2023年05月16日掲載
医師・歯科医師限定

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会・5月中旬に福岡で学術講演会を開催――会長に聞く、注目演題と開催への思い

2023年05月16日掲載
医師・歯科医師限定

九州大学大学院医学研究院 耳鼻咽喉科学分野 教授

中川 尚志先生

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は2023年5月17日〜20日、福岡国際会議場/福岡サンパレス(いずれも福岡市博多区)で第124回総会・学術講演会を開催する(現地開催・一部セッションのみオンデマンド配信ありのハイブリッド形式)。子どもの難聴や加齢による難聴に関するプログラムが多数用意されているほか、株式会社ジャパネットたかたの創業者である髙田 明氏(株式会社A and Live 代表取締役)や、JR九州を黒字転換させた唐池 恒二氏(九州旅客鉄道株式会社 取締役相談役)の講演など多彩なプログラムが準備されている。現在の耳鼻咽喉科頭頸部外科領域の課題や講演会開催にかける思いについて会長の中川 尚志氏(九州大学大学院医学研究院 耳鼻咽喉科学分野 教授)に聞いた。

加齢による難聴や嚥下障害 リハビリテーションの充実を

今回の講演会で特に注目いただきたいのは、加齢による難聴、嚥下障害やめまい、音声障害においてケアの中心となるリハビリテーションのプログラムだ。

日本における超高齢化は、耳鼻咽喉科領域にも多大な影響をもたらしている。加齢によって生じる難聴や嚥下障害といった問題はQOL(生活の質)に直結する。日本補聴器工業会が2022年に行った調査によると、日本では75歳以上の約3割が聞こえづらさを感じている。しかし、医療者側の意識、一般の方々の補聴器を装用することへの理解不足や不適切な販売方法から、補聴器利用者の割合は約15%にとどまっている。

また診療報酬上の問題から、補聴器の装用・調整や嚥下障害を専門に行う言語聴覚士の雇用を確保することが難しく、それらに関する十分な支援体制が整っていない現状もある。リハビリテーションがケアの中心となるめまいや音声障害などでも同様だ。

「健康長寿社会における幸せな老い」と題して、国立長寿医療研究センターの西田 裕紀子氏にご講演いただく医療倫理のセッションも予定している。

子どもの難聴 早期発見し多職種で適切な支援を

私がライフワークとして取り組んできた子どもの難聴に関するプログラムにも期待いただきたい。

難聴対策推進議員連盟が提言「Japan Hearing Vision」をまとめたことで、2020年より子どもを含む各ライフサイクルにおける難聴への取り組みが進みつつある。私自身は2021年から「難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針作成に関する検討会 」の座長を拝命し、難聴の子どもを早期に発見して適切な支援につなげるための基本方針の作成に関わった。

同時期に聴覚障害者の社会参加やセルフアドボカシー(自己権利擁護)を確立するための研究も開始し、2023年4月には聞こえにくさを持った方とその近くにいる方を対象にした「聞こえのワークブック」を出版した。今回の講演会では、「難聴児へのシームレスな多職種連携支援」と題したセッションを設け、初めて全日本ろうあ連盟の方に演者として登壇いただく予定である。このような社会的なセッションについては、参加者の要望に応じて手話通訳も手配している。

私が臨床の傍ら、難聴の子どもの支援をはじめとする社会的な活動に取り組んできたのは、聴力を回復させるだけでは解決できない問題が数多くあることに気付いたからだ。難聴の子どもや親御さんと長年関わってきたなかで、人工内耳を埋め込む手術をして聴力が回復しても、学校生活に馴染めない、就職活動がうまくいかないケースを目にしてきた。それが継続した場合は引きこもりに至ることもある。医学的には「問題なし」と判断された子どもが、社会に出てから困難に直面しており、しかもそのような子どもは決して少数ではなかった。また、手話を主体にコミュニケーションを取る子どもたちや、ろう者の方々との交流を通じて、難聴は単に聴力の問題としてではなく「この子がどのように育っていくのか」という視点で広く捉えることが必要だと考えるようになったのである。

教科書に載っていない社会的活動の重要性を伝える講演会

2025年には日本では初めてのデフリンピックが東京で開催される。デフリンピックとは、聴覚障害者のための国際スポーツ大会で、オリンピックと同じように4年に一度、夏季大会と冬季大会が2年ごとに交互に行われる。視覚障害、知的障害を含む身体障がい者のためのパラリンピックと比較して知名度が低く、選手が大会に参加するための支援が十分整備されていない。たとえば、前回2022年のブラジル大会でも、選手自身が経費を全額自己負担したうえで、勤務している会社の有給休暇を取得して参加したこともあった。そのため、まずは広報を強化していく必要があると考え、今回の講演会では会場受付付近の目にとまりやすい場所にパネルを展示する。

こうした社会的な活動については医学の教科書には書かれていないことも多いが、私が臨床を続けるなかで大切にしてきたことであり、これからも継続していきたい。今回の講演会ではこうした領域のプログラムを多く設けたことが特徴であり、私らしさなのかと思う。

若手医師対象の手術セミナーも

私は医師としてのキャリアを歩み始めてから最初の3分の1程度は主に研究を行ってきた。専門は難治性中耳炎、頭蓋底外科、側頭骨がんなどで、国際的にも認知していただけるような業績を残すことができた。やはり研究の基盤があってこそ、さまざまなものの見方ができる。医学はサイエンスであり、研究は非常に大切だと考えている。

医学生や臨床研修医など若手の医師には、「手術の新しい教え方・学び方」と題したセッションで本や動画などさまざまなメディアを通じた手術手技の学び方をレクチャーする機会を設けた。今回初めて、外視鏡手術について取り上げる手術手技セミナーも予定している。外視鏡とは、近年新しく導入された手術用の顕微鏡だ。撮影した画像をモニターに投影し、特殊なメガネをかけることで術野を立体的に見ることができ、手術を安全に確実に行う助けになる。

また、医療DXや医療安全、新たな知見が得られつつある新型コロナウイルス後遺症に対する上咽頭擦過療法、頭頸部がんの遺伝子、顔面神経麻痺などのセッションにも期待いただきたい。

お世話になった方への感謝を胸に

特別講演は、九州にゆかりのある著名人として、株式会社ジャパネットたかたの創業者である髙田 明氏とJR九州取締役相談役の唐池 恒二氏にお願いした。髙田氏はカメラ販売店から独立し、独自のマーケティングでカメラ販売店を一大通信販売業に成長させた。友人に紹介いただいた唐池氏は赤字確実と言われたJR九州で観光列車「ゆふいんの森」、豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」、博多―釜山間の高速船「ビートル」、炭焼料理店「うまや」など数々の業務拡大を成功させ、黒字に転換させた。いずれも医学とは異なる分野だが、成功談、そして苦労談として興味深い話が聞けることを楽しみにしている。

私が今このような立場にあるのは、今まで行ってきたこと、続けてきたことの中で出会った多くの方々のおかげである。

今回、南カリフォルニア大学からお招きするJohn S. Oghalai氏は、私が留学中に共に研究を行った同士であり、仲のよい友人でもある。名古屋市立大学の村上 信五氏には、私が留学から帰国したときに声をかけていただいたことをきっかけに、さまざまな面でお世話になり、日本顔面神経学会の理事長を拝命することになった。山形大学の欠畑 誠治氏は大学院時代に一緒に研究した仲で、若いころからお付き合いさせていただいた。九州大学の前教授である小宗 静男氏や東北大学の前々教授である髙坂 知節氏にも大変お世話になった。また、今回は日本言語聴覚士協会の深浦 順一会長、特別支援学校で教育に携わる方や、ろうの当事者の方にも参画いただく予定になっている。

これまで関わった多くの方々から学ばせていただいたさまざまな考え方を今回の講演会に生かしていきたいと考えている。5月の福岡は暑くも寒くもないよいシーズンだ。機器展示も多数出展いただく予定であり、ぜひ現地での学びを楽しんでいただきたい。

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