2021年09月30日掲載
医師・歯科医師限定

【インタビュー】「貯筋」につながるレジスタンス運動――超高齢社会で高まる重要性(1900字)

2021年09月30日掲載
医師・歯科医師限定

虎の門病院 院長

門脇 孝先生

糖尿病の患者数は非常に多い。現在、日本には約1000万人もの糖尿病患者がいるといわれる。糖尿病特有の合併症としては糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害があり、さらに、糖尿病は動脈硬化症のリスクを高めることが知られている。動脈硬化症はさまざまな疾患を引き起こすが、その中で特に重要なものが心筋梗塞と脳卒中だ。そして最近では、超高齢社会となった日本で、糖尿病に合併する心不全が増加している。これらの合併症をいかに抑制するかが、糖尿病治療のもっとも重要な目的である。


糖尿病治療の中心は、血糖値をコントロールすること。血糖値は食事内容や食事を取ってからの時間等で刻々と推移するため、24時間の血糖値の水準を測る指標としてHbA1cを用いる。HbA1c(%)は、ヘモグロビンにブドウ糖が結合したもののHb全体に対する割合を表す。赤血球寿命との関係で、過去1〜2か月間の血糖値を反映すると考えられる。糖尿病の定義は「慢性高血糖」なので、血糖値は空腹時≧126mg/dl、経口ブドウ糖負荷試験2時間値≧200mgdl 、随時≧200 mgdl のいずれかに加えて、HbA1cが6.5%以上の場合、糖尿病と診断する。合併症を抑制するためには、HbA1cを7%未満に抑える必要がある。

糖尿病治療の基本は食事療法や運動療法で、そのうえで薬物療法を検討する。その際、HbA1cを7%未満に抑えることが重要だが、糖尿病治療薬の中には副作用として低血糖を起こす薬がある点に留意しなければならない。また、低血糖になると空腹感が生じて食欲が増すため、それによって患者の体重が増加しやすい。これまでの検証では、HbA1cが7%未満であっても、低血糖や体重増加が起こると合併症は増加することが分かっている。そのため、低血糖や体重増加を起こさずにHbA1cを7%未満、可能であれば6.5%未満にコントロールすることが重要だ。


食事療法と運動療法の2つがうまくいかなければ、どれだけ薬物療法を試みても血糖値のコントロールは難しい。食事については腹八分目を心がけ、カロリーの過剰摂取を避けること、そして糖質・脂質・タンパク質をバランスよく取ることが重要だ。運動では、有酸素運動が非常に大事である。筋肉を動かすことでブドウ糖が筋肉に取り込まれるからだ。たとえばウオーキングやジョギングなどは心肺機能を維持するうえで重要であり、さらには血糖値をコントロールするという観点でも有用な運動といえる。


糖尿病治療の運動で最近特に注目を集めているのが「レジスタンス運動」だ。これは軽いバーベルを使って上肢の筋肉量を増やしたり、筋力を増強したりする筋肉トレーニングで、スクワットなど自分の体重で体幹の筋肉を増やすという運動も含まれる。

なぜレジスタンス運動が注目されているのか。その背景には、超高齢社会で糖尿病患者のうち高齢者が占める割合が年々増加している現状がある。ご存知のとおり、糖尿病のもっとも大きな因子として肥満やメタボリックシンドロームがある。これらに対して一般的には食事療法や運動療法を試みてきた。運動としては内臓脂肪がよく燃焼する有酸素運動が有用である。そのため肥満・メタボリックシンドロームへの介入方法として有酸素運動が行われてきたのだ。

しかし一方で、高齢(特に75歳以上)になると加齢に伴い筋肉が減り、「サルコペニア」に陥ることが非常に大きな問題になっている。サルコペニアが進行すると、「フレイル」や「ロコモティブシンドローム」に進行する場合がある。このような状態に対してきちんと介入しなければ、不可逆的な寝たきりの状態に陥る可能性が高い。結局のところ、サルコペニアの時点でうまく介入できなければ、ADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の維持、あるいは健康寿命・寿命そのものを延伸させることは難しい。


これまでの話をまとめよう。肥満・メタボリックシンドローム対策には有酸素運動が重要であるが、サルコペニアやフレイル、ロコモティブシンドロームが懸念される高齢者の場合は筋肉をつけることが肝要であり、そのためにレジスタンス運動が注目されている。

元々筋肉量が多い方の場合、加齢に伴って筋肉が減ってもある一定のレベルまで落ちるには時間がかかる。すなわち予備力があるのだ。そのため、65歳になるまでに筋肉量を増やし、貯めておくことが重要となる。これを今、「貯筋」と呼んでいる。心肺機能の維持、血糖値のコントロールに有用な有酸素運動はもちろん大事であるが、それに加えてレジスタンス運動を行うことが近年の糖尿病治療に対する運動療法では重要とされていることをお伝えしたい。

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