2023年03月06日掲載
医師・歯科医師限定

【インタビュー】進化するテクノロジーを駆使し循環器領域の発展に向けたチャレンジを――次世代を担う若者に向けて筒井 裕之氏(九州大学)からのメッセージ

2023年03月06日掲載
医師・歯科医師限定

九州大学大学院医学研究院 循環器内科学 教授

筒井 裕之先生

日本循環器学会は2023年3月10日〜12日、福岡国際会議場/福岡サンパレス/マリンメッセ福岡(いずれも福岡市博多区)で学術集会を開催する(現地開催・一部オンデマンド配信あり)。学術集会のテーマ「New Challenge with Next Generation」には、次世代を担う若手とともに循環器領域の発展に向けてチャレンジし続けたいとの思いが込められている。これまでの循環器領域の進歩や循環器内科医の役割、若手にかける思いについて大会長の筒井 裕之氏(九州大学大学院医学研究院 循環器内科学 教授)に聞いた。

循環器診療におけるトピックと進歩

日本における超高齢化は、循環器診療に多大な影響をもたらしている。今後、心不全患者が急増する「心不全パンデミック」も予想されるなかで、大きな注目を集めているのが「SGLT2阻害薬」である。SGLT2阻害薬はもともと糖尿病治療薬として登場した血糖降下薬であるが、複数の大規模臨床試験において、糖尿病の有無にかかわらず心不全や慢性腎臓病にも予後改善効果があることが証明された。2020年にはSGLT2阻害薬に慢性心不全の適応が追加され、現在新たな心不全治療薬として期待が集まっている。

また、循環器領域の進歩を象徴しているのがインターベンションとデバイス治療だろう。従来から盛んに行われてきたPCI (経皮的冠動脈インターベンション)やペースメーカー植え込み術に加えて、最近では大動脈弁狭窄症に対するTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)、僧帽弁閉鎖不全症に対するマイトラクリップ(経皮的僧帽弁クリップ術)、心房中隔欠損症のカテーテル治療など多様な治療法が登場し、その技術もより高度化してきている。

循環器内科医に求められる3つの役割

こうした時代の中、今の循環器内科医には3つの重要な役割があると考えている。(1)ジェネラリティ(2)サブスペシャリティ(3)救急対応――だ。

超高齢社会の中で多様な併存症・合併症を持つ治療管理が難しい患者が増加し、循環器内科医にも内科全般に関する幅広い知識が求められている。また疾患の治療だけではなく、患者の退院後の生活などを考慮した「全人的医療」の提供についても考えなければならない。

一方で先に述べたとおり、難易度の高いインターベンション治療が登場し、循環器内科医としての高い専門性「サブスペシャリティ」も身につける必要がある。さらには急性心筋梗塞や不整脈、心不全など緊急性の高い疾患を多く診る循環器内科には、迅速かつ適切な救急対応も求められる。ジェネラリティとサブスペシャリティを両立させながら、救急対応もこなすのは容易ではない。こうした循環器内科医に対する「大変そう」というイメージは循環器内科医を志す医師が増えない理由の1つかもしれない。

「多様なキャリアパス」が描ける循環器内科

しかし3つ全ての役割を1人でこなす、いわゆる“スーパードクター”を全員が目指す必要はないと考えている。1人の医師に委ねるのではなく、異なるスキルを持った多様な人材を擁するチームをつくりあげる力が、循環器内科をまとめるマネージャーには求められる。

近年、ダイバーシティ(多様性)という言葉が社会に浸透してきているように、医師の働き方や考え方にも多様性が増してきているように感じる。循環器内科医には多くの役割が求められているからこそ、多様なキャリアパスが形成できる魅力があると考えている。「ジェネラリテイを高めて高齢者医療に力を入れたい」「インターベンション治療などの高度なスキルを身につけたい」「救急対応力を高めたい」「エコーなど非侵襲的イメージングによる診断を得意としたい」……など描けるキャリアパスはさまざまだ。そして、マネージャーは各々の目標に見合ったキャリアパスを提供していかなければならない。

「そもそもチームに人員がいなければ、1人が何役もこなす必要があるのではないか」という意見もある。その場合には、自分たちのチームが重点的に行う領域を定めるとよい。限られた人員で全ての領域をカバーしようとすれば、疲弊してむしろ破綻してしまう。地域の中で各病院の果たす役割分担を定めておき、連携して患者を診ていく体制をつくる必要があるだろう。

テクノロジー進歩がもたらす循環器研究の魅力

研究面でも循環器領域の進歩は著しい。従来からの循環器研究は生理学や生化学、形態学に基づく手法で行われてきたが、現在では蛋白や遺伝子レベルで研究ができるようになってきている。さらにGWAS(ゲノムワイド関連解析)を用いることで、遺伝的多型と疾患発症の関連について網羅的に調べられるようにもなってきた。我々が医師になった頃とはまさに隔世の感がある。これからの循環器研究も、日に日に進化するテクノロジーを使いながら新たな研究に挑戦し続けていかなければならない。そして日本から世界に向けて研究成果を積極的に発表していってほしい。

未来を担う若者へ――常にチャレンジャーであり続けよ

少子高齢化社会による生産年齢人口(15〜64歳)の減少が続いているなかで、将来の働き手確保が難しくなっている。特に医療は多くの人的資源が必要となる分野だ。限られた人材で医療を行っていくためには「効率化」は避けて通れない喫緊の課題だ。ただし、効率化を重視するあまり医療の質を落とすことがあってはならない。むしろ、一人ひとりに最適な「個別化」された医療提供により、医療の質向上を目指していく必要がある。効率化と個別化、2つの実現を可能とするのがAI(人工知能)の活用だろう。AIを実効性のあるものにするためには多層かつ多次元の医療情報プラットフォームを構築していく必要もある。

次世代を担う若い人々には、こうした将来の医療課題に果敢にチャレンジを続けてほしい。今年の学術集会のテーマ「New Challenge with Next Generation」にもその思いを込めた。「Next Generation」は医師、研究者、メディカルスタッフなど今後の循環器領域を担うあらゆる人材を意味している。新しいテクノロジーを駆使しながら、目の前の臨床・研究はもちろん、将来の課題解決にも積極的に取り組んでほしい。我々は現状に満足してとどまってはならず、常にチャレンジャーであり続けなければならない。

今年の学術集会は3年ぶりの現地開催となる。若手医師の中には日本循環器学会にオンラインでしか参加したことがない方もいるだろう。ぜひ今年は現地参加いただき、多くの人と直接交流してほしい。同じ研究を行っている者同士、顔を合わせて議論することで新たな研究に発展することもある。名の知れたエキスパートから直接話を聞くこともよい刺激になるだろう。ぜひたくさんの経験を学術集会で得てほしい。

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