2022年06月01日掲載
医師・歯科医師限定

【第80回日本癌学会レポート】COVID-19が血液腫瘍患者に与える影響(2800字)

2022年06月01日掲載
医師・歯科医師限定

神戸大学医学部附属病院 腫瘍・血液内科

小山 泰司先生

COVID-19の流行は多くの医療体制に影響を与えた。がん治療中や免疫不全の患者は感染リスクやワクチンによる抗体価の増加が一般と異なるため、診療において十分留意する必要がある。神戸大学医学部附属病院 腫瘍・血液内科の小山 泰司氏は、第80回日本癌学会学術総会(2021年9月30日〜10月2日)において、COVID-19が血液腫瘍患者に与える影響について講演を行った。

COVID-19の医療におけるリスク

COVID-19による医療への影響は感染による重症化リスクだけでなく、感染を気にした受診控えによる診断・治療の遅れ、入院時の面会制限によるストレスなどがある。また、医療スタッフや同居人の感染による欠員も人員資源の減少リスクとして挙げられる。

COVID-19の感染経路は主に飛沫感染であり、ときにエアロゾルによっても感染する。潜伏期間は14日間で、発症する2〜3日前からウイルスを排出することから制御が困難なウイルスとされている。COVID-19の症状は発熱、呼吸苦、咳などが挙げられるが、診断の決め手となるような症状は存在しないのが現状だ。

また、COVID-19感染後に起こる長期の倦怠感や精神的症状が報告されているが、これに関してはワクチン接種により低減する可能性があると示唆されている。

がん診療におけるCOVID-19の影響

がん診療におけるCOVID-19の影響として、主に以下のようなことが挙げられる。

・がんの診断の遅れ(根治不能例を含む進行がんの増加)

・治療の優先順位

・化学療法と感染リスク

・限られた医療資源による診療の停滞

・在宅ケアや緩和ケアにおけるアウトブレイク

・患者や医療スタッフ、またその家族の健康管理

オランダのデータでは、COVID-19の流行が始まった後から悪性腫瘍(固形腫瘍)の診断が減ったと報告されている。一方で血液腫瘍に関しては、小児のデータではあるがCOVID-19が流行する前と大きく変化していないとの報告がある。

また免疫不全があるがん患者では、以下のようなことが問題になるといわれている。

・COVID-19の重症化リスクが高くなる可能性がある

・SARS-COV-2の感染やウイルス排出が遷延する

・SARS-COV-2に対する中和抗体が低い

・SARS-COV-2を家族に感染させるリスクが高くなる

・ワクチン接種後のブレイクスルー感染が多い

がん患者におけるCOVID-19の重症化リスクを検討した複数の報告を見ると、血液腫瘍の患者の場合、特にリンパ球が減少していたりステロイドを使用していたりする場合で、重症化リスクが高いことが示唆されている。

症例紹介――COVID-19を発症した血液腫瘍患者の例

ここで、COVID-19に罹患した多中心性キャッスルマン病(MCD)患者の症例を紹介する。

患者は42歳男性。2006年にMCDと診断されたが治療により寛解し、2020年にCOVID-19を発症した。なお、COVID-19に罹患する5か月前にEBV感染によるリンパ球増殖症となり、R-CHOP療法を実施していた。

COVID-19の症状は当初発熱だけであったが、重症化リスクが高いため入院し、対症療法を実施。しかし依然として熱が下がらず、全身のリンパ節腫脹も目立ってきたため肺の腫瘤を生検したところ、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の診断となった。治療方針について検討を重ねたうえで、プレドニゾロンとエトポシド内服で解熱したため退院となった。

しかしその5日後、熱と食思不振により再受診。SpO2 93%と低値であり、骨髄抑制も認めたため入院加療とした。入院後G-CSF製剤の投与を開始したところ、血球減少は改善したが、解熱はみられなかった。DLBCLの増悪も伴っていたことから、DLBCLに対するプレドニゾロンを投与して解熱した。その後、患者の精神状態なども加味して検討を重ねた結果、緩和治療の方針になり、退院して在宅医療を受けることになった。しかし、COVID-19に感染して約2か月後に亡くなられた。最後の受診時にもPCR検査の結果は陽性であった。

COVID-19に対する抗CD20モノクローナル抗体のリスク

COVID-19の重症化リスクといわれているのが、リツキシマブなどの抗CD20モノクローナル抗体だ。ある報告では、6か月以内に抗CD20モノクローナル抗体を投与した場合で特に重症化リスクが高く、また約17%がCOVID-19を再燃したとされている。そのほか、R-CHOP療法を3か月以内に実施した患者は約36%亡くなっているという報告もある。

COVID-19流行下のG-CSF

血液腫瘍患者の場合、固形腫瘍の患者よりもSARS-COV-2のウイルス排出期間が長い可能性が示唆されていることからも、感染後のマネジメントに苦労することが多い。そこで、発熱リスクを低下させる予防的なG-CSFや感染予防のワクチンについて考えることになる。

予防的G-CSFは各国のガイドラインでも挙げられているとおり、腫瘍の範囲を広げて対応することがすすめられている。予防的なG-CSFを行うことで発熱性好中球減少症(FN)のリスクを低下させることが可能であり、FN中程度リスクの場合でもFN予防をすることで費用対効果がよいというデータも報告されている。

それでは、COVID-19に罹患している場合にG-CSFを行うことで、どのような影響があるのだろうか。G-CSF を行っている患者がCOVID-19に感染すると呼吸不全や死亡率のリスクが高くなるという報告や、G-CSFを長期間実施すると呼吸不全のリスクが高くなるという報告もある。そのため、G-CSFの実施に関しては判断が難しいところではあるが、今のところG-CSFの治療を控える必要はないと考えている。

免疫不全とワクチンによる抗体価

続いてCOVID-19ワクチンの話題に移す。ワクチンの効果に関して、非がん患者のデータではあるが、90%ほどの感染予防効果があり入院や死亡率も低下させるとされている。

下図は、免疫不全患者における抗体価を示したCDC(米国疾病予防管理センター)のデータである。図左の青で示されているのが、がん患者の抗体価だ。そのうち濃い青で示されているのが血液腫瘍患者であり、抗体価が低いことが分かるだろう。

Data and clinical considerations for additional doses in immunocompromised people.Sara Oliver MD, MSPH ACIP Meeting July 22, 2021より引用

別の報告では、がん患者全体で比較すると、B細胞を標的とする治療をしていない患者であれば固形腫瘍の患者と同様であるとされている。また、抗CD20モノクローナル抗体を投与している患者では抗体価は上がりにくく、治療を終えてから6か月〜1年ほど経過してやっと抗体価が上昇するとも考えられている。なお、インフルエンザワクチンなどと比較した検討でも同様の傾向が示されている。

COVID-19と医療マネジメント

COVID-19におけるChoosing wiselyとして、患者および医療者に対する10の項目がNature Medicineにて発表されている。そのうち、がん診療を行う立場として特に注目すべきが「流行期のCOVID-19以外の疾患のマネジメントをおろそかにしない」という項目で、「がん医療の停止はCOVID-19流行以上の死亡が懸念される」という内容も併せて述べられている。COVID-19終息のめどが立たないなか、我々医療者はこのことを肝に命じて診療にあたっていく必要があるだろう。

講演のまとめ

  • がん患者ではCOVID-19の重症化リスクが高くなる
  • 特に血液腫瘍患者では、ウイルス排出の遷延や中和抗体が低いという問題がある
  • 抗CD20モノクローナル抗体はCOVID-19重症化リスクの可能性がある
  • 予防的なG-CSFはFNリスクを低減させる一方で、G-CSF はCOVID-19による呼吸不全や死亡リスクにつながるという報告もある
  • COVID-19流行期であっても、COVID-19以外の疾患のマネジメントをおろそかにしてはいけない

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