル(和文)

カシリビマブとイムデビマブのCOVID-19入院患者を対象としたランダム化コントロール、オープンラベルトライアル

選択理由

2019年末に始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックはオミクロン株による「第6波」の流行を迎えている。これまでに既存の治療薬の適応拡大に加え、mRNAワクチンや、経口治療薬、抗体治療薬などが開発され、臨床応用されている。しかし、COVID-19の原因ウイルスSARS-CoV-2の変異株であるオミクロン株はスパイク(S)タンパク質といわれるウイルス表面に発現しているタンパク質に変異があることが報告されている。Sタンパク質にはホスト細胞のAngiotensin-Converting Enzyme 2(ACE2)受容体と結合するReceptor Binding Domain(RBD)があり、SARS-CoV-2では多くの中和抗体がRBDを標的にしていることが知られている。現在、COVID-19治療薬として国内で使用されている抗体カクテル療法「ロナプリーブ」のカシリビマブとイムデビマブはRBDを標的とした抗体の併用療法となっている。

厚生労働省は2021年12月、オミクロン株に対する抗体カクテル療法の有効性が1,000分の1程度低下している可能性があるとしてオミクロン株感染者への使用を推奨しないと公表しているが、依然として変異株は間断なく出現しており、今後またロナプリーブの有効な変異株が出現したり、ほかの抗体や治療薬との併用療法が考案されたりする可能性もある。本研究はRCTでロナプリーブの有用性、安全性を評価している点で一読の価値がある。

要旨

  • イギリスの127の病院においてSARS-CoV-2感染と診断された入院患者で、リスクになると判断された既往歴や入院中のIVIg(免疫グロブリン療法)施行歴がある患者、40kg未満または12歳未満の小児を除外した9,785人を対象とした。
  • 対象者は(1)標準治療群、(2)標準治療+抗体カクテル療法群(カシリビマブ 4g & イムデビマブ 4g)、(3)標準治療+血漿抗体療法群の3つにランダムに分けられ、最終的に標準治療群(4,916人)と標準治療+抗体カクテル療法群(4,790人)のデータが解析された。
  • 治療開始28日後の死亡率は治療開始前の抗体検査で治療前抗体の有無を考慮しない場合は標準治療群19%、標準治療+抗体カクテル療法群21%と有意差がみられなかった(RR 0.94, 95% CI 0.86-1.02; p=0.14)が、抗SARS-CoV-2抗体陰性(seronegative)の症例ではそれぞれ24%vs30%と有意に前者が低かった(RR 0.79, 95% CI 0.69-0.91; p=0.0009)。
  • 同様に28日以内の退院率もseronegative例では標準治療+抗体カクテル療法群が標準治療群より高かった(64% vs 58%;RR1.19, 95% CI 1.09-1.31)。
  • 治療開始前の保有抗体を抗S抗体、抗N抗体に分けた事後解析でも結果は同様だった。
  • 標準治療+抗体カクテル療法の入院時に人工呼吸管理が不要だった症例では、標準治療群の同症例に比べ、侵襲的人工呼吸管理が必要になる、あるいは死亡する確率が低かった。
  • 投与72時間以内にみられた副作用は、標準治療群と比較して標準治療+抗体カクテル療法群で発熱、低血圧、血栓症状の頻度が高かった。

  • 標準治療+抗体カクテル療法群でみられた重度の副作用はアレルギー反応(3件)、めまい(2件)、急性呼吸不全(1件)、一過性意識消失(1件)であり、死亡例はみられなかった。


以上よりseronegative例では標準治療+抗体カクテル療法群が標準治療群に比べ、死亡率、重症化率を下げ、副作用の頻度はわずかに高いものの3項目にとどまる結果となった。

議論となる点・解釈

  • これはワクチンが普及する以前の研究であり、2022年3月末現在、日本におけるワクチン2回接種率が総人口の約80%であることを鑑みると、治療対象者の抗体保有率は本研究時よりも高いことが予想される。
  • ポリクローナル抗体の中には非中和抗S抗体があり、中和モノクローナル抗体の中和活性を阻害する可能性があるが、抗S抗体、抗N抗体保有による分類でも同じ結果が得られたのは興味深い点である。
  • 抗体検査キットには抗S抗体、抗N抗体を使用しているものがある。N抗体はS抗体に比べて中和抗体が作られにくく、現行の抗体カクテル療法には含まれていない。したがって、抗N抗体の結果を抗体カクテル療法の適応の根拠として使用できるかは疑問である。

論文からの学び

ロナプリーブは最初にSARS-CoV-2に応用された抗体カクテル療法であり、実臨床でも経験が積まれているところである。本RCTの結果はこれらの経験を裏付けたといえる。Seronegative例での有用性はmonoclonal抗体療法特有のものである可能性もあり、更なるロナプリーブの効果解析は今後の抗体療法開発にも重要である。

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