2023年04月11日掲載
医師・歯科医師限定

「新しい医学を協創する内科学」テーマに日本内科学会総会・講演会開催――AIがもたらす可能性、内科の醍醐味を語る

2023年04月11日掲載
医師・歯科医師限定

東京大学大学院医学系研究科 内科学専攻器官病態内科学講座 循環器内科学教授

小室 一成先生

第120回 日本内科学会総会・講演会が2023年4月14日(金)〜16日(日)、東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催される(現地開催・Web配信のハイブリッド形式)。特別講演では、医療を取り巻く問題解決の鍵となるAI(人工知能)の活用方法について、AI研究をリードする松尾 豊氏(東京大学工学部)の講演が予定されている。本講演会の会長を務める小室 一成氏(東京大学大学院医学系研究科 内科学専攻器官病態内科学講座 循環器内科学 教授)に注目演題と併せて、内科領域を取り巻く課題やトピック、開催への思いを聞いた。

AIをソリューションとした「新しい医学の協創」

今年の講演会のテーマは「新しい医学を協創する内科学」とした。AIやICT(情報通信技術)を駆使し、今までにない「新しい医学」を創りたいという思いを込めている。これからの医療にAIは必要不可欠なツールとなるだろう。本講演会ではAIをテーマにしたプログラムを複数用意した。特別講演ではAI研究をリードする松尾豊氏に「医療におけるAIの活用」というテーマでお話しいただく。 パネルディスカッションでもAIを使った研究・臨床がどこまで進んでいるのか、複数の先生に具体例を発表していただく予定だ。

これから先、医療はますます高度化、複雑化、先進化、多様化していく。一方で、2024年4月には「医師の働き方改革」の適用が始まり、医師の労働時間を削減する動きが本格化する。さらに日本経済の長期低迷により、十分な研究費が確保できない、医師の給料が上がらない――など医療には多くの問題が取り巻いている。つまり、医師に求められる技能は難しくなる一方で、それに対応するだけの資源が十分に確保できない状況に陥る。将来、日本の医療はさらに厳しい状況なるだろう。医学・臨床レベルの低下も危惧される。その前に早急に何らかの手を打たなければならない。

その解決策の1つとなるのがAIだ。AIの活用方法についてはさまざまな検討が進んでいるが、現時点で有用性が高いと考えられているのは病気のスクリーニングだ。たとえば今、循環器領域では心電図データをAIで解析できるソフトウェアの開発が進んでおり、非常に高い確率で心不全や心房細動を検知できるようになっている。これらの病気は循環器科以外では診断が難しいが、将来的にはその他の診療科でも心電図検査を実施すれば、AIが自動的にスクリーニングを行ってくれるようになるだろう。異常が指摘された場合に循環器専門医に紹介していただくことで、詳しい検査や治療を実施することができる。AIによる病気のスクリーニングは、現場の負担軽減と適切な医療提供に寄与するだろう。

また、現在は病気ごとに画一的な治療が行われているが、AIを活用して膨大な医療情報を収集・解析することで、一人ひとりの患者に適したオーダーメイド治療が実現することも期待されている。膨大なデータの中には、必ず同じような特性を持つ患者群が存在するため、治療歴や効果を突合することで、個々の患者に適した治療法を予想することができるだろう。

AIによる医薬品開発への貢献も期待している。医薬品を開発するための臨床試験には、長い年月と数百億円〜数千億円の莫大な費用がかかる。それがネックとなり、日本の製薬企業は医薬品開発に躊躇している現状がある。しかし、AIによる情報解析であらかじめ薬が効きそうな患者群を見つけ出し、対象者を限定して臨床試験を行うことができれば、費用を大幅に削減することができる。そうなれば医薬品開発を行う製薬企業への大きな後押しとなるだろう。

患者の声を聞き「協創」する医学

「新しい医学」の創出は、医師をはじめとする医療従事者の力だけでは不可能で、医薬品や医療機器の企業、さらには患者や家族など国民全員の知恵と力を結集させた「協創」が必要となる。たとえば、診療ガイドラインの作成をする際は、当事者である患者にも加わっていただき、意見を取り入れながら作成する必要があると思っている。大規模臨床試験のプログラム作成においても同様だ。

日々の臨床でも、医療者はもっと患者の声を聞くべきである。私たちは毎日のように外来や病棟で患者を診ているが、そのわずかな時間で患者のことを完全に理解することはできない。毎日何をして過ごし、何を食べて、何を思い、何に困っているのか――。たとえば、自ら言わなくとも、よくよく聞くと本当は薬を飲むと気持ちが悪くなり困っていることもあるかもしれない。そうしたことをまったく知らずにいれば、適切な治療はできない。

治療効果を上げるには医学の進歩が必要だ。しかしそれ以前に、治療を進めるうえで患者の声にしっかりと耳を傾けることが何よりも重要である。それが最終的に医学の進歩につながるのだ。

苦労を超えた先に本物の感動がある――内科医の魅力とは

講演会の2日目、4月15日(土)には『医学生・研修医・専攻医の日本内科学会ことはじめ2023 東京』を行う。若手医師の内科離れが進んでいるなか、内科の魅力を多くの若手医師に知ってもらい、内科に興味を持ってもらえるきっかけになればと思い企画した。

内科学は臨床医学の基本であり、何らかの症状があるとき、多くの患者はまず内科を受診する。そこである程度の診断を行ってから適切な診療科に患者を紹介し、内科的な病気であれば自身らでさらに詳しい検査をし、治療を行う。つまり、内科医は全ての病気の“ゲートキーパー”なのだ。また内科医が扱う病気は非常に多く、病気によっては長きにわたり1人の患者と付き合っていくこともできれば、一瞬にして命を落とし得る病気から患者を救うこともできる。バラエティに富んだ診療科であり、どんな医師でも自分にあった専門領域を選ぶことができるだろう。

内科は研究面での魅力も大きい。病気の“ゲートキーパー”である内科医には、他科に比べてよりいっそうの診断能力が求められる。「なぜこの患者はこの病気になったのか」を常に深く考えながら診療するのが内科の仕事だ。病態解明においては、内科学だけではなく、生理学、生化学、分子生物学、さらには工学など幅広い学問の知識を扱う総合的な力が求められる。これは内科医としての醍醐味である一方で、「ハードルが高い」というイメージゆえに内科医を志すことを諦めてしまう若手医師も多いかもしれない。

確かに簡単ではないが、若い人たちには苦労の先にあるやりがいや感動を求めてほしいと思っている。簡単なことは何の感情も伴わずに簡単に終わってしまう。本当にワクワクするような面白さや感動は、大変なことを乗り越えた先に待っているのだ。若い人々には、そのような感動を追い求める人生を送ってほしい。

新専門医制度への考え――「本当によい専門医の育成はどうするべきか」を軸に

2018年から始まった新専門医制度は「いかに優れた専門医を育成するか」が主眼であり、それに向けて専門医制度委員会の先生たちをはじめ、多くの関係者が試行錯誤しながら制度の検討を進めている。しかし、いまだ理想的な姿が見えていないのが現状だろう。

新専門医制度の問題点の1つとして、専門医取得までの年月の長さが挙げられる。基本領域の研修で内科専門医を取得した後は、循環器内科や呼吸器内科などのサブスペシャリティ領域の研修プログラムに進む。その後でようやく、より専門的な資格(循環器内科における心血管インターベンション治療専門医など)を取得することとなる。若いうちは海外留学を経験したい人もいるだろうし、女性であれば妊娠・出産を考える人もいるだろう。専門医資格を取るために若いときの貴重な時間を費やしてしまっては、こうしたイベントに使う時間を取りづらくなり、専門医を目指す医師は少なくなる。特に循環器内科離れは深刻であり、非常に危機的な状況だ。

だからといって、専門医資格を短期間で簡単に取得できるようにすればよいという問題ではもちろんない。理想的な制度にするためには、これから専門医を目指そうとしている若手医師の意見をもっと聞くべきだろう。ほかにも、すでに専門医を取得した医師の意見、指導者の意見なども聞きながら「本当によい専門医を育成するにはどうしたらよいか」という目的を見失わずに考えていかなければならない。

恩師への感謝を胸に

今回、講演会の会長を務めるにあたって思い浮かぶのは、これまで私を温かく指導・支援してくれた恩師の姿だ。私は東京大学を卒業後、東京大学医学部附属病院第三内科に入局した。内科研修で第一、第二、第三内科を回ったなかで、研究・臨床面においてもっとも魅力に感じたのが第三内科だった。“エリート集団”と言われる第三内科に自分が入れるのか不安に感じていた時、私に声をかけてくださったのが、故・高久 史麿先生と宮園 浩平先生だった。お2人の「一緒に臨床・研究をやりませんか?」という誘いに感激し、その場で第三内科に入局することに決めた。

入局後、第三内科の循環器グループに入ることに決めたのは、矢﨑 義雄先生との出会いがきっかけだった。私は、臨床面では循環器、研究面では代謝やがんに興味があり、専門領域に悩んでいた。その時に「生化学・分子生物学を中心に循環器研究を発展させていこう」と矢﨑先生にかけていただいた一言が、私を循環器に進む決断をさせてくれたのだ。矢﨑先生はとても懐が深い方で、自由奔放な私を制限することなく、厳しく指導しながらも自由に臨床・研究をさせてくれた。また、永井 良三先生、門脇 孝先生にもいろいろなことを教えていただき、今でも私を支援してくださっている。こうした先生方と一緒に臨床・研究に携わってこられたことは本当に幸せなことであり、恩師への感謝を糧に今後も邁進していきたい。

講演会の開催に向けて

今年の講演会は現地開催とWeb配信のハイブリッド形式としたが、新型コロナウイルス感染症も収束しつつあり現地参加を考えている医師も多いだろう。ぜひ対面で多くの方と活発にコミュニケーションを取っていただき、対面でしか得られない臨場感を味わってほしい。現在の内科領域における臨床、研究、社会的側面などに関する課題やトピックについて、3日間にわたって豊富なプログラムを用意している。新しい内科学について考えていただく場にしたいと考えているので、ぜひ奮って参加いただきたい。

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