2023年03月06日掲載
医師・歯科医師限定

【第55回日本てんかん学会学術集会レポート】 東日本大震災やCOVID-19パンデミックなどのクライシスに対する医療マネジメント活動――本部の機能と情報収集の重要性

2023年03月06日掲載
医師・歯科医師限定

東北大学病院 総合地域医療教育支援部 教授

石井 正先生

震災や感染症のパンデミックなど有事に対する適切な医療活動は、被害を最小限に抑え、医療崩壊を防ぐために重要である。石井 正氏(東北大学病院 総合地域医療教育支援部 教授)は、第55回日本てんかん学会学術集会(2022年9月20~22日)で行われた講演の中で、東日本大震災発生時の宮城県災害医療コーディネーターとしての活動、および新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による感染災害に対する東北大学の取り組みについて紹介した。

東日本大震災における有事医療

最大の被災地となった石巻医療圏

2011年3月11日の東日本大震災の発生当時、私は宮城県の石巻赤十字病院に赴任していた。震災による全国の死者数・行方不明者数は18,000人強であり、同院のある石巻医療圏はそのうち6,000人弱を占める最大の被災地となった。石巻医療圏の避難者数は46,480人(把握分)にのぼり、市役所は水没して保健所も被災し、石巻市内の多くの施設が機能停止となった。石巻赤十字病院は地理的に水没をまぬがれ、どうにか平常機能を維持していた。街の機能がほとんど失われたと言っても過言ではない状況だった。

震災直後にまず何をしたか――救護チーム本部の立ち上げ

私は、震災の約1か月前である2011年2月12日より宮城県災害医療コーディネーターを拝命していた。災害医療コーディネーターは2009年に設置された役割であり、大規模災害時における医療確保のための調整役を担う。2022年4月現在、30人が委嘱されている。

震災発生後はまず、日本各地から駆け付けるさまざまな救護支援チームを取りまとめるために本部の立ち上げを急いだ。東北大学、行政、医師会、薬剤師会および歯科医師会などと調整しながら、同月20日には各救護支援チームを巻き込んだ「石巻圏合同救護チーム」を立ち上げた。救護支援チームには、JMAT(日本医師会災害医療チーム)、大学病院チーム、日赤救護班、各病院チーム、自衛隊医療班、NPOチームなどがあり、最終的に石巻圏合同救護チームが参集したチーム数は、重複も含めて3,633(登録累計955)にのぼった。また、石巻圏合同救護チームの本部には、赤十字本社から計1,173人の応援をいただいた。

本部の重要な役割は、参集した救護支援チームが全てのエリアに切れ目なく来られるよう調整することであった。石巻医療圏を複数のエリアに分け、それぞれのエリアに常に3~5チームの救護支援チームがいるように割り当てた。各チームは通常5日ほどで入れ替わるため、第1班、第2班、第3班……とリレー方式で継続的・周期的に救護できる体制を構築した。

石井氏講演資料(提供:石井氏)

避難所の状況把握と対応

救護チーム本部の立ち上げと同時進行で、避難所の状況把握も行った。石巻医療圏の避難所は300か所以上にのぼったが、市役所も状況を把握できていない状態であった。まずは状況を知ることが重要と判断し、傷病者情報のほか、水、食事、電気、毛布、暖房、トイレなどの衛生状況といった項目を記したアセスメント用紙を作成して、医師による各避難所の評価を実施した。評価は「◎、〇、△、×」の4段階とし、基準は設けずに各医師の主観に任せた。全避難所への巡回および評価を3日間で完了し、その後もデータの更新を継続した。

初期評価終了後、全てのアセスメント用紙のデータを解析した。4段階評価のうち△および×のついた項目の地域に対し、行政の体制が整うまでの一時的な施策として以下を実施した。

(1)衛生状態が劣悪な避難所約100か所への公衆衛生対策

  • ラップ式トイレを116台配布
  • 手洗い装置を11か所設置
  • 感染管理看護師による巡回指導


(2)本院の負担軽減のため、サテライト救護所を2か所設営

(3)無医地域に定点救護所を2か所設営

(4)回復遅延地域への支援

  • 在宅被災者も利用可能な定点救護所を4か所設営
  • 無料医療支援バスを提供


(5)市営要介護者用避難所2か所の立ち上げサポート

(6)病院の未使用フロアを間借りし、災害弱者用の療養型避難所を立ち上げ

(7)巡回時処方薬の後日配達システムを確立

感染症蔓延の発生を抑え、医療崩壊を防ぐことに成功

我々がデータを収集していた傷病7項目(発熱、咳、嘔吐、下痢、インフルエンザ、呼吸器疾患、呼吸困難)については、3月30日~4月5日をピークとし、その後は著しく減少した。行政によるさまざまな施策は4月ごろから始まったが、震災発生からそれまでの期間は感染症の蔓延および感染爆発は発生せず、医療崩壊を防ぐことに成功したと考えている。

石井氏講演資料(提供:石井氏)

地域感染制御のためのCOVID-19対策

インパクトを繰り返す感染災害への対策

COVID-19の拡大は“感染災害”である。災害の一種ではあるものの、ファーストインパクトを最大としてその後は落ち着いていく通常の災害と異なり、COVID-19は感染拡大のインパクトを繰り返すのが特徴である。そのため、持続可能な体制の構築が必要となる。

東北大学が取り組むCOVID-19の地域対応

東北大学ではCOVID-19に対し以下の地域対応を実施した。なお、実績は記載がなければ2022年8月時点のものである。

(1)東北大学ワクチン接種センター(設置日:2021年5月24日)

  • 1、2回目接種(シーズン1)、3回目(シーズン2)、3、4回目接種(シーズン3)と3期に分けて開催
  • 13大学拠点職域接種の取りまとめ
  • 会場内に救護室を5部屋設置して急変に対応
  • 接種実績:786,329件(2022年7月31日実績)


(2)ドライブスルー型PCR検査外来(設置日:2020年4月21日)

  • 1.保険証撮影→2.チューブの確認→3.検温→4.問診および案内書類手渡し→5.検体採取の流れで実施
  • 累計:15,873件(2022年6月6日まで:6月7日より休止)


(3)コロナ陽性者外来アセスメント(設置日:2021年7月24日)

  • 仙台市内の新規陽性者に対する外来アセスメント(CT検査、採血など)の一翼を担う
  • 累計:52件(2022年8月まで)


(4)新型コロナウイルス感染症対応病院長等会議の主導(設置日:2020年3月31日)

  • 東北大学病院長が議長となり、県内主要25病院の院長や宮城県知事らと各病院のベッド数、入院患者数、新規陽性者数などの情報共有、入院病床の確保、医療課題の解決を行う


(5)宮城県新型コロナウイルス感染症医療調整本部の主導(設置日:2020年12月10日)

  • 陽性者ケアのマッチング調整(入院or医療機能付きホテル療養orホテル療養)
  • 陽性者の外来アセスメント調整など
  • 入院調整数は累計4,285件、ホテル調整数は累計51,252件(2022年8月まで)


(6)入院受け入れ(設置日:2020年3月)

  • 入院数累計568件(2022年8月まで)


(7)宿泊療養施設(ホテル)支援(設置日:2020年4月16日)

  • 宮城県内の宿泊療養施設12棟のうち8棟で主体的にオンコール支援を実施。入所者数の61.8%をカバー(2022年8月まで)
  • 1棟に医療機能を付帯。入所者に対し往診の形式でX線検査や採血を可能にした
  • 医療機能付きホテルのステーションには看護師や医師が常駐、ステーションから各患者の酸素飽和度の遠隔モニタリングを実施
  • 東北大学病院の診療端末を施設に持参し、その場で検査や処方を可能にした


(8)高齢者施設支援体制(設置日:2021年5月1日)

  • 各施設の必要に応じて感染制御指導、施設業務継続支援、診療支援を実施
  • 感染制御指導は累計114件、業務継続支援および診療支援は累計41件


(9)宮城県抗体カクテル療法センター(2021年9月6日~10月11日)

  • 医療機能付きホテルで実施
  • 計82例に投与


(10)東北大学病院小児点滴センター(2022年8月に開始し現在10件実施)

  • 医療機能付きホテルで実施
  • 新規陽性者の中から医療調整本部内の小児科アドバイザリーボードで治験対象者を選定


石井氏講演資料(提供:石井氏)

COVID-19の地域対策の成果

2022年9月15日時点で、宮城県のCOVID-19による10万人あたりの死者数は全都道府県中7番目に低く、感染者数における死亡率は10番目に低かった。これを人口密度200人/m2以上の28都道府県内で比較すると10万人あたりの死者数はもっとも低く、地域対応の成果が出たものと考えている。

有事医療への取り組み方

災害などに対する有事医療に取り組む際は、まず本部を立ち上げる必要がある。本部には事務局機能および情報収集・分析機能をつけたうえで、相応の権限、目的・理念、マンパワーの確保が求められる。本部ができたら関係組織とのコネクションを築き、次々と表出する課題に対応していく。

課題に対応していくためには、PDCAサイクルを回すことが基本であり重要である。まず、情報収集によって現状把握・検証を行い、得た情報を意味のある情報にもち上げる「インテリジェンス化」によって現状を分析する。次に実行可能な解決策を立案・実行する。このようなPDCAサイクルは、医療現場においてすでに実施されている、新患を検査・診断して治療を行い、効果を確かめるといった普段の診療と変わらないだろう。

有事医療において、「情報がなかったから」といった言い訳は通用しない。情報を制するものが全てを制すると考え、情報収集の体制を確立してまずは収集に励むべきだ。また、情報を得るだけでなく、必ずインテリジェンス化を行ってそれを基に的確な対応を取ることが重要である。

講演のまとめ

<東日本大震災に対する医療体制>

  • 震災発生後は行政や医師会・薬剤師会などと協力し、石巻圏合同救護チームの本部を立ち上げた
  • 日本各地からの救護支援チームが各エリアに切れ目なく来られるよう調整した
  • 全被災地の衛生状況などのアセスメントを実施し、得られた情報を精査して各被災地に必要な対策を講じた


<COVID-19感染災害に対する医療体制>

  • COVID-19はインパクトを繰り返す感染災害であり、持続可能な体制の構築が必要となる
  • 東北大学では、ワクチン接種センターでのワクチン接種から入院受け入れ、ホテル、施設、自宅の療養者の支援、全体の調整まで、住民およびCOVID-19患者の疾病予防から治療までを一連の流れでサポートした


<有事医療への取り組み方>

  • 有事発生後はまず本部をつくることが大切である
  • 次々と表出する課題にはPDCAサイクルを回して対応する
  • 情報は自ら収集し、意味を持たせるためのインテリジェンス化を行うことが大切である

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