2021年12月22日掲載
医師・歯科医師限定

AML維持療法の現状と将来性――適応患者や期待される薬剤とは

2021年12月22日掲載
医師・歯科医師限定

獨協医科大学 埼玉医療センター 糖尿病内分泌・血液内科 准教授

木口 亨先生

AML(急性骨髄性白血病)では、完全寛解後もMRD(微小残存病変)があると再発リスクが高まるといわれている。MRDの撲滅を目指して維持療法を続けるためには、忍容性があり長期投与が可能な薬剤を見つける必要があるが、いまだ維持療法としての有効性が示された細胞障害性薬剤は存在しないのが現状だ。

木口 亨氏(獨協医科大学 埼玉医療センター 糖尿病内分泌・血液内科 准教授)は第83回日本血液学会学術集会(2021年9月23~25日)にて「AMLの維持療法(移植後も含めて) ー日本での保険適用外医薬品を含むー」という演題でAMLの維持療法の現状や将来性について教育講演を行った。

AMLの維持療法の歴史と変遷

木口氏ははじめに、AMLの維持療法に関するこれまでの研究と結果について(1)免疫療法(2)サイトカイン療法(3)ワクチン療法(4)抗がん剤療法に分けて解説した。

(1)免疫療法

AMLの再発予防として、初めて免疫系を介した治療概念が提唱され始めたのは1970年代のことだ。Lancet誌にて、AMLの寛解導入療法後にウシ型結核菌(BCG)と放射線照射され不活化した同種AML細胞の混注投与を行ったことで、長期寛解が得られた症例が報告されたのである。

本研究ではAMLの維持療法として、同種AML細胞のみを投与する群と同種AML細胞とBCGを混注投与する群で平均寛解期間が比較され、前者の29週に対し後者は35週であったが、統計学的有意差は得られなかった。しかし本研究結果はGVL(移植片対白血病)の概念に継承され、寛解後の維持療法において免疫系を介した治療が重要な役割を果たすことが示されるきっかけとなった。

(2)サイトカイン療法

AMLの維持療法に対して主に研究されてきたサイトカインがIL-2だ。IL-2はNK細胞およびT細胞のAML細胞に対する細胞毒性を増強することが示唆されており、高用量の組み換えIL-2によって再発および難治性のAML患者に寛解が得られることが証明されている。しかし、高用量IL-2は毛細血管漏出症候群などの重篤な急性毒性のリスクがあり、その後は低用量IL-2を用いた研究に移行した。

2006年のBlood誌では、AMLに対する強力な化学療法とそれに続く地固め療法後に、低用量IL-2とヒスタミン二塩酸塩の併用療法群とコントロール群のLFS(無白血病生存期間)を比較した無作為化第III相試験の結果が報告されている。結果はハザード比0.71、p値が0.01と併用療法群で有意に改善を認めたものの、副作用の頻度が高かったため早期に試験終了となり、OS(全生存期間)の改善効果を認めることはできなかった。

また、その後実施されたAML11試験ではIFN-αの有用性について検証されたが、5年OSとDFS(無病生存期間)において有意差は認められなかった。こうしたネガティブな結果やサイトカイン投与による副作用のリスクから、サイトカイン療法以外の維持療法が模索されることとなった。

(3)ワクチン療法

AML特異的エピトープを認識するように設計されたワクチンが複数のグループによって開発されている。残存白血病細胞が少ない血液学的寛解にあるAMLではワクチンへの反応が良好とされている。

2018年のBritish Journal of Haematology誌では、完全奏効であるが再発リスクの高いAML患者20人を対象としたWT1ペプチドワクチン療法の研究結果が示され、2年RFS(無再発生存期間)が25%、2年OSが40%であり、ワクチンに反応したCBF(Core binding factor)-AML患者でMRDの減少を認めた。

下図Aは本研究において、ワクチン反応の良好例と不良例でのWT1特異的CTLの発現の差をみたものである。また下図Bは、ワクチン反応の良好例におけるWT1特異的CTLのクローンの時間的発現を示しており、接種1か月後には新たな特異的クローンが出現していることが分かる。


Nakata J et al,Br J Haematl.2018 Jul;(2):287-290より引用

(4)抗がん剤療法

AMLの維持療法に使用された抗がん剤は、低用量シタラビン、ビンクリスチン、エトポシドなどがある。宮脇氏らはJALSGのAML97試験において、15~64歳の新規AML患者789人を対象にAMLの維持療法における抗がん剤の有用性について検証した。

寛解後の強力な地固め療法によって完全奏効が得られた後、エノシタビンをベースにアントラサイクリン系の抗がん剤との併用維持療法を6コース施行する群と無治療観察群を比較した。その結果、5年DFSは維持療法群で35.8%、観察群で30.4%となり、5年OSは維持療法群で52.4%、観察群で58.4%といずれも有意差を認めなかった。

また1990年代後半に発表された複数の無作為化比較試験では、低用量シタラビンによるDFS改善の可能性が示唆されたが、OSに有意差は認められていない。こうしたことから、AMLの維持療法における抗がん剤のベネフィットを示すことは困難となった。

AMLの維持療法の位置付け

こうした経緯を辿ってきたなかで、現在国内外でAMLの維持療法はどのように位置付けられているのだろうか。

日本血液学会の造血器腫瘍診療ガイドライン[2018年版補訂版]では、若年者AMLの治療について維持療法は実施しないまたは臨床試験で実施することとされており、高齢者AMLについては維持療法の記載自体されていない。

一方NCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドラインでは、60歳未満のAML患者の場合には、特に中間リスクや予後不良群で脱メチル化剤である経口アザシチジンを中心とした維持療法が推奨されている。また60歳以上の患者で、強力な化学療法によって寛解が得られた場合には経口アザシチジンを投与し、強力な化学療法を施行できなかった場合には、強度の弱い抗がん剤を継続する旨が記載されている。

AML維持療法に対する次世代の治療薬

木口氏は次世代のAMLの維持療法として期待されている(1)免疫調節薬(2)脱メチル化剤(3)分子標的薬について解説した。

(1)免疫調節薬

治療用ワクチン

木口氏ははじめに治療用ワクチンに言及し、WT1 mRNAをエレクトロポレーションした樹状細胞ワクチン療法について検証した試験結果を示した。

全患者の5年OSは、ヒストリカルコントロールが24.7%であったのに対し40.0%と改善しており、65歳以上の高齢者でも効果が確認された。また、樹状細胞でWT1特異的CD8陽性T細胞が誘導された症例と誘導されなかった症例で明らかなOSの差を認めた。IFN-γやTNF-αを産生するWT1特異的CD8陽性T細胞が増加した症例で、長期にわたる寛解が得られたことも示されている。

免疫チェックポイント阻害剤

PD-1・CTLA-4を標的とする免疫チェックポイント阻害剤は、多くの固形腫瘍の治療にパラダイムシフトをもたらし、血液腫瘍では特にホジキンリンパ腫に対して有望な結果をもたらした。再発性/難治性AMLに対する単剤療法としての有効性は限られているが、イピリムマブとニボルマブの両剤は、同種移植後に再発した患者が寛解に至る例が報告されている。

同種移植後に再発した難治AML患者に対するイピリムマブ投与後の病理組織像(下図A)では、皮下に浸潤していたAML細胞の改善を認め、12日後にはAML細胞のアポトーシスが確認できる。また、赤く染まったCD8細胞がAML細胞の周囲に集まっていることも分かる。下図B・Cでは、イピリムマブ投与によるCD8細胞とPRF1の増加が示されており、PRF1が重要な役割をしていることが示唆された。


Matthew S et al.N Engl J Med 2016; 375:143-153より引用

そして現在、AMLの維持療法における免疫チェックポイント阻害剤の併用療法について、新たな複数の治験が進行中である。

(2)脱メチル化剤

高齢者AMLへの有用性

先述のとおり、AMLの維持療法における脱メチル化剤の投与は、海外ではすでに標準治療となっている。60歳以上のAML患者を対象に行われた多施設第II相試験では、寛解導入療法後の1コースまたは2コースの地固め療法終了後にアザシチジン50mg/m2を5日間皮下投与する維持療法の有効性が検証された。結果、OSの平均値は20.4か月であり、1年OSは75%であった。

またアザシチジンの忍容性も確認されたことから、強力な地固め療法を施行できない高齢者でも脱メチル化剤の維持療法が有効である可能性が考えられた。木口氏はHuls氏らが報告したHOVON97試験を紹介した。本試験は、最低2サイクルの評価化学療法後に完全寛解または血球数の回復が不完全な完全寛解を得たAML患者と高リスクMDS患者(いずれも60歳以上)を対象に、アザシチジン投与による維持療法群と観察群を比較した無作為化第III相試験である。結果、12か月DFSは観察群で39%であったのに対してアザシチジン投与群では63%であり、p値は0.005と有意差を認めた。同種移植の打ち切り後の12か月OSは対照群の64%に対してアザシチジン群で83%であり、p値は0.04であった。

若年者AMLへの有用性

それでは若年者ではどうだろうか。木口氏は若年者AMLへの脱メチル化剤の有用性が検証されたCALGBの臨床試験を取り上げた。対象者は、寛解導入療法およびリスク別の地固め療法後、CR1(第一完全寛解期)となり同種移植を施行しなかった60歳未満のAML患者である。1日あたり20mg/m2のデシタビンを6週間ごとに5日間投与した結果、1年DFSについてCBF- AMLで80%、non-CBF-AMLで78%と、ヒストリカルコントロール群との有意差を示せなかったため、寛解導入療法と地固め療法後にCR1となった若年者AMLに対する維持療法として、脱メチル化剤の有用性はないと結論付けられた。

根治が難しいAML患者への継続治療としての有用性

一方、根治を目指した強力な治療が困難なAML患者への継続治療としては、抗メチル化剤の有用性が世界的に認められている。それが証明されたのがQUAZAR AML-001試験である。中間リスク以上かつ強力な化学療法後に完全寛解または血球数の回復が不完全な完全寛解を得た、同種移植適応外の55歳以上のAML患者を対象に、経口アザシチジンであるCC-486投与群の有用性を検証した。

試験の結果、OSについてはCC-486投与群で24.7か月だったのに対しプラセボ群は14.8か月であり、RFSもCC-486投与群で10.2か月だったのに対し、プラセボ群は4.8か月と、いずれもCC-486投与群が有意に長かった。以上の結果から、完全寛解または血球数の回復が不完全な完全寛解後で強力な治療が困難なAML患者への維持療法薬として、CC-486がFDA(米国食品医薬品局)により承認された。

移植後の脱メチル化剤の使用

続いて木口氏は移植後の脱メチル化剤の使用について言及した。

最近の研究では、同種移植後に寛解が得られた患者に対する低容量アザシチジンやデシタビンの安全性と忍容性が認められており、血液毒性が出た場合には一時的な投薬休止で回復可能とされている。

軽度な前処置による同種移植(RIST)後のAML患者を対象に、アザシチジンを投与(1日36mg/m2を28日ごとに5日間投与)した試験では、アザシチジンが複数の腫瘍抗原に対する細胞傷害性T細胞の応答を誘導し、その結果再発リスクを低下させる効果があることが示された(ハザード比:0.30)。1年RFSの中央値が57%、1年OSが81%であり、37人中10人が限局性の慢性GVHDを発症したが、グレード3/4の急性GVHDまたは全身性の慢性GVHDを発症した患者はいなかった。

また木口氏は、同種移植後の再発リスクが高い患者を対象にした維持療法のアプローチとして、末梢血中のCD34陽性細胞のドナーキメリズム解析を用いた研究を紹介した。ドナーキメリズムが80%未満に低下した患者に、1日75mg/m2のアザシチジンを毎月1〜7日目に投与した。結果、20人中16人にドナーキメリズムの改善が認められた。最終的に血液学的再発は20人中13人にみられたものの、再発までの期間中央値は231日であった。これはドナーキメリズムの低下を伴う患者における再発までの期間中央値61日よりも有意に長かった。

この結果により、MRDの解析によって維持療法の対象患者を選別することが重要であると示唆された。

(3)分子標的薬――FLT3阻害剤

FLT3-ITD変異があるAML患者の再発リスクが高いことはすでに知られており、FLT3阻害剤の投与は有望なアプローチとなる。木口氏は、同薬剤の有用性を示したBurchert氏らによる無作為化第II相試験を紹介した。本試験では、FLT3-ITD変異のある患者を対象に、同種移植後の維持療法としてマルチターゲット型のキナーゼ阻害剤であるソラフェニブを24か月投与した群とプラセボ群で効果を比較した。

2年PFS(無増悪生存期間)はプラセボ群の53.3%に対しソラフェニブ投与群で85.0%(ハザード比:0.256、p値0.002)、2年OSはプラセボ群の66.2%に対してソラフェニブ投与群で90.5%(ハザード比:0.241、p値0.007)といずれもソラフェニブ投与群で良好な結果を示した。

Xuan氏らの試験でもFLT3-ITD変異のある患者へのソラフェニブの効果を検証しており、1年CIR(累積再発率)、OS、LFSのいずれにおいてもソラフェニブの有効性を示した。忍容性についてもソラフェニブ群が優れていた。

また第2世代の選択的FLT3阻害剤についても研究を行っている第I相試験があり、同種移植後のキザルチニブによる維持療法の安全性が評価されている。試験に登録された13人のうち10人がキザルチニブを1年以上投与することができ、グレード3以上の有害事象は好中球減少症と血小板減少症を含む血液毒性だった。第I相試験ではあるもののOSも良好な結果が示されている。

さらに木口氏は2020年の米国血液学会で報告されたメタ解析を紹介した。全22試験における829症例が解析対象となり、FLT3阻害剤による治療を受けた患者の2年OSとRFSは81.7%と82.9%であり、急性/慢性GVHDはそれぞれ10.4%と38.4%の患者にみられた。また、脱メチル化剤による治療を受けた患者では、2年OSとRFSは65.6%と56.2%であり、急性/慢性GVHDは39.9%と44.4%の割合で発生した。

一方、これらは後ろ向き研究であったうえ、一部の試験ではサンプルサイズが小さかったり、患者集団が不均一だったりした問題点があったために解析に限界があったと言及し、以下3つの課題を列挙した。

・AML・MDSでの同種移植後のFLT3阻害剤や脱メチル化剤による維持療法は、安全かつRFSおよびOSの改善と相関する可能性があり、無作為化試験でその有効性を検証する必要がある

・GVHDの発生率や同種移植後の長期治療に関連した患者負担が大きくなる可能性があるため、慎重な患者選択が必要となる

・高リスクの遺伝的特徴(TP53変異の存在など)やその他の疾患特性(同種移植時のMRD陽性)における患者選択が考えられるが、その可能性については追加の検証が必要である

ここまで述べてきたように、AMLの維持療法については現在も多くの試験で検証が進んでいる段階だ。木口氏は各治療法の現状と将来性を天気図に示し、本講演を締めくくった。


講演資料(木口氏より提供)

講演のまとめ

・現時点での維持療法の適応患者と薬剤は、強力な治療ができない高齢者または同種移植の適応とならない若年者への経口アザシチジン、同種移植後の患者へのアザシチジンまたはFLT3阻害剤である

・分子標的薬だけでも十分な効果が得られるのかについては、FLT3-ITD変異を例に、選択的FLT3阻害剤と非選択的阻害剤(マルチターゲット)の有効性を比較・検証する必要がある

・維持療法の恩恵を受けられる患者の特徴(MRDがある患者、分子標的のある患者など)については今後の検証が必要である

・現在行われているほとんどの臨床試験に分子標的療法が組み込まれており、AMLの維持療法における標的療法に期待ができる

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