2021年11月24日掲載
医師・歯科医師限定

【第120回皮膚科学会レポート】EGFR阻害薬による皮膚障害のUpdate(4200字)

2021年11月24日掲載
医師・歯科医師限定

独立行政法人 国立病院機構 四国がんセンター皮膚科 併存症疾患センター部長

藤山 幹子先生

EGFR(上皮成長因子受容体)は、標的とするがん細胞以外にも、正常な皮膚や爪、毛包などに存在している。そのためEGFR 阻害薬の服用により、ざ瘡様皮疹、乾燥性皮膚炎、爪囲炎などさまざまな皮膚症状が引き起こされる。

第120回日本皮膚科学会総会(2021年6月10~13日)にて行われた教育講演の中で、藤山 幹子氏(国立病院機構 四国がんセンター皮膚科 併存症疾患センター部長)は、皮膚障害における一般的な治療のアルゴリズムや藤山氏が実際に行っている治療の工夫について解説した。

EGFR阻害薬の種類と皮膚障害

EGFR阻害薬は、チロシンキナーゼ阻害薬と抗EGFR抗体製剤の2つに分けられる。

非小細胞肺がんなどでは、EGFRの変異によってチロシンキナーゼという酵素が活性化し細胞増殖が起きているため、チロシンキナーゼ阻害薬によって活性を阻害する。

一方、EGFRを多く発現している大腸がんなどの治療には、抗EGFR抗体製剤が用いられる。抗EGFR抗体製剤はEGFRを全般的に阻害するため、チロシンキナーゼ阻害薬よりも高確率で皮膚障害を伴う。

EGFR阻害薬による代表的な皮膚障害とその発症頻度を過去の報告から大まかにまとめると以下のようになる。

・ざ瘡様皮疹:3人に2人~4人に3人

・爪囲炎:4人に1人

・乾燥皮膚炎:3人に1人

・そのほか(指腹・足底の角化や亀裂、毛髪異常)

通常、ざ瘡様皮疹の発症後に爪囲炎や乾燥皮膚炎が現れ、ある程度の時間が経過した後に毛髪異常を呈する。

ざ瘡様皮疹治療のポイント

藤山氏ははじめにざ瘡様皮疹について解説した。ざ瘡様皮疹のメカニズムについては、2013年に報告されたLichtenberger BM氏らの研究にて述べられている。これによると、EGFR阻害薬の影響で毛包皮質細胞からケモカインが産生され、リンパ球、好中球、組織球などが誘導される。すると、これらが毛包周囲に浸潤・炎症を招き、毛包の破壊などを起こしてくると説明されている。なお、これらは無菌性の毛包炎であると考えられている。

2016年に皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議で作成された治療のアルゴリズムによると、ざ瘡様皮疹の治療では、通常のざ瘡で用いるステトラサイクリン系やマクロライド系の抗菌薬に加えて、外用ステロイドを用いるとされている。外用ステロイドの強度は重症度によって異なり、重症例では短期的にステロイドの内服を検討するとされている。

処方する外用ステロイドの強さについては、近年新しい報告がされている。チロシンキナーゼ阻害薬を投与した患者にweakのステロイドを継続させた症例と、very strongのステロイドから開始して2週間ごとに強さを落とした症例との比較試験で、ざ瘡様皮疹の出現頻度と重症度に差が認められなかったのである。こうした結果を受けて藤山氏は、「外用ステロイドはweakのものでよいのではないかと考えられるようになっている」と述べた。

また、一般的なざ瘡の治療に用いられるアダパレンゲルの皮疹抑制効果について検討した研究では、アダパレンゲルによるざ瘡様皮疹の出現抑制効果がみられなかったことが報告されている。

診療のヒント(1)チロシンキナーゼ阻害薬と抗EGFR抗体製剤とを分けて考える

藤山氏は「ざ瘡様皮疹の患者に対しアルゴリズムに則った治療をしていても、なかなか治療がうまくいかずに悩むことは多いのではないだろうか」と呼びかけたうえで、臨床における診療の考え方や工夫について主に2点紹介した。

1つが「チロシンキナーゼ阻害薬と抗EGFR抗体製剤とを分けて考える」ということだ。先述したように、チロシンキナーゼ阻害薬と抗EGFR抗体製剤では作用メカニズムだけでなく、投与方法も異なることから皮疹の現れ方に大きな違いが出る。

チロシンキナーゼ阻害薬は継続して服用するため、通常服用開始後1~2週で皮疹が出現してピークを迎え、4週を過ぎる頃には徐々に軽快するという。限局性で軽症のケースが多く、ミノサイクリンが必要でないことも多い。

一方、抗EGFR抗体製剤は週に1度の投与のため、軽快傾向にあっても次の投与が症状の悪化を招くことが多い。チロシンキナーゼ阻害薬よりも遅れてピークを迎え、よくなるまでにも時間がかかる。

チロシンキナーゼ阻害薬を使用した症例では、皮疹の出現は鼻周囲、下顎など比較的限局的である。一方、抗EGFR抗体製剤を使用した症例では、ミノサイクリンの内服やステロイドの外用を行っているにもかかわらず、皮疹が顔面や胸腹部全体と広範囲に及ぶことがある。

このように症状や経過が異なることから、治療法も分けて考えることが大切だ。チロシンキナーゼ阻害薬の場合は皮疹が出てからステロイドを適宜使用するのでよいが、抗EGFR抗体製剤では治療開始時から予防的にミノサイクリンの内服やステロイドの外用を開始することが多いという。

藤山氏は「薬剤によって、ざ瘡様皮疹の症状や経過が異なる点を理解して治療にあたる必要がある」と強調した。

診療のヒント(2)ざ瘡様皮疹と毛包炎とを分けて考える

ざ瘡様皮疹をみる際には、毛包炎と分けて考えることも重要だという。

チロシンキナーゼ阻害薬によるざ瘡様皮疹は、基本的に早く軽快するが、なかには1か月以上症状が継続したり、数か月後に再燃したりするケースがある。藤山氏は、最初のピークをざ瘡様皮疹、1か月以上経過したものを後期毛包炎と考えていると述べた。治療のアルゴリズムにおいても、「ざ瘡様皮疹にステロイドを使用して1か月以上軽快しない場合は細菌性毛包炎を疑う」という文言が2020年の改定時に追記されている。

後期毛包炎は、顔や胸、背中といったざ瘡様皮疹の好発部位に加え、腰部、臀部や四肢にも出現する。かゆみを伴うことも多いが、このような症状は、EGFR阻害薬投与中という観念をなくして考えると、細菌性毛包炎と診断する医師が多いのではないかと述べた。

細菌培養を行うと黄色ブドウ球菌が3+や4+で検出される。ここで藤山氏は、後期毛包炎51例で細菌培養を検査した結果を提示し、92%の症例でブドウ球菌(84%は黄色ブドウ球菌)が検出されたことを報告。陰性は1例のみであったことからも、やはり後期に出現するものは、細菌性毛包炎であると考えたほうが治療を行ううえでもよいだろうと述べた。先述したLichtenberger BM氏らの研究でも、EGFR阻害により、細胞の接合に関わるオクルディンやクローディンといった分子の発現が低下しバリア機能が低下することと、表皮の細胞が産生する抗菌物質が減少することにより、黄色ブドウ球菌が増殖し、表在性の細菌性毛包炎が起こると言及されている。

藤山氏は、ざ瘡様皮疹と後期毛包炎の違いを以下のようにまとめた。


藤山氏講演資料より作成

後期毛包炎は表層性の感染症であるためほとんどの場合、外用の抗菌薬治療で軽快することが多い。最近では過酸化ベンゾイルゲルが長く続く抗EGFR抗体製剤によるざ瘡様皮疹に有効だという報告もあり、後期毛包炎治療の新しい選択肢になるかもしれないとの見解を示した。

なお、全身性や深在性の感染症を伴っているケースでは抗菌薬の全身投与が必要だ。その場合は、EGFR阻害薬を1週間程度休薬させ、その間第一世代セフェムの内服薬を投与し、軽快後にEGFR阻害薬を再開する。

次に藤山氏は、2018年までに治療した57例での分析データを提示した。このデータから、ステロイド外用の併用が軽快までの期間を延長することが分かり、毛包炎の治療をする際にはステロイドの外用を中止し抗菌薬に切り替えることが大切だと述べた。

またミノサイクリンについても長期投与は避けるべきであるとし、その理由として、後期毛包炎から検出された黄色ブドウ球菌の42%でミノサイクリン耐性があったことを挙げた。


藤山氏講演資料より作成(出典:Tohyama M, et al. J Dermatol 2020; 47:121-127

爪囲炎治療のポイント

次に藤山氏は、EGFR阻害薬による皮膚障害のうち爪囲炎治療のポイントに話題を移した。

爪囲炎は手足ともに生じ、強い痛みを伴うことから患者のQOLを低下させ、治療に難渋することも多い。

治療アルゴリズムによる基本的な治療方法は、洗浄に加えて、ステロイドと抗生剤を処方することだ。悪化がみられる場合には外科的処置を検討するが、重症化を待たず中等症の段階で処置したほうがよい場合もあるという。爪囲炎の肉芽にはチモロール外用が有効だとする報告も出ている。

ここで藤山氏は爪囲炎治療で気をつけている点について「炎症がある部位によって治療方針を変えることが大切だと考えている」と述べ、具体的な内容について解説した。

まず爪の角に炎症が起きている場合には、爪が陥入して大きな傷を作っていることがある。こうしたケースでは細菌感染を起こしやすいため、スパイラルテープ法によって陥入を緩和し、外用ステロイドを中止して抗菌薬治療を行う。陥入の緩和が見られない場合は切除を検討する。

次に爪郭部周囲に炎症が起きている場合だ。この場合には微細な傷から炎症を起こしていると考え、外用ステロイドを中止し、第一世代セフェムやミノサイクリンなどを使って感染症の治療を行うとともに、ナジフロキサシンなど外用抗菌薬を使用する。

また爪囲炎では真菌感染が生じる可能性も考えておく必要がある。藤山氏は具体例として、外用ステロイドや抗菌薬で改善がみられず、外用抗真菌薬に切り替えたことで軽快した症例を紹介した。

乾燥性皮膚炎治療のポイント

最後にEGFR阻害薬による乾燥性皮膚炎について解説した。EGFR阻害薬による乾燥性皮膚炎でも通常の乾燥性皮膚炎と同様、保湿剤の使用と日常生活の指導を行い、炎症が強ければ外用ステロイドを処方するという方法で治療を進めていく。

ただしEGFR阻害薬による乾燥性皮膚炎では、角化異常のような硬く分厚い鱗屑が発生し、亀裂を起こすこともある。これらの症状について藤山氏は、亜鉛欠乏との関連を疑っていると述べた。

亜鉛欠乏は皮膚炎を増強する原因となり得ることや、がん治療患者には亜鉛欠乏症が多いことは以前から知られている。藤山氏がEGFR阻害薬による乾燥性皮膚炎に対して亜鉛欠乏があるか調べたところ、調査した25例全例で亜鉛欠乏がみられ、うち16例が60μg未満であったという。亜鉛補充による乾燥性皮膚炎の軽快もみられていることから、血清亜鉛値を測定する価値はあるだろう。

最後に興味深い点として、血清亜鉛値と血清マグネシウム値に相関がみられたことを挙げた。EGFR阻害薬はマグネシウムの吸収に関わるTRPM6を減少させるため、血清マグネシウム値を低下させることがある。血清マグネシウム値は、栄養の指標である血清アルブミン値と相関を示すため、亜鉛が血清アルブミンに似たメカニズムを持つ可能性もあるとした。

講演のまとめ

藤山氏はEGFR阻害薬による皮膚障害に対する診療のヒントとして、以下のようにまとめた。

・ざ瘡様皮疹

     ・治療開始後1か月以降は細菌性毛包炎と考える

・爪囲炎

     ・炎症部位によって治療方針を分けて考える

     ・治りにくいときには細菌感染症や真菌感染症の関与を疑う

      ・ステロイド外用薬を中止する

・乾燥性皮膚炎

      ・重症の皮膚炎を伴うときには亜鉛欠乏を疑い、合併があれば亜鉛の補充を検討する

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