2021年11月09日掲載

湿疹三角を読み解く

2021年11月09日掲載

中東遠総合医療センター 参与、皮膚科・皮膚腫瘍科診療部長、アレルギー疾患研究センター長

戸倉 新樹先生

湿疹は非常にありふれた病気であるが、多様な臨床像を呈することから実臨床で湿疹の診断に迷う医師は多いだろう。中東遠総合医療センターの戸倉 新樹氏は、第120回日本皮膚科学会総会(2021年6月10日~13日)で行われた教育講演の中で湿疹三角に基づいた湿疹の多様性について紹介した。

炎症性皮膚疾患の診断

炎症性皮膚疾患の診断時には、「アルゴリズム」パターンと「引き出し」パターンの2つの手法によって皮疹を読み解くことが大切だ。アルゴリズムパターンとは系統立って皮疹を見る方法であり、引き出しパターンとは皮疹の状態から考えられるいくつかの疾患から、該当する疾患を選び取る方法である。

戸倉氏はこのうち、アルゴリズムパターンに基づく炎症性皮膚疾患の診断について言及した。アルゴリズムパターンでは、まず病変が「表皮、真皮、皮下脂肪組織」のうちどこに存在しているのかを確認することから始める。具体的には以下のような変化について確認する。

・表皮の変化……ざらざら感がある(丘疹、小水疱、鱗屑など)

・真皮の変化……赤みが生じている(紅斑)

・皮下脂肪組織の変化……しこりが触れる(硬結)

またこれらはいずれか1つが現れるわけではなく、いくつかの病変が組み合わさって出現することが多い。出現パターンについては、以下の1〜6の順で頻度が高いという。なお、表皮+皮下脂肪組織のパターンは存在しない。

1.表皮+真皮

2.真皮のみ

3.真皮+皮下脂肪組織

4.表皮のみ

5.皮下脂肪組織のみ

6.表皮+真皮+皮下脂肪組織

湿疹の3大特徴

炎症性皮膚疾患でもっとも頻度が高い病変の出現パターンである表皮+真皮の組み合わせで生じる代表的な疾患として、戸倉氏は「湿疹、乾癬、扁平苔癬」の3つを挙げた。すなわち、皮膚のざらざら感(表皮の変化)と赤み(真皮の変化)がみられた場合には、まずはこれらの疾患を鑑別する必要があるとし、各疾患の特徴について以下のように解説した。

・湿疹……かゆみ、点状状態、多様性

・乾癬……厚い鱗屑を伴う境界明瞭な紅斑

・扁平苔癬……紫紅色の丘疹

これらのうち、湿疹で特に注目すべき特徴は「多様性」だ。戸倉氏はこの多様性を「油絵タッチ」の臨床像になると表現した。一方、痒疹の場合には単一性のある大きな丘疹が出現することから、油絵タッチとは対象的にポスタータッチの臨床像を呈するという。

湿疹の多様性は、かゆみとポツポツした皮疹に加えて、小丘疹や小水疱、鱗屑などさまざまな症状が出現することにある。戸倉氏は「こうした皮疹の状態を理解するのは必ずしも容易ではない。この多様性が湿疹を積極的に診断する際の障害になっている」と言及した。つまり湿疹の診断では、ほかに可能性のある疾患をルールアウトすることによって、最終的に湿疹と診断するという論法になることが多いのだ。

湿疹の多様性

湿疹は角層やタイトジャンクションといったバリアを通過した外来抗原に対し、皮膚細胞が免疫・炎症反応を起こすことで生じる。ただし、一口に湿疹といっても以下のようにさまざまな観点で分類することができる。


戸倉氏講演資料より作成

加えて、湿疹は先述のとおり非常に多様性のある臨床像を呈する。原発疹としては紅斑や小丘疹・丘疹、小水疱・水疱あるいは膿疱などが、続発疹としてはびらん、痂皮、鱗屑、色素沈着などがみられる。

さらに点状の個疹は形態を変えるうえ、その形態の変化は無数の個疹に時間差で生じるという特性もある。たとえば急性の接触皮膚炎の場合、接触した時点が同じになるため最初の皮疹要素は同じであるが、時間の経過とともにそれぞれの個疹はばらばらに形態を変えていく。また、アトピー性皮膚炎では個疹が同調性を持っておらず、ランダムに経時的な変化が起こる。

ほかの炎症性皮膚疾患と比較すると、さらに湿疹の多様性がよく分かる。たとえば、蕁麻疹では浮腫性紅斑しかみられないため診断も容易である。また水疱性類天疱瘡でさえも、紅斑、小水疱、水疱、びらん、痂皮という症状しかなく、湿疹に比べてはるかに要素が少ない。

戸倉氏は「湿疹は皮膚疾患の中でも高頻度でありながら、その多様性によって積極的な診断が難しい病気である」と強調した。

湿疹三角でみる湿疹の多様性

そのような多様性を持つ湿疹の経過を表現する際に多用される図が「湿疹三角」だ。戸倉氏によると、湿疹三角がドイツ以外の海外で使われることはほとんどなく、湿疹三角を用いて湿疹の多様性を説明する戦略は日本の特徴であるという。

湿疹三角では、以下の図にある矢印の順番で経過を辿り、最終的には慢性湿疹に移行して苔癬化または治癒に至ることが示されている。また急性湿疹の状態では、多様な症状が起こることも分かるだろう。


戸倉氏講演資料より作成

慢性湿疹自体にも多様性がある

湿疹では点状個疹や多様性が特徴となるが、湿疹が慢性化すると顕著な点状個疹がみられなくなり、多様性も減弱していく。

「慢性化することで湿疹の多様性は失われていくが、慢性湿疹では新たな多様性が起こる」と戸倉氏は述べる。慢性湿疹では苔癬化がみられることがあるが、一口に苔癬化といってもその臨床像は、丘疹の要素を残しているものから、均一化して肥厚した局面になっているものまでさまざまだ。また部位によって角化傾向、亀裂、色素沈着など起こりやすい症状も異なる。

戸倉氏は最後に「湿疹三角を今一度読み解くことで湿疹が持つ多様性を理解し、実臨床での治療戦略にも用いることができるだろう」と本演題を締めくくった。

講演のまとめ

戸倉氏は本講演のポイントとして以下の3つを挙げた。

・湿疹三角は湿疹の多様性ある要素を経時的に表している。

・湿疹三角が表現しているのは表皮の変化であり、小丘疹・丘疹・漿液性丘疹、小水疱、膿疱、湿潤局面(浸出液を伴うびらん)、痂皮(結痂)、鱗屑(落屑)という要素を含む。

・湿疹が慢性化すると苔癬化や色素沈着が起こる。

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