2022年10月07日掲載
医師・歯科医師限定

【第109回日本泌尿器科学会レポート】m0CRPC に対する新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARAT)3 剤の使用意義(2200字)

2022年10月07日掲載
医師・歯科医師限定

札幌医科大学医学部 泌尿器科講座 講師

橋本 浩平先生

m0CRPCとは、PSA上昇がみられるもののCTや骨シンチグラフィーで遠隔転移を認めない去勢抵抗性前立腺がんのことだ。mCRPCの一歩手前の状態であり、現状を正確に見極めて適切なタイミングで治療を施す必要がある。札幌医科大学 医学部 泌尿器科学講座の橋本 浩平氏は、第109回日本泌尿器科学会(2021年12月7〜10日)で行われたシンポジウムの中で、m0CRPCに対するARAT(新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬)の使用意義について解説した。

札幌医科大学におけるm0CRPCのコホート研究

はじめに、2000〜2021年にかけて当科で実施したコホート研究について紹介する。対象はm0CRPCと診断された70症例だ。患者背景と初回治療は以下のとおりである。


  • CT/骨シンチグラフィを施行
  • m0CRPC診断時の年齢中央値:79歳
  • m0CPRC診断時のPSA中央値:2.5ng/mL
  • フォローアップ期間:24か月


本コホート研究では、m0CRPC診断時のPSA倍加時間が10か月以下の集団と、10か月を超える集団に分けて検討を実施した。70症例のうち50症例(71%)はPSA倍加時間が10か月以下、20症例(29%)は10か月を超えていた。初回治療でARATを使用した割合は、PSA倍加時間10か月以下の集団で44%、10か月を超える集団で20%である。

PSA倍加時間によって分けた2つの集団について、以下3つの項目を比較した。


  • PSA-PFS(PSA無増悪生存期間)
  • MFS(無転移生存期間)
  • CSS(がん特異的生存期間)


結果、PSA-PFSは、PSA倍加時間が10か月より長い集団でやや長くなる傾向があったものの、有意差はみられなかった。PSA倍加時間が10か月より長い集団では、2年間のフォローアップ期間中に転移やがん死の症例はなかった。一方、PSA倍加時間が10か月以下の集団では、20症例中12例に転移がみられ、10例はがん死という結果だ。

PSA倍加時間が10か月以下の症例においては、たとえm0CRPCと診断したとしても、mCRPCに移行する確率が高いことを認識しておく必要がある。また、PSA倍加時間が10か月以下の集団では44%にARATを使用していることから、ARATを全症例に実施することで結果が向上する可能性も考えられる。

PSA倍加時間10か月以下のm0CRPCに対するARAT臨床試験

PSA倍加時間が10か月以下のm0CRPCに対してARATを使用した臨床試験が3つ報告されている。いずれの試験も診断時のPSA値が2ng/mL以上の患者を対象としている。それぞれの臨床試験で検討された薬剤は以下のとおりだ。



各試験の年齢中央値はいずれも74歳だ。SPARTAN試験/ARAMIS試験では診断からnmCRPC進展まで5年以上経過しており、PSA中央値は10ng/ml前後、PSA倍加時間の中央値は4か月前後であった。

橋本氏講演資料(提供:橋本氏)

いずれの試験も主要評価項目としてMFSが設定されている。MFSが主要評価項目とされている理由として、MFSがOSと相関することが挙げられる。また転移を起こさないことは、患者のQOLを維持するために非常に重要となる。実際にSPARTAN試験では、転移した患者のQOL調査を実施しているが、アパルタミドとプラセボの両群において、転移後に著しくQOLが低下していることが示されている。

試験結果――MFS、有害事象の発現率、出現転移巣、後治療

いずれの薬剤も30〜40か月程度MFSを延長できており、OSも有意に延長している。グレード3以上にあたる有害事象の発現率はアパルタミドでやや高い傾向にあるが大きな差ではないだろう。なお、ダロルタミドでは有害事象の発現率がもっとも低く、有害事象による治療の継続中止がほかの2剤より少ないという結果になった。

出現転移巣の特徴については、薬剤の種類によらず骨やリンパ節が多かった。m0CRPCに関しては、内臓転移の確率は低いことが示唆された。

ARAT施行後の後治療としてはドセタキセル投与やホルモン療法が行われ、後治療の種類に限らずOSは延長されている。ARATの先行治療を実施したことがOSの延長に好影響を与えた可能性が示唆された。

ARATを開始するタイミング

報告されている3つの試験では、いずれもARAT開始時にPSAが2.0ng/mL以上であり、当科のコホート研究70症例でも、ARAT開始時のPSA中央値は4.5ng/mL程度だった。これを踏まえ、ARATを開始する適切なタイミングを検討するために、PSAの数値とPSA倍加時間の関連性を調査した。

橋本氏講演資料(提供:橋本氏)

PSA倍加時間が10か月以下の症例のほとんどは、PSA1.0ng/mL前後の段階で倍加時間が10か月以下となっている。対してPSA倍加時間が10か月より長かった症例は、設定した各PSAのポイントにおける倍加時間にばらつきがみられた。

PSA倍加時間が10か月以下の症例については、m0CRPCであっても活動的ながんと捉え、早期のARAT介入を検討する必要があると考えられる。

講演のまとめ

m0CRPCに対する新規ARシグナル阻害薬(ARAT)に期待すること

  • 転移までの期間延長によるOSの延長やQOLの維持・改善
  • 長期使用の安全性
  • 後治療の効果

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