2021年09月30日掲載

糖尿病と精密医療――日本人特有の遺伝子の発見、今後の可能性

2021年09月30日掲載

虎の門病院 院長

門脇 孝先生

糖尿病に関する遺伝子については、個別化医療・精密医療(プレシジョンメディシン)の観点で大きく3つの研究が行われている。1つ目は2型糖尿病の予知・予防。2つ目は薬剤反応性、すなわち薬の効きやすさの個人差に関して。3つ目は合併症の遺伝子だ。

これまでは2型糖尿病の予知・予防、および薬剤反応性の研究が主流であった。たとえば、ゲノムワイド関連解析(GWAS)を用いて日本人に特有の2型糖尿病に関する28の遺伝子を同定した研究が2019年『Nature Genetics』に掲載された。

従来の研究では糖尿病に関する遺伝子が300〜400ほど同定されていたが、その大部分は欧米人と東アジア人で共通のものだった。そのため、欧米人に比してインスリン分泌能が低い東アジア人の体質を追究するにあたり、本研究は重要な意味を持つ。実際、日本人に特有の遺伝子を調べてみると、インスリン分泌やβ細胞の機能に関するものが多く含まれていた。これにより、以前よりも糖尿病になりやすい日本人の遺伝子を見分けやすくなった。今後の展開としては、糖尿病を発症しやすい可能性を予知、それにより若年から肥満と糖尿病を防ぐために対策することが可能になるだろう。


糖尿病の発症と関連するバリアント(ヒトはおよそ30億塩基対の配列を有し、そのうち一個人を見ると常染色体で平均約420万か所の塩基が国際的な参照用配列と比較して異なる。その異なる部分をバリアントと呼ぶ)も見つかっている。GLP-1のR131Qだ。

このバリアントは日本人の集団の3人に1人が持っている頻度の高いもので、対して欧米人は1000人に2人ほどしか持たない。興味深いのは、GLP-1 R131Qは糖尿病の危険性を下げるバリアントであるという点である。GLP-1によって誘導されるインスリン分泌を2倍以上にすることが報告されているのだ。日本人や東アジア人ではDPP -4阻害薬やGLP-1受容体作動薬などのインクレチン薬が欧米人に比してHbA1c低下作用が大きい、すなわち効きやすいことが知られている。今後、GLP-1 R131Qはインクレチン薬の薬剤反応性マーカーとして応用できる可能性がある。

このように糖尿病の発症や薬剤反応性に関わる遺伝子が同定されつつあるなかで、今後はそれらを加味して薬を選択する時代に入っていくだろうと考察している。

フォームで会員登録をすると、
記事全文が読めるページに遷移できます。

会員登録して全文を読む

医師について

新着記事