2022年12月07日掲載
医師・歯科医師限定

【第7回日本肺高血圧・肺循環学会学術集会レポート】医療画像認識におけるAIの可能性(2800字)

2022年12月07日掲載
医師・歯科医師限定

徳島大学病院 循環器内科 講師

楠瀬 賢也先生

人工知能(AI)はコンピュータ技術の発展によって急速な進化を遂げ、多くのものに応用されている。医療においても例外ではなく、診断精度の向上や均てん化を目指して画像診断にAIが活用され始めている。実用化により、診断ミスの軽減だけでなく病態の早期発見にもつながる可能性がある。楠瀬 賢也氏(徳島大学病院 循環器内科 講師)は、第7回日本肺高血圧・肺循環学会学術集会(2022年7月2日~3日)におけるシンポジウムの中で、肺高血圧症(PH)診療での医療画像認識におけるAIの可能性について解説した。

AIの登場と進化――ディープラーニングによる画像認識の質向上

1950年代に、知的な情報処理全般をコンピュータが行う「AI」が登場し、注目を浴び始めた。その後1980年ごろには、データから規則や数理構造を抽出する統計学の要素が入ったマシンラーニング(機械学習)へと進化している。2010年代に入ると、ニューラルネットワーク技術のディープラーニング(深層学習)が発展し、医療にも応用できる可能性が広がった。

画像認識におけるディープラーニングとは、「画像からの特徴量抽出を自動化」した技術のことである。従来のAIによる画像認識は、人間の目で見て捉えられる情報をコンピュータに学習させ、判断させる仕組みだった。しかし、コンピュータに教える方法の違いによって認識精度が大きくばらついてしまうことが、問題点として挙げられていた。また、教え方が正しいかどうかの判断は実際に画像認識をさせてみなければ分からず、従来のAIによる画像認識はエラーが多く精度も低かった。

ディープラーニングの登場により、コンピュータが自動的に画像データ上の特徴を抽出できるようになった。専門家の知見が不要になり、学習方法がコンピュータに適していたことから、AIによる画像認識の精度は格段に向上した。2012年にディープラーニングが登場して以降、認識精度は従来のAIより格段に向上し、2015年にはAIの認識精度が人間の認識精度を超えたのだ。画像認識においては、人間よりもコンピュータのほうが正確に判断できる可能性が示唆された。

医療画像に対するAI画像認識の応用――肺高血圧症スクリーニングの可能性

ディープラーニングによる画像認識を肺高血圧症(PH)の診断に応用すべく、患者900例を対象とした研究を実施した。AIに胸部X線画像を学習させ、モデル患者の肺動脈圧がカットオフ値の20mmHgより高値か低値かを予測させる。診断モデルのカットオフ値を調整した結果、感度98%、陰性的中率95%との結果が得られた。特異度は41%、陽性的中率61%と高くはないが、スクリーニングには活用できる可能性があると考えている。

実臨床における医療画像AIの活用――運動負荷心エコー検査の効率化を目指して

PHにおける平均肺動脈圧の上昇は、病変の進行により有効肺血管床の2/3以上が障害されることで生じる。徳島大学では、より早期の段階で病変を把握できるように、運動負荷心エコー検査を用いた早期診断を2011年から実施している。5年間フォローしたところ、運動誘発性肺高血圧症(EIPH)がある患者とない患者では、フォロー開始から約3年の無イベント生存率に有意差を認めた。PHを運動負荷による症状の有無といった側面から捉えることで、PHの早期発見につながる可能性が考えられる。

EIPHを認めた患者のうち、希望者には肺血管拡張薬を投与する試験も実施した。投与群は無イベント生存期間が延長され、非EIPH群と同程度まで改善した。

上記の結果を踏まえ、運動負荷心エコー検査の実施の適応がある強皮症または強皮症の特徴を伴う混合性結合組織病の症例に対し、ハイリスク群をAIモデルで同定する研究を行った。運動負荷心エコー検査を実施後、1か月以内に胸部X線写真が撮影された症例142例を対象とした。これをEIPH 52例/非EIPH 90例の2群に分け、X線写真をAIモデルで解析し、X線写真から予測したPHの確率を比較した。

結果、EIPH群ではPHの確率が37%、非EIPH群では11%と示された。さらに両者の典型的な2症例を比較したところ、EIPH症例ではPHの確率が89.8%、非EIPH症例では1.1%との結果が得られた。2群で明確な差が得られたことから、X線写真からハイリスク群を同定することで、運動負荷心エコー検査を効率化することが可能になると考えられる。

講演のまとめ

  • AIにより、従来の画像診断学は大きな進化を遂げている
  • AIを開発するだけでなく、活用方法について考えるフェーズに突入した
  • EIPHはPHの早期病態であり、発見には運動負荷心エコー検査やX線写真を解析するAIモデルの活用が有用である

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