2022年11月04日掲載
医師・歯科医師限定

【第109回日本泌尿器科学会レポート】mCRPCに対する薬剤の選択基準(3600字)

2022年11月04日掲載
医師・歯科医師限定

順天堂大学大学院医学研究科 泌尿器外科学 / 順天堂大学医学部附属順天堂医院 泌尿器科 准教授

永田 政義先生

現在mCRPC(転移性去勢抵抗性前立腺がん)に対する化学療法は、多くの薬剤や投与方法の誕生により複雑化している。薬剤の選択や切り替えの判断に悩むケースは多いのではないだろうか。永田 政義氏(順天堂大学大学院医学研究科 泌尿器外科学 准教授)は、第109回日本泌尿器科学会総会(2021年12月7日~10日)におけるシンポジウムの中で「mCRPCに対する化学療法の役割」と題し、mCRPCに対する薬剤選択基準について講演を行った。

mCRPCに対する1次治療

upfrontでARA(androgen receptor-axis-targeted agent)もドセタキセルも使用可能になっている現状、mCRPCはその経過によって3つに分類することができる。「upfrontドセタキセル由来型」、upfrontでのアビラテロンやアパルタミド使用からの「upfront ARAT由来型」、そしてADT単剤やビカルタミドなどビンテージ治療からの「従来型」である。化学療法はARAT型と従来型、どちらも同様に行われることになると考えるが、今回紹介するデータは主に従来型のmCRPCとして考えたい。

前立腺がんにドセタキセルが適応となった2008年以降、本邦でもmCRPC患者の全生存期間(OS)延長効果を認める薬剤が次々と誕生した。さらに近年では、治療はホルモン感受性からのupfront治療へ移行しており、またBRCA変異mCRPCへのオラパリブの登場によって、薬剤の選択肢はさらなる広がりをみせている。そこで悩ましいのは、m0CRPC(非転移性去勢抵抗性前立腺がん)も含めたCRPCに対する適切な第一選択薬、それからの使用シークエンス、またその中でオラパリブや塩化ラジウム(Ra-223)の投与タイミングなどのmCRPC治療ストラテジーの構築である。

まずmCRPC治療で最初に悩むのは、初回にどの薬剤を選択するかだろう。判断基準のヒントとなり得るデータの1つとして、初回ADT治療の奏効期間(Time-to-CRPC)と薬剤効果の関連を示すデータを紹介する。

mCRPCへのエンザルタミドの有効性は、Time-to-CRPCが12か月を超える症例では、約58%においてPSA低下率-50%を達成したが、Time-to-CRPCが12か月未満の症例においては-50%のPSA低下は約8%と、ほとんど効果が認められない結果となった。

これに対し別の試験において、ドセタキセルを投与した場合、Time-to-CRPCが12か月を超える症例では77.4%でPSA低下率-30%が確認されたが、Time-to-CRPCが12か月未満の症例においても59.4%のPSA低下を示し、これらに統計学的な差はなかった。このことから、初回ADT治療の奏効期間が短い症例に対しては、ドセタキセル(タキサン系抗がん剤)投与の選択がふさわしいと考える。

これらのデータなどを参考に、順天堂大学ではタキサン系抗がん剤の選択基準を以下のように設定している。

  • Gleason Scoreが9または10
  • 初期段階で内臓転移がみられる症例
  • 骨転移などによるがん性疼痛があり、オピオイドを必要とする症例
  • 初回ADT治療奏効期間(Time to CRPC)<12か月
  • PSA倍加時間<3か月
  • ALPやLDHの著明高値例
  • 1次治療としてのARAT製剤3か月非奏効例(一次耐性)


治療を行う中では、神経内分泌化にも注意する必要があるだろう。また、mCRPC患者の経過観察に関しては、定期的な疼痛などの症状の聞き取り、毎月の腫瘍マーカーPSAの測定、年3~4回のCT・骨シンチグラム画像検査を行っている。

ARAT製剤脱落後の3次治療

次に、ARAT製剤不応後の3次治療選択に関するデータを紹介する。2019年にThe New England Journal of Medicineで発表されたCARD試験だ。本試験では、mCRPCとなり、ドセタキセル治療とARAT製剤の治療歴を有する患者を対象として、カバジタキセル投与群とARAT製剤(アビラテロンとエンザルタミドのうち、以前投与されていない薬剤)投与群を比較検討している。結果として、無増悪生存期間(PFS)の中央値は、カバジタキセル投与群で8か月、ARAT製剤投与群で3.7か月であった。さらにOSの中央値は、カバジタキセル投与群で13.6か月、ARAT製剤投与群で11か月であり、PFS、OSともに有意差をもってカバジタキセル投与群でよい結果が示された。交叉耐性の観点から、ARAT製剤による逐次治療は避けたほうがよいということが考えられる。mCRPC患者でARAT製剤が不応になった症例で、ドセタキセル使用後であれば、その3次治療にはカバジタキセルの投与がよいだろう。

ドセタキセルからカバジタキセルへの切り替え判断基準

それでは、ドセタキセルからカバジタキセルへの切り替え判断を行うタイミングについては、どのような観点で考慮すべきであろうか。これに関しては、TAX327試験のサブグループ解析をヒントに考えていこう。

PSA低下率とOSには相関がみられており、PSAが低下しているほどOSが延長する傾向にあった。そこで、ドセタキセル3か月投与時点でPSA-30%低下を達成した群と未達成であった群とを比較すると、OS中央値は達成群で21.6か月、未達成群では13か月と大きな差が確認された。ドセタキセル投与後3か月時点でPSA-30%低下を達成しなかった症例は、その時点でカバジタキセルへの切り替えを選択したほうがよいだろう。

永田氏講演資料(提供:永田氏)
出典:Armstrong AJ,et al.J Clin Oncol. 2007 Sep 1;25(25):3965-70.

また、有害事象(AE)の発現によって切り替えを判断することもある。ドセタキセルとカバジタキセルでは、発現する有害事象の種類が大きく異なっている。ドセタキセルでは、脱毛、爪障害、神経障害など患者が自覚する症状が多くみられる一方で、カバジタキセルは、自覚症状のない好中球減少症の頻度が高い。ドセタキセルで安定した効果がみられていても、患者のQOLが下がるようなドセタキセルの有害事象によって継続が難しいと判断される場合には早い段階で切り替えるのもよいかもしれない。

タキサン系抗がん剤の有用性

次にリキッドバイオプシーの観点から、タキサン系抗がん剤の有用性について検証したい。2015年にジョン・ホプキンス大学から、mCRPC患者における血中循環腫瘍細胞(CTC)中のAR-V7(Androgen receptor splicing variant 7)発現とARATの有効性の関連が報告され、The New England Journal of Medicineに掲載された。AR-V7はアンドロゲンが結合するLigand binding domain(LBD)が欠損しており、AR(アンドロゲン受容体)発現を恒常的に活性化させる。そのためAR-V7の発現は、ARを標的としたARAT製剤への耐性機序の1つとして考えられている。

一方、タキサン系抗がん剤は、CTCにおけるAR-V7の存在にかかわらず独立した有効性を示すことが認められている*。つまり、事前にCTCにおいて、AR-V7が陽性か否かを判断することができれば、効率的な薬剤選択が可能になるということだ。

*出典:Onstenk W,et al. Eur Urol. 2015 Dec;68(6):939-45. Antonarakis ES,et al. JAMA Oncol. 2015 Aug;1(5):582-91.

そこで、mCRPCでカバジタキセル治療中の患者48例において、CTC解析と薬剤有効性の前向き検証を行った。上述にあるように、Time-to-CRPCが短い患者にはARATの有効性はあまり期待できないが、今回登録された患者のTime-to-CRPCも10か月と比較的短かった。Gleason Score 8以上が約80%であり、またほとんどの症例でARAT1剤とドセタキセル使用後の3次治療としてカバジタキセル治療が使用された。約60%は、前立腺への手術や放射線治療など局所治療を受けていない症例であった。

CTCを検出するキットには、QIAGEN社のAdnaTestを採用した。これはジョン・ホプキンス大学でも使用されており、特別な機器は必要なくキットであるため、CTC回収から分子発現解析まで研究室内で解析可能である。PSA発現の有無で前立腺がん細胞が回収できているかが判断でき、ARAT製剤耐性の1つの指標になり得るAR発現の強弱の評価や、AR-V7も検出可能である。48例の解析では、ベースラインでのCTC陰性が14例、CTC陽性かつAR-V7陰性は26例、AR-V7陽性は8例であった。初診時PSA(iPSA)はCTC陰性群が11.5ng/mLともっとも低く、CTC陽性群は89.2ng/mL、AR-V7陽性群は175.1ng/mLと高値であった。また、骨転移数はCTC陰性群で少なく、AR-V7陽性群で多い傾向が認められた。結果として、PSA奏効率において、3群ともカバジタキセルの有効性に統計学的な差はなく、CTCの有無やAR-V7の有無に関わらずカバジタキセルは独立して有効性を示すことが示唆された。

さらに2015年には、mCRPCの14症例を対象に、ARATとタキサン化学療法の治療シークエンスにおいてCTCにおけるAR-V7発現の有無を経時的にみた報告が発表された。これによると、ドセタキセルやカバジタキセルといったタキサン系抗がん剤では、陽性AR-V7の陰転化が起こり得るが、ARATではAR-V7陰転化は起こらないことが示唆されている。

ここで実際の症例を報告する。局所治療後にADT治療後CRPCとなった症例で、mCRPC初回治療としてアビラテロンを投与したが、PSA上昇(PSA 1.8ng/mL)を認めた症例の経過を追った。まずPSA上昇時にAdnaTestによって回収したCTCでAR-V7陽性が確認されたため、ドセタキセルを選択した。ドセタキセル治療後は、PSA値はほぼ0ng/mL付近まで低下しており、ドセタキセルは6サイクルでいったん休薬したが、この時点でAR-V7陰転化も確認された。しかし、休薬後はPSAは徐々に上昇してきたものの、この時点でもAR-V7は陰性が持続していたため、再度アビラテロンを再開したところ、アビラテロンは感受性を取り戻し、有効性を示したのである。

永田氏講演資料(提供:永田氏)
出典:N Nagaya,M Nagata,et al. Front Oncol. 2020 Apr 8;10:495.

ARAT製剤を2剤連続使用するよりも、その間にタキサン系抗がん剤を投与することでARAT製剤感受性が復活し、2剤目のARAT製剤の有効性が期待できる可能性がある。

講演のまとめ

  • 初回ADT治療の奏効期間が12か月未満の症例に対しては、mCRPC初期治療としてタキサン系抗がん剤を検討する
  • ARAT製剤抵抗性が認められた場合には、ARATの逐次療法よりは、タキサン系抗がん剤を検討し、すでにドセタキセル使用した例ではカバジタキセルを優先的に考慮する
  • ドセタキセル3~4サイクル後、PSAが30%以上低下しない症例や、自覚する有害事象の強い症例では早期のタイミングでカバジタキセルへの切り替えを検討する
  • カバジタキセルは、CTCにおけるAR-V7の有無に関わらず独立に有効性を示す
  • ARAT製剤抵抗性が認められた症例にタキサン系抗がん剤を投与することによって、AR-V7の陰転化が促され、ARAT製剤感受性を取り戻す可能性がある

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