2023年04月27日掲載
医師・歯科医師限定

「知の融合で拓く未来」見据え日本呼吸器学会学術講演会開催―大会長、髙橋 和久・順天堂大教授が注目演題など紹介

2023年04月27日掲載
医師・歯科医師限定

順天堂大学医学部附属順天堂医院 院長(呼吸器内科 教授)

髙橋 和久先生

日本呼吸器学会は2023年4月28~30日、東京都千代田区の東京国際フォーラムで第63回学術講演会を開催する。COVID-19の影響でオンサイトでの議論や情報交換の場が限られた期間を乗り越え、「知の融合が拓く呼吸器病学の未来」を見据えて多数の充実したプログラムを準備している。大会長を務める順天堂大学医学部附属順天堂医院 院長/呼吸器内科学教授、髙橋 和久先生に学術講演会の見どころや呼吸器内科学の魅力、抱える課題などを聞いた。

テーマに込めた3つの意味

今回のテーマは「知の融合が拓く呼吸器病学の未来」とした。ここには、呼吸器学の内部、呼吸器学会とほかの専門学会、医師と患者・家族――という3つの連携、あるいは知の融合を目指す、という思いを1つのキャッチフレーズに込めている。

まず、呼吸器学が対象としている疾患は非常に多岐にわたる。がんもあれば、COPD(慢性閉塞性肺疾患)のような慢性疾患、COVID-19に代表される感染症、肺循環障害――など、同じ呼吸器を専門にしている医師でもサブスペシャルティが非常に多い。COVID-19の影響によってオンサイトで会うことができず滞っていた、サブスペシャルティ間の情報共有、情報交換を再開することで知の融合をしようというのが、1つの意味だ。

膠原病肺のように皮膚病変を伴う肺疾患が多数あることから、今回初めて日本皮膚科学会と共同企画を行うなど、ほかの領域との知の融合は呼吸器疾患の理解をより深めるため非常に重要であることが、もう1つ意味するところだ。

PPI(Patient and Public Involvement:医学研究・臨床試験における患者・市民参画)が近年、非常に重要視されている。医師以外の市民、患者、家族のさまざまな声は、学会にとっても臨床試験でも非常に重要で有用だ。医師以外の声、考えとの融合で、呼吸器学の将来が展望できるのではないかというのが3つ目の意味になっている。

第63回学術講演会のポスター(日本呼吸器学会提供)

一般演題1200以上、“レジェンド”たちの講演も

今回は一般演題が1200題以上にも上り、盛りだくさんな内容になっている。その中から、会長として力を入れている企画をいくつか紹介する。

会長特別企画の中でも、リアルワールドデータ(RWD)の利活用、COVID-19、希少疾患関連のセッションと、「Meet the Legends」にご注目いただきたい。

RWDは、臨床研究において今後ますますその重要性が高まっていくと思われる。今回は主に肺がんにおけるデータベース研究の最前線を報告してもらう。

COVID-19やコロナ後遺症の治療・研究は、日本感染症学会とともにわれわれ呼吸器学会がメインの1つである。▽感染症危機管理の課題▽COVID-19は完全になくなるのか、それとも共存の時代が続くのか▽後遺症研究の現状▽次のパンデミックへの備え――などさまざまな角度からCOVID-19を振り返り、今後を展望する。

なかなか日の当たらない希少疾患についても、スポットを当てる。呼吸器領域にはリンパ脈管筋腫症や嚢胞性肺疾患など希少疾患が多数あるが、大規模な臨床試験が難しく治療薬はなかなか出てこない。小児のうちは小児慢性特定疾病対策によってさまざまな支援があるが、成人になるとその支援が途切れるものも少なくない。そうした患者への支援を国にはたらきかけることが必要だ。

移行期・難病医療の現状と課題に加え、厚生労働省の担当者による国の難病対策の動向などについての演題がある。

Meet the Legendsでは、先人たちへの敬意と感謝を込めて、呼吸器病学に貢献した名誉会員の先生方にレクチャーをしていただく。福地 義之助・順天堂大学名誉教授を座長に、“レジェンド”と呼ぶにふさわしい方々が登壇の予定だ。

欲張りすぎて見どころが盛りだくさんになっているが、5月末まではオンデマンド配信もある。全日程を通して参加できない人、時間が重なるなどで見られなかったプログラムは配信でご覧いただきたい。

呼吸器内科が抱える3つの課題

テーマの話でも少し触れたが、現在の呼吸器内科学には▽縦割り▽市民参加▽国に対するメッセージ発信の不足――といった課題がある。

まず縦割りについては先ほど話したとおり、呼吸器内科学は非常に多種多様な疾患を対象としている学問であり、それぞれのサブスペシャルティ同士のつながりが弱くなってしまうきらいがある。そこに横串を通し、同じ学会として連携する体制を作っていくことが必要だ。

学会だけの範囲に収まるものではないが、市民/患者参加が足りないことも課題である。たとえば、学会が主催する市民公開講座は、参加者がただ話を聞くだけではなく、企画自体を市民とともに作っていくことが理想だ。

臨床試験でも実際に患者の意見を取り入れているものがある。最近では、患者からの発案で既存の抗がん薬の適応拡大を目指した「KISEKI trial」という試みが注目されている。患者ニーズが高いため、臨床試験の参加者はあっという間に集まり、2022年12月の日本肺癌学会学術集会で、その結果が発表された。臨床試験に入る前にPMDA(医薬品医療機器総合機構)と相談を済ませていたため、効果が認められれば適応拡大・添付文書が改訂される可能性がある。

また、臨床試験の説明同意文書作りに患者が参加した例もある。われわれが作ると「あれもこれも書かなくてはならない」と、長くて複雑になり、ほとんどの患者には理解できないものになってしまう。そこに患者の意見を取り入れると、非常に分かりやすいものができる。

こうした具体的な患者参加が、いくつかの学会や各地の臨床試験グループなどで行われている。特に希少疾患の治療開発などで、そうした患者参加を進めるべきではあるが、呼吸器学会ではあまり行われていない。

国へのはたらきかけについては、たとえば健康寿命を延ばす目的で立法された「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法(2018年)」に基づき「循環器病対策推進基本計画」が策定されたように、呼吸器の分野でも国民の健康増進に寄与できる政策はいろいろとある。そうしたものを政策立案者に向けて発信する努力をもう少ししていかなければいけない。今年はできなかったが、学術講演会に厚生労働省や文部科学省の担当者を呼んで、われわれの活動をアピールするようなことはもっとやっていかなければいけないと思っている。

「難攻不落の山」に挑む魅力

私が呼吸器内科を目指したのは「難攻不落の山に挑みたい」という思いからだった。医師になろうと思ったのは、難治であるがんの診療と研究をし、がんを薬で治せるようにしたかったからだ。医学部では将来の進路として呼吸器内科と脳外科のいずれかで迷ったが、初志貫徹して「薬で治す」内科を選んだ。当時は肺がんや間質性肺炎など、何の治療法もない病気が呼吸器にはいくつもあった。高校時代に山岳部に所属し、数々の難度の高い山を攻略した。その延長線上にあった難攻不落の“不治の病という山”を攻略する道を選んだ。

呼吸器内科に入局以来、多くの患者と接してきた。印象深い患者は多くいるが、その中でも治療がうまくいかず悔しい思いをした患者と交わした会話を、より鮮明に記憶している。それが私自身の臨床・研究・教育へのモチベーションになっている。自分以外の人でも治療ができるのであれば、その人がやればいい。皆が困っていることの解決を目指す。それこそがまさに難攻不落の山である。攻略したければ、「経験学」ではなく研究、臨床をすることが大切だ。そこはクリニカルプラクティス、クリニカルクエスチョンがたくさん落ちている、“宝の山”でもある。それを見つけ、一つひとつ解決していく姿勢が大切だ。

呼吸器内科は“欲張り”な人に向いていると思う。

具体的には、急性期、慢性、終末期のどの患者も診ることができる。急性呼吸不全に対する人工呼吸管理といったような急性期の治療をはじめ、治せる病気はたくさんある。COPDや間質性肺炎といった完治が難しく長期にわたって療養が必要な人を診ることもできる。そして、がん患者などの終末期にも寄り添うことができる。「全人的な医療」をやりたいと望んでいる人には合っているだろう。

また、チャレンジ精神のある人にとってもやりがいがある領域だと思っている。治療法の進歩で治る病気が増えている現代においても、いまだに治せない病気が多く残っている。その中で自分にも何かできるのではないか、40年ほどの医師としての人生の中で患者のためにできることを成し遂げたいと希望しているのであれば、挑戦しがいがある。

呼吸器内科は感染症科とともに中心になってCOVID-19と闘ってきた。スタッフも含めていまだにその影響は残っている。疲弊してしまう人もいたが、やりがいを支えに頑張っている人が多い。そうした観点からも、呼吸器内科医は人に頼られ、信頼される医師であり、ニーズの多い疾患を専門にしているといえる。

先人への敬意と感謝込め運営

63回を数える呼吸器学会学術講演会で、順天堂大学が担当するのは、第19回(1979年)、故本間 日臣教授▽第34回(1994年)、故吉良 枝郎教授▽第41回(2001年)、福地 義之助教授――についで4回目になる。本間氏はびまん性肺疾患、吉良氏は肺循環、福地氏はCOPDや誤嚥性肺炎、そして私はがんが専門――といったように、順天堂大学の呼吸器内科にはいろいろな専門領域にそれぞれリーダーがいて、どの呼吸器の病気を診たいという人でも全て対応が可能だ。そうした歴史と伝統に支えられた専門性があるので、学術講演会をしっかりサポートできる体制が作れるのだと思っている。みどころで説明した「Meet the Legends」に登場する先輩たちは、同じように呼吸器学会の歴史と伝統を作ってくれた。そうした先人たちに敬意と感謝を込めて、今年の学術講演会を成功させたいと思っている。

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