2022年06月03日掲載
医師・歯科医師限定

【第19回日本臨床腫瘍学会レポート】COVID-19流行のがん検診・がん診療への影響(1800字)

2022年06月03日掲載
医師・歯科医師限定

国立がん研究センターがん対策研究所 検診研究部検診実施管理研究室長/がん医療支援部検診実施管理支援室長

高橋 宏和先生

2019年冬、中国で報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。日本でもこれまでに複数回の流行時期があり、緊急事態宣言は4回発令されている。そのうち、2020年4月に発令された1回目の緊急事態宣言は、がん検診・がん診療に大きな影響を及ぼした。

高橋 宏和氏(国立がん研究センターがん対策研究所 検診研究部検診実施管理研究室長/がん医療支援部検診実施管理支援室長)は、第19回日本臨床腫瘍学会学術集会(2022年2月17日〜19日)で行われた合同シンポジウムの中で、厚生労働科学研究班「新型コロナウイルス感染症によるがん診療及びがん検診などの受診状況の変化及び健康影響の解明にむけた研究」が収集したデータに基づき、COVID-19流行によるがん検診・がん診療への影響について解説した。

COVID-19流行によるがん検診受診者数への影響

複数のがん検診実施者のデータによると、2020年度のがん検診受診者数は、前年度と比較して4〜5月に大幅に減少していたが、6月以降は前年同月と同程度であった。年度全体の比較では0~2割程度減少しており、職域検診より住民検診のほうが減少の程度が大きかった。

COVID-19流行によるがん登録者数への影響

院内がん登録全国集計によると、2019年まで増加傾向であったがん登録者数が2020年には多くのがんで減少していた(下図参照)。具体的に、院内がん登録実施病院863施設のうち594施設で減少が認められ、平均4.6%、がん診療連携拠点病院などでは平均5.3%減少している。

院内がん登録2020年全国集計より引用

月別にみると5~8月まで減少しており、その傾向はCOVID-19流行の特定警戒地域で強く表れていた(下図参照)。

院内がん登録2020年全国集計より引用

また発見経緯別では、がん検診発見例とそれ以外とでは、前者の減少割合が大きかった。

さらに部位別でみると、男性は胃と大腸、女性は乳房と胃の登録者数が特に減少していた。2020年の部位別増減率は、2016~2019年の4年平均と比較して、がん検診を推奨されている胃、大腸、子宮頸などのがん種に限らず、前立腺、甲状腺、皮膚などのがん種でも減少していることが明らかとなっている。

COVID-19流行による外科手術数への影響

National Clinical Database(NCD)データに基づいた報告によると、2020年の胃がんに対する胃切除術、直腸がんに対する低位前方切除術の件数は、前2年と比較して特に、4~9月に減少していた(下図参照)。

Norihiko Ikeda,et al.Surg Today. 2022 Jan;52(1):22-35.より引用

さらにCOVID-19の感染程度が高い都道府県では、低位前方切除術の減少幅が大きい。一方、肝がんに対する肝切除術、膵がんに対する膵頭十二指腸切除術や、胆嚢摘出術、虫垂切除術、弁置換術・弁形成術、上行大動脈・弓部大動脈置換術の件数は2020年と前2年とで明らかな変化を認めていない。

COVID-19流行によるがん検診・がん診療への影響の要因と対策

「新型コロナウイルス感染症によるがん診療及びがん検診などの受診状況の変化及び健康影響の解明にむけた研究」が収集したデータから、2020年はCOVID-19流行により、がん検診・がん診療受診者数は減少したことが明らかとなった。

その要因として、主に以下の4つが考えられる。

  1. 緊急事態宣言に伴う政府や専門学会の通知
  2. がん検診実施者(市区町村・保険者・事業主)による実施の延期や中止
  3. 感染の恐れによる受診控え
  4. がん検診実施機関やがん診療を行う医療機関のキャパシティー減少

これらを踏まえて2021年11月に厚生労働省は、がんの早期発見のための受診勧奨をプレスリリースした。その中で、COVID-19流行の影響で早期がんを中心にがん発見数が減少した可能性が高いことを述べ、がん検診の受診や医療機関への受診が遅れないようにすることや、がん検診などの必要な受診は不要不急の外出にはあたらないことを強調している。

さらに今後、COVID-19流行によるがん検診・がん診療への影響を少なくするための対応策として、モニタリング・分析の継続、がん検診・がん医療へのアクセス確保、適切な情報提供、即時性のあるがん検診・がん罹患データ収集システムの構築などを進めていくことが重要だろう。

講演のまとめ

  • COVID-19流行により、2020年は前年と比較し、がん検診受診者数が0~2割程度、がん登録者数は5%程度減少した
  • 胃がんに対する胃切除術、直腸がんに対する低位前方切除術の件数も、2020年中盤に減少していた
  • COVID-19流行の影響でがん発見数が減少した可能性が高く、その対応策としてモニタリング・分析の継続、がん検診・がん医療へのアクセスの確保、適切な情報提供、即時性のあるがん検診・がん罹患データ収集システムの構築などが挙げられる

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