2022年12月07日掲載
医師・歯科医師限定

【第62回日本呼吸器学会レポート】デジタルデバイスを活用したオンライン診療――呼吸器内科診療はどう変わる?(3500字)

2022年12月07日掲載
医師・歯科医師限定

社会医療法人春回会井上病院 院長

吉嶺 裕之先生

コロナ禍の特例でオンライン診療が普及し、患者の通院の負担が軽減している。関連する技術も進歩し、在宅における患者データの共有や医療者と患者との連絡ツールとしても活用されている。

吉嶺 裕之氏(社会医療法人春回会井上病院 院長)は、第62回日本呼吸器学会学術講演会(2022年4月22~24日)におけるシンポジウムの中で、オンライン診療を安全で適切に行ううえでの工夫や具体的な運用方法、メリットや課題などについて、自身の経験をもとに解説した。

内科におけるオンライン診療の適応――状態の安定した生活習慣病患者に適切

オンライン診療の適切な実施に関する指針」によると、オンライン診療は状態が安定した患者に適している。具体的には、血糖管理が良好な糖尿病患者や家庭血圧の情報収集が可能な高血圧患者、長期にわたって痛風発作を発症していない高尿酸血症患者などが挙げられる。生活習慣病患者は、食事療法や運動療法が基本となる。オンライン診療では、体重や食事、飲酒、活動量などをモニタリングすることが重要である。

一方、病院でなんらかの対応や処置が必要な状態の患者に対しては、オンライン診療は適さない。たとえば、呼吸器系疾患のうち呼吸困難や喀血、喘息などの症状を呈する患者が該当する。

オンライン診療での呼吸器系疾患患者のモニタリング

オンライン診療が可能な呼吸器系疾患として、睡眠時無呼吸症候群(以下、SAS)や気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)が挙げられる。これらの疾患のうち、状態の安定している患者がオンライン診療の対象となる。

SAS患者の多くは、持続陽圧呼吸療法(以下、CPAP)を導入することにより、安定した呼吸状態の睡眠が得られる。オンライン診療ではCPAPのデータをモニタリングするとともに、SASに多い肥満や高血圧などの合併症の状態にも注意を払うことが重要である。

気管支喘息やCOPDの患者をオンラインで診療する際は、自覚症状や客観的なデータ、治療薬のアドヒアランスを確認することが必要である。自覚症状は、Asthma Control TestやCOPDアセスメントテスト(以下、CAT)などを用いて評価する。モニタリングするデータは、ピークフローやSpO2などが適しているだろう。

なお、オンライン診療でのモニタリングを実施する際も、6か月に1回は対面診療を組み合わせて行う必要がある。

モニタリングの実際――セルフマネジメントにも好影響

当院のオンライン診療は、スマートフォンから入力できる問診票を併用している。システムには、体重や血圧などの基本的なバイタルデータはデフォルトで設定されており、CATやピークフローなどのデータを追加することが可能である。

オンライン診療によるモニタリングの実施例を紹介する。患者は74歳の男性で、気管支喘息・COPDオーバーラップ症候群の症例である。吸入薬のアドヒアランス不良によりピークフローの低下がみられていたが、対面診療にて吸入薬を処方し、服薬指導と吸入状況の入力を促したところ、2週間ほどでピークフローは定常状態に達した。その後はオンライン診療によるモニタリングで、状態が安定していることを確認している。ピークフローの推移が可視化されることで、患者自身のセルフマネジメントにも役立っている。

吉嶺氏講演資料(提供:吉嶺氏)

吸入薬の使用状況については、データの自動入力化も進んでいる。吸入器にセンサーを取り付けると患者自身のスマートフォンに吸入状況の情報が送信される仕組みで、家族や担当医など任意の相手にデータを転送することも可能な製剤も出てきている。入力漏れを防止することで、より精度の高い記録が可能となる。また現在、オンライン診療システムからもデータにアクセスできるように準備中である。吸入薬の使用状況がより正確に把握できるようになれば、重症の喘息患者の管理も容易になるだろう。今後、呼吸器内科診療は大きく変化していく可能性がある。

オンライン診療を活用したチーム医療――入院時のようなきめ細やかなケアも可能に

コロナ禍以降、服薬指導や栄養指導など、さまざまな医療職によるオンラインでのコミュニケーションが活発に行われている。特に、患者のPersonal Health Recordを活用した、看護師によるテレナーシングが今後拡がっていく事が期待される。当院では、テレナーシング専任看護師を加えたチームを編成し、オンライン診療の質の向上を試みている。

テレナーシングが生かされた実際の症例を紹介する。患者は60歳代の男性で、気管支喘息の症例である。オンライン診療ツールでCATやピークフロー、レスキュー薬の使用状況などを記録し、定期的にモニタリングを行っていた。

ある時CAT点数の上昇やピークフローの下降、レスキュー薬の使用が記録されていたため、看護師が担当医に連絡し対面診療を実施して薬剤の調整を行った。しかし、CAT点数が改善しなかったため、看護師がテキストチャットにて患者の状態を聴取したうえで、担当医に連絡し再度対面診療を行った。抗菌薬の追加投与が行われ、患者の状態は改善した。

吉嶺氏講演資料(提供:吉嶺氏)

自宅での記録データの共有とオンライン診療により、患者の来院がなくともモニタリングが可能となった。運用を工夫することで、オンライン診療では入院中のようなきめ細やかなケアが可能となるだろう。

オンライン診療における地域情報ネットワークの活用

当院では、地域情報ネットワークシステムを活用しオンライン診療の導入を行っている。本システムでは、地域の各医療機関の情報がVirtual Private Network (VPN)で接続されており、ネットワークのサーバーとオンライン診療のサーバーを接続することで、より安全で安定した通信環境で利用が可能である。

本システムの活用により、普段診療に使用している電子カルテを用いて安全なネットワーク環境下で患者の情報を共有することができる。当院では外来にオンライン診療を組み込んでおり、実施件数が飛躍的に増加した。

オンライン診療の開始に必要な準備

オンライン診療を開始する際は、医療機関と患者の双方で準備が必要である。

医療機関側としてもっとも重要なことは、オンライン診療を行うことに関する院内の合意形成である。合意が得られた後、オンライン診療の対象とする疾患を設定する。まずは慢性疾患で状態が安定した患者から開始し、徐々に初診の患者へと拡大していくことを推奨する。システムの導入にあたってはさまざまなトラブルが発生するため、オンライン診療を支援するスタッフを配置することも必要である。また、オンライン診療によるチーム医療を推進するうえで、スタッフの役割やモニタリングルールなどをあらかじめ定めておくことも重要である。

患者側の要件としては、スマートフォンを所有していることとオンライン診療に同意していることが必要である。可能であれば、対面診療時にインストールを行い、通信テストを実施しておくとよいだろう。

オンライン診療のニーズ

今後、国内におけるオンライン診療のニーズは間違いなく増加すると予測している。これまで専門の医療機関を受診する際は、遠方に居住している患者は通院に大きな負担がかかっていた。しかし、オンライン診療の導入により通院回数を減少させることが可能となり、感染リスクの低減や労働世代の非接触式医療のニーズにも対応できる。

当院では、睡眠に関するオンライン診療を受けている患者を対象にアンケート調査を実施した。新型コロナウイルスの問題にかかわらず今後もオンライン診療を希望する患者が6割近くにのぼり、一度オンライン診療を経験した患者はそのほとんどがオンライン診療の継続を希望することが明らかとなった。

オンライン診療の課題

現在、オンライン診療に関するガイドラインの整備が進められている。また、2022年度の診療報酬改定により評価の新設や点数の引き上げ、対象の拡大が行われた。一方、対面診療とオンライン診療の使い分けやコメディカルスタッフの関わり方、デバイスの連携などには課題が残る。現場での実施経験に基づいた議論を重ねながら、オンライン診療の有用性と安全性についてエビデンスを形成していく必要がある。

講演のまとめ

  • コロナ禍でオンライン診療の普及が進んだ
  • オンライン診療は、症状が安定している患者に適切である
  • オンライン診療を行うためには、実施施設でのルール作りとチーム医療が必要である
  • 在宅時の患者データを共有し医療者がモニタリングすることで、入院中のようなきめ細やかなフォローが可能である
  • さまざまな医療・検査機器とオンライン診療システムを連携することで、入力漏れや間違いを防止できる
  • オンライン診療のニーズの増加に伴い、ガイドラインや診療報酬の整備が進むだろう
  • 医療者側はオンライン診療の確立を目指し、十分な議論と経験の集積が必要である

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