2023年05月02日掲載
医師・歯科医師限定

「究める-知・仁・術-」テーマに日本整形外科学会学術総会・横浜で開催――総会会長に聞く、整形外科の魅力と総会への思い

2023年05月02日掲載
医師・歯科医師限定

岡山大学学術研究院医歯薬学域 生体機能再生・再建学講座(整形外科学)教授

尾﨑 敏文先生

第96回日本整形外科学会学術総会が2023年5月11日〜14日、パシフィコ横浜で開催される(現地開催・一部オンデマンド配信ありのハイブリッド形式)。テーマは「究める -知・仁・術- Quest for Science, Spirit and Skills」。ここには整形外科医が究めるべき3つの力が表されている。会長を務める岡山大学学術研究院医歯薬学域 生体機能再生・再建学講座(整形外科学)教授の尾﨑 敏文氏に、整形外科の魅力や学術総会の開催に向けた思いを聞いた。

整形外科医が究めるべき「知・仁・術」

本学術総会のテーマは「究める -知・仁・術- Quest for Science, Spirit and Skills」とした。これは儒教で三徳とされる「智・仁・勇」にちなんでいる。近年、医療の分野でもAI(人工知能)の活用が進んでおり、その動きは今後さらに加速していくだろう。そうした時代のなか、AIと共存しながら整形外科学を進歩させていくために、整形外科に携わるものが究め続けていなければならない力――それが「知・仁・術」である。

「知」は、物事に対する科学的な考え方や判断力、決定力を意味する。近い将来、医療に関わるデータをAIが自動収集してくれる時代が到来するだろう。そうなったとき、AIが収集した膨大なデータを解析・処理するための能力が必要となる。

「仁」は、医学に携わるものとしての誠実さや優しさだ。患者と医師とのコミュニケーションや情報共有のツールとしてAIが積極的に活用されるようになっても、温かな気持ちで患者や家族に寄り添うことは人間にしかできない。「仁」を持つことは医療に携わるものにとって基本中の基本であり、これがなければ医療は成立しない。

「術」は、整形外科医としての手術手技だ。AIによる手術補助や手術のプログラミング化が普及したとき、整形外科医にはAIにはできない手技を身につけたり、AIには思い付かないようなオリジナリティ溢れる手術を考案したりする力が求められるだろう。

学術総会のポスターには、16歳まで岡山県美作市で過ごした宮本 武蔵の浮世絵を描いた。元祖「二刀流」である宮本 武蔵のごとく、片手に「知」、もう片手に「術」、そして心に「仁」を持ってほしいというメッセージを込めている。私たちは今、大きな時代の変革期にいる。今一度、整形外科医としての基本に立ち返り「知・仁・術」を究め続けることの重要性を学術総会の場で再認識してもらえればと思う。

多様なシンポジウムを用意――4年ぶり充実の海外セッションも

本学術総会ではAI、専門医制度、働き方改革、再生医療、ロボット支援手術、フレイル・ロコモ(ロコモティブシンドローム)、がんロコモ……など整形外科領域における注目トピックを中心に70のシンポジウムを用意している。

特にフレイル・ロコモは、超高齢社会を迎えた日本において大きな関心事となっている。2022年4月に日本医学会連合は、「生活機能が低下し、健康寿命を損ねたり、介護が必要になる危険が高まる状態」をフレイル・ロコモと定義し、「80GO(ハチマルゴー)運動」を提案した。国民一人ひとりが80歳になったときに歩いて外出しているという目標を持ち、生き生きと暮らせるように活動していこうという意味が込められている。

がんによって運動器が障害され、移動機能が低下した状態となる「がんロコモ」も重要な課題だ。具体的には▽がん自体による運動器の問題▽がん治療による運動器の問題▽がんと併存する運動器疾患の進行――の主に3つのパターンがある。こうした問題に対する現状や課題について再認識し、皆で考えられる学術総会になればと思う。

また、新型コロナウイルス感染症も収束しつつあることから、本学術総会では4年ぶりに国際的なプログラムを多数用意している。注目プログラムの1つが、米国整形外科学会(AAOS)との合同シンポジウムだ。AAOSメンバー数人にお越しいただき「外傷」をテーマにディスカッションする予定である。もちろんAAOS会長にもご講演をお願いしている。また、タイ王立整形外科学会(RCOST)からも約10人の先生にお越しいただくほか、総勢20か国からエキスパートの先生を招待している。

若手医師に伝えたい整形外科の魅力

整形外科の診療内容は多岐に渡るが、大きな割合を占めるのは外傷や骨折の治療である。そのため、当講座ではこれらの教育システムの構築に力を入れ、しっかりと外傷の診療を行える医師を育成できるように取り組んでいる。

しかし、整形外科では全身の骨、軟骨、筋、靱帯、脊椎・脊髄、末梢神経などの病気と外傷が診療の対象となり、さらには新生児から乳幼児、小児、成人、そして高齢者まで全ての年齢の患者を診ることになる。そのため、それぞれの医師が得意とする領域を選択できることは、整形外科の大きな魅力だと思う。重篤かつ緊急性の高い疾患・外傷を専門としている医師もいれば、関節リウマチ、リハビリテーションなど慢性的な疾患を専門とする医師もおり、働き方も多種多様だ。

扱う疾患の特性上、快方に向かう患者と多く接する機会があることも整形外科の特徴だろう。「痛みが取れてよかったです」「元のように歩けるようになって嬉しいです」「先生のおかげで復職(復学)できます」――患者からの喜びの声は、診療を続けていく上で大きな励みになるのではないだろうか。また、研究面での幅も広く、ゲノム医療や再生医療、バイオメカニクス、マテリアルサイエンスなどさまざまなアプローチがあり、未踏の研究分野・領域も多数あることも魅力の1つだと思う。

“リフレッシュセッション”も用意――ぜひ現地参加を

今回、「アスリートと医療をめぐる法律問題」、「The Art and Medicine in Setouchi」と題した特別企画、建築家の安藤 忠雄氏による「人生100年 目的を持って生きる」と題した文化講演を企画した。横浜市内の複数の屋外会場を使った親善スポーツ大会(野球・サッカー)も開催する。また、コングレスバッグの生地には岡山県の国産デニムを使い、休憩コーナーには岡山県の特産品を置く予定だ。ささやかながら学術的な内容以外にも楽しめる企画を用意している。

学術総会の会長を務めるにあたり、若手の頃から指導してくださった多くの先生方には心より感謝を申し上げたい。学会員の皆さまにとって実り多き学術総会になるよう、教室・同門会一同、誠意準備を進めているので、ぜひ多くの学会員の皆さまにご参加いただきたい。

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