2023年01月05日掲載
医師・歯科医師限定

【第55回日本てんかん学会レポート】深層学習を用いたてんかん脳磁図の自動診断(2000字)

2023年01月05日掲載
医師・歯科医師限定

大阪大学大学院医学系研究科 脳機能診断再建学共同研究講座 特任教授

平田 雅之先生

てんかん脳磁図は、棘波の局在を評価する重要な検査である一方、解析に多大な時間を要し、さらに診断精度が担当医師のスキルと経験に依存するという問題もある。そこで期待されるのがAI(人工知能)による自動診断だ。第55回日本てんかん学会学術集会(2022年9月20日~22日)のシンポジウムにおいて、大阪大学大学院医学系研究科 脳機能診断再建学共同研究講座 特任教授 平田 雅之氏が、てんかん脳磁図の自動診断システム開発に関する研究報告を行った。

てんかん脳磁図検査の課題

てんかん脳磁図(MEG)検査は、てんかん発作の発生源を見つけるために大変重要な検査である。しかし、棘波のダイポール解析(Dipole Tracing Method/双極子追跡法)に膨大な時間を要することが課題だ。欧州9施設での調査結果では、てんかん脳磁図検査の解析時間の中央値が480分であったとも報告されており、大阪大学医学部附属病院においても検査数は年々減少傾向にある。

近年ではAIのディープラーニング(深層学習)を応用して、棘波を自動検出する研究が世界各国で行われているが、その後の解析までを自動化しないことには実用化は難しい。そこで私たちは、棘波検出に加えてダイポール解析までを自動化するシステムの開発に取りかかった。

大阪大学医学部附属病院単施設における研究

はじめに、対象施設を大阪大学医学部附属病院に限定して行った研究結果を報告する。2010年4月~2019年1月までに同院で実施されたてんかん脳磁図検査データのうち、学習データとして適切と判断した406件のデータをもとにAIを構築した。AIについては、株式会社リコーのAI部門と共同で開発したものを使用している。

今回、棘波検出に加えてその発生源の特定を行うため「Classification network」と「Segmentation network」という2種類の深層学習を組み合わせた。Classification networkは棘波の有無を識別し、Segmentation networkは棘波の時間を特定し、ダイポール解析に用いるセンサーを選択するものだ。

なお、Classification networkについては26層のscSE-ResNetを改変して作成し、Segmentation networkについては、DeepU-Netをもとに作成した。Segmentation networkには、Classification networkの構造を一部取り入れることでClassification networkで学習したパラメータを活用できるようにした。

結果を報告する。AIによる解析と医師による解析とを比較したところ、棘波の検出精度は同程度であり、時間については95%以上が±50ms以内の差に収まった。また、ダイポール解析は棘波の立ち上がりからピークに至るまでの間で行うことが望ましいが、立ち上がりからピークまでに検出された棘波の割合は約65%であった。

平田氏講演資料(提供:平田氏)

またダイポール(発生源)の位置についても、医師とAIで4mmほどの差に収まった。実際の症例を比べてみても、左側の側頭葉てんかん症例、右側の前頭葉てんかん症例ともにAIの高い精度が認められている(下図)。特に医師においては、症候学的に判断した思い込みをもとに解析してしまう傾向があるため、時に重要な棘波を見落とすこともある。AIはこのような事態を防ぐ意味でも有用だといえるだろう。

平田氏講演資料(提供:平田氏)

私たちが今回開発したAIの総合性能は、過去の研究結果と比較してもっとも高い精度であった。しかしながらAIには、ある施設でよい傾向がみられても、別の施設に移ると性能が低下する汎化性能の問題が存在する。そこで私たちは、追加で多施設共同研究を行った。

多施設共同研究

実施施設は、大阪大学医学部附属病院に加えて大阪公立大学医学部附属病院、東北大学病院、静岡てんかん・神経医療センターである。男女比は同等になるよう設定し、年齢は25歳前後のデータを採用した。棘波については検出例が729例、非検出例が800例で、それぞれ約14,000件と約43,000件のデータが集められた。

結果を報告する。Classification networkについては、ROC曲線を用いた精度評価で99%を超える結果が示され(AUC:0.9914~0.9957)、高い精度が認められた。単施設のデータでは、施設ごとに96~98%とバラつきがみられたが、集積された多施設データを用いることで、どの施設においても99%以上の性能が得られている。Segmentation networkについても、単施設のデータに比べて多施設データによって学習したAIで高い精度を示していた。

平田氏講演資料(提供:平田氏)

さらに、医師による解析結果とAIデータとを比較した連続生データの比較試験においても、棘波やダイポールの検出率、誤検出率、ダイポール位置の差、ダイポールクラスター一致度という全てにおいていずれの施設でも一定の性能が得られており、施設間格差はほとんど見られなかった。

平田氏講演資料(提供:平田氏)

本研究の実施を分担した研究者は以下のとおりである。

平野 諒司氏1,2)、江村 拓人氏1,3)、貴島 晴彦氏3)、下野 九理子氏4)、菅野 彰剛氏5)、中里 信和氏5)、露口 尚弘氏6)、宇田 武弘氏6)、芳村 勝城氏7)、臼井 直敬氏7)、今井 克美氏7)、鴫原 良仁氏8,9)、岡田 豊治氏8)、朝井 都氏 1,2)、中田 乙一氏 2)、長谷川 史裕氏2)

1)大阪大学大学院医学系研究科 脳機能診断再建学共同研究講座

2)株式会社リコー デジタル戦略部デジタル技術開発センター

3)大阪大学大学院医学系研究科 脳神経外科学

4)大阪大学大学院 連合小児発達学研究科

5)東北大学大学院医学系研究科 てんかん学分野

6)大阪公立大学大学院医学研究科 脳神経外科

7)国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター

8)熊谷総合病院 精密医療センター

9)北斗病院 精密医療センター

講演のまとめ

  • 深層学習を用いることにより、脳磁図のてんかんダイポール解析の完全自動化を達成した
  • 多施設データでの性能は、AUC 0.993、特異度0.995、感度 0.846と実用レベルで、臨床医に匹敵する性能を達成できた
  • 多施設データを学習させることにより、施設間格差が小さい汎用性のある性能を得ることができた
  • 本手法により、臨床医の脳磁図解析に要する多大な時間をほぼ0にすることが期待できる

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