2024年04月17日掲載
医師・歯科医師限定

超高齢社会見据え運動器寄りにバランスも―第68回日本リウマチ学会総会・学術集会、髙木理彰会長に聞く見どころ・聴きどころ

2024年04月17日掲載
医師・歯科医師限定

山形大学医学部整形外科学講座 教授

髙木 理彰先生

第68回日本リウマチ学会総会・学術集会が2024年4月18~20日、神戸コンベンションセンターを会場に開催される。近年の抗リウマチ薬の発達に伴い、学術集会の内容も薬物治療を中心となってきた感がある。今回は、超高齢社会にも目を向け、高齢患者が直面する運動器の課題にも焦点を当て、また社会面にも配慮しているという。会長を務める髙木理彰・山形大学医学部整形外科学講座主任教授に、テーマに込めた思い、見どころや聴きどころ、リウマチ・膠原病学の魅力などについて聞いた。

「本質をとらえる」を目指すテーマ、ポスターにも“3つの意味” 

今回のテーマは「流心をとる~Catch the essence~」とした。フラットに見える川面でさえ、その流れは複雑で、常に流心という“水の流れの中心”がある。フライ(毛ばり)を流心に通さないとサケに出合えないという故郷のある老練な釣り師の言葉から、容易に情報にアクセスできるようになった今日、あまたあふれる情報の中から、物事の本質をとらえる力を養ってもらいたいという思いを込めて決めた。米国ミネソタ州在住の釣り仲間に相談したところ「Catch the essence」という英語のタイトルを贈ってくれた。

ポスターには3つの意味が込められている。写っているのは山形県を流れる早春の赤川の河口付近。遡上するサクラマス(チェリーサーモン)を釣りに行った際、袖浦橋から見た日本海に沈む夕陽があまりに美しかったので撮影した写真だ。リウマチの語源は、流れるという意味のギリシア語「rheuma(リューマ)」に由来し、テーマの「流心をとる~Catch the essence~」のほかに、リウマチ患者の気持ちに寄り添うことにもかけている。また、リウマチ学は炎症をいかに抑えるかが大きなテーマで、沈みゆく夕陽は炎症を抑制することの象徴。さらに、ポスターの下に配した開催地・神戸市の美しいウォーターフロントの夜景には、震災から復興した街並みにリウマチの炎症で傷んだ組織再生への願いを重ねている。

超高齢社会見据え運動器寄りにバランス

今回のプログラムのポイントとしては、日本が置かれた超高齢社会という現実にも目を向けて運動器の視座を多く取り入れたこと、男女共同参画や社会情勢などについても幅広く学んでもらう機会を設けたことが挙げられる。

リウマチの治療に関しては、特にこの四半世紀にさまざま薬剤が登場し、治療が大きく進歩し、予後も改善されてきた。そのため、近年、薬物治療が学会で大きく取り上げられてきた。一方、リウマチ患者も高齢化して、さまざまな課題が出てきている。高齢発症の患者も増えている。今回の学術集会では、リウマチ患者の運動器にも目を向け、骨折、骨粗鬆症、フレイルといった問題も網羅したテーマも取り上げている。治療によって炎症を制御した後には、組織の修復も大切である。関節軟骨の再生にも注目して、その最前線を紹介する教育講演やシンポジウムを企画した。また関節障害を克服するロボットをはじめとする手術療法の進歩やリハビリテーションについても取り上げた。

男女共同参画は日本がより真剣に取り組まなければいけない課題だ。そこで、特別講演として、男女共同参画に先進的に取り組んできたフィンランドから、ヘルシンキ大学教育科学部のニーナ・サンタビルタ教授をお招きして「From Housewife to Prime Minister. Reflections on Finland’s Way toward a Gender Equal Society(主婦から首相へ。フィンランドの男女共同参画社会への道筋を振り返る)」の特別講演をお願いしている。サンタビルタ教授は私の研究留学時代のメンターのパートナーだ。フィンランドは1人の女性大統領と3人の女性首相を生んだ、女性の社会進出が進んだ国で、首相経験者には主婦から国会議員になったという経歴の方もいる。そのような男女共同参画社会の歩みや取り組みを知ってもらい、学会のみならず、これからの日本の将来に向けて役立ててもらえればと願っている。

より有効な治療薬の登場は大きな福音となっているが、一方では、財源はじめ医療経済の課題も存在する。治療効果と財源のバランスといった視点も今後ますます重要になってくる。そこで、「里見清一」のペンネームで多くの著書がある日本赤十字医療センター化学療法科部長、國頭英夫氏に、医療経済の課題についてお話しいただく。さらに、リウマチ学の歴史、リハビリテーションなどなど、さまざまな分野にわたる盛りだくさんの内容が今回の学術集会のプログラムの特徴となっている。

研究・臨床通しリウマチ学発展への貢献目指す

リウマチは治療薬の発達で治せることが期待できる病気になったが、新しい薬は高価なため治療に乗り出すには高いハードルがある。リウマチの炎症は早期から組織を破壊するため、早く治療を始めたほうが予後はいいが、経済的な事情から新しい薬の導入に二の足を踏む方も少なくない。経済や家庭環境などの要因で治療に積極的になれないという現実もある。

リウマチをはじめ若い時期に発症する病気も含まれ、患者の高齢化と合わせると、リウマチ性疾患による社会の負担は非常に大きいものがある。高額だが、うまく薬剤を使って治療すれば、より予後の改善が見込める時代となった。それによって社会復帰やより積極的な社会参加が可能になり、社会が好循環するという面に目を向けることも大切だと思う。患者や家族、治療を担う医療体制を社会全体で支えていくことはとても大切と考える。薬物治療をはじめリウマチ治療全般についても医師と患者だけの問題ではなく、社会全体で考えてもらいたいと思っている。

社会経済的な側面にも配慮しながら、リウマチ性疾患の研究・臨床を通して日本のリウマチ学の発展に貢献すること、リウマチ診療のいっそうの向上を図ること、多職種多分野連携、国際化といった“流れ”が、今の日本リウマチ学会に求められる大きな役割だと思っている。

患者が治療で取り戻した笑顔が原動力に

整形外科医を志すきっかけは、痛みで体が動きにくくなった患者が治療によって笑顔を取り戻して社会に復帰する姿を、整形外科の勉強や研修を通し学生時代を含めて目の当たりにしてきたことだった。一方で、私が医師となった1986年ごろはリウマチの治療がうまくいかず、地方の大学病院の整形外科病床には、関節リウマチの長期罹患で関節障害が進み動けなくなった患者が非常に多く入院していた。整形外科医の視点から、リウマチ性疾患に苦しむ患者や家族の役に立ちたいと思い立ったことがリウマチ学を志すきっかけになった。

リウマチの患者の診療を始めた当初は、いくつかあった薬も効果の実感は乏しく、外来で患者と言葉もなく悩む、といった時代だった。やがてメトトレキサートが使えるようになり、さらに2000年代に入ってからは生物学的製剤、10年ほど前にはJAK阻害薬も使えるようになって、薬剤療法がドラスティックに変わっていく時代を、身をもって経験してきた。

大学院生時代にフィンランドに留学の機会を得たことも大きなきっかけになった。当時フィンランドは世界で初めてリウマチ患者専用の病院をつくり、患者を支える社会体制も整備されていた。その国で整形外科とリウマチ科両方の教授に師事することができ、研究を通して世界中の方々と知己を得る機会に恵まれたことは大きな財産になっている。

炎症という免疫学の根幹を扱う領域なので、リウマチ学は非常に面白い学問分野だと思う。もう1つ大切なのは、リウマチ学に関わる領域は非常に裾野が広く、内科や整形外科だけでなく小児科やリビリテーション科をはじめさまざまな診療科、さらに社会医学も含めて多くの分野の方々が関わる多彩な学際分野になっていることだ。小児でリウマチ性疾患を発症する方もいる。障害が重度な方はもちろん、高齢になればリハビリを担当する理学療法士や作業療法士、看護師、介護士の方など、いろいろな職種の方との連携がいっそう大切になってくる。リウマチ学を学ぶ若手の皆さまには、リウマチ学のもつ多様な学際分野の特性を理解しながら、自分の得意な分野を中心に幅広く学んでほしいと願っている。それはおそらく、社会そのものを勉強することにもなるだろうし、患者一人ひとりと深く向き合うことにもつながり、若い時期から医師としての裾野が広がると思う。ともすれば、整形外科は手術だけやっていればよいと考える若手も増えているが、患者と向き合う医師としての基本姿勢を学ぶことができるのもリウマチ学の魅力ではないだろうか。

現在、自身が目指していることは、限られた専門分野にとらわれず、リウマチ性疾患に興味を持って診療や研究にあたってくれる若手を増やすことだ。特に東北地方はリウマチ診療に携わる医師が少なく、底上げを図っていければと念じている。

自身の関心分野を糸口に関連分野の知識習得を

リウマチ学はさまざまな分野から成り立っている学問領域、医療領域なので、関わる方も多種多様だと思う。そういう皆さんにより関心を持ってもらえる幅広いプログラムを学術集会では用意した。自身の関心分野を取っかかりに、関連する分野の最新の知見や知識を学び、さらに幅を広げてもらいたいと思っている。これまでの長い歴史を振り返って、リウマチ学を支えてきた内科、整形、小児、リハビリの各分野はもとより、関連する学際、医療関係者の皆さまの努力の上に、今のリウマチ学の発展があると思っている。これを肝に銘じながら、日本の実情に合ったリウマチ学分野の発展が続くことを願い、今学術集会の会長を務める。

会員登録をすると、
記事全文が読めるページに遷移できます。

会員登録して全文を読む

医師について

新着記事