2022年09月14日掲載
医師・歯科医師限定

【第109回日本泌尿器科学会レポート】オリゴ転移前立腺がんに対する治療――臨床試験データから考える現状とこれから(3300字)

2022年09月14日掲載
医師・歯科医師限定

藤沢市民病院 泌尿器科 専門医長/横浜市立大学 客員教授/横浜市立大学附属市民総合医療センター泌尿器・腎移植科 非常勤診療医

三好 康秀先生

現在、前立腺がんにおけるオリゴ転移に関する研究は数多く行われているものの、いまだ発表された第III相試験は存在せず、治療方針も明確になっていない。横浜市立大学附属市民総合医療センター 准教授 三好 康秀氏(2022年4月より藤沢市民病院 泌尿器科 専門医長)は、第109回日本泌尿器科学会総会(2021年12月7日~10日)におけるシンポジウムの中で、オリゴ転移を伴う転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC)について講演を行った。

前立腺がんの診断方法

オリゴ転移(オリゴメタスタシス)の定義はさまざまだが、CHAARTED試験でLow-Volumeに分類される転移数は4つ未満であることから、今回はオリゴ転移=4つ未満の少数転移と定義して話を展開する。

前立腺がんでは、診断方法の選択が非常に重要だ。その根拠として1例を紹介したい。以下に示す症例では、99mTc-リン酸化合物投与後骨シンチグラフィ検査(以下、骨シンチ)を行い、骨に2つのオリゴ転移が確認された。このような症例には転移指向性治療(MDT)を行うことも治療選択肢の1つであるが、PSMA-PET検査によってMDT治療非適応例であることが判明したのである。このように、前立腺がんにおいては慎重な検査が必要だ。

三好氏講演資料(提供:三好氏)

解決策としては、PSMA-PET検査を含む次世代イメージング(NGI)とよばれる新たな画像解析法がある。

全身拡散強調画像(DWIBS)検査も有用性が高い。たとえば、下記の画像のようにCT画像で確認してもまったく異常はみられないが、DWIBS検査でははっきりと病変を確認できる。PSMA-PET、Choline-PET、NaF-PETといったNGIの承認がおりていない現状においては、DWIBS検査は非常に有用性が高い検査方法だ。

三好氏講演資料(提供:三好氏)

オリゴ転移前立腺がん 現在の治療法――エビデンスの“ある”話

オリゴ転移を伴うmCSPCの治療ゴールは緩和ケアと全生存期間(OS)の改善であり、現状OS延長効果が認められている治療法は、全身療法と前立腺局所への放射線治療のみである。

実際NCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドラインでは、Low-Volume症例を含むmCSPCに対する治療法について以下のとおり記されている。


  • アンドロゲン除去療法(ADT)+アビラテロン(ABI)
  • ADT+アパルタミド(APA)
  • ADT+ドセタキセル(DOC)
  • ADT+エンザルタミド(ENZ)
  • ADT+前立腺局所への放射線外照射(EBRT)


しかしながら、いずれも考慮すべき点が存在するため注意が必要だ。

まずDOCについて、STAMPEDE試験のサブ解析ではLow-Volume例におけるOS改善効果が認められるものの、CHAARTED試験サブ解析ではLow-Volume例におけるOS改善効果は認められていない。ABIに関しては、LATITUDE試験の日本人サブグループ解析結果に基づき、高リスク患者のみを本邦での適応としている。また、前立腺局所への放射線療法の照射スケジュールは、STAMPEDE試験の結果を根拠として、1週間に1度の照射(36Gy/6回/6週)もしくは連日照射(55Gy/20回/4週)とされている。これは照射量が1回2Gy、合計65~72Gyに相当する。

我々は過去に実臨床で骨転移のあるLow-Volume症例を治療する際、ADT単独療法やCAB療法を用いてきた。これらの予後は実際どうなのだろうか。我々の研究グループによるデータを紹介する。前立腺がんで骨転移がみられるCAB療法例のうち、32%にあたる187例がLow-Volumeに該当した。Low-Volume群でのOS中央値は98か月であったが、年齢の中央値が72歳であることを考慮すると比較的良好な結果といえるだろう。これを踏まえて、オリゴ転移を伴うLow-Volume症例では、ADT耐性の発現を遅らせることによるQOL改善や、治癒を目指してもよいのではないかと考えている。

三好氏講演資料(提供:三好氏)

オリゴ転移前立腺がん これからの治療――エビデンスの“ない”話

オリゴ転移を伴うmCSPC治療は、MDT、局所治療、全身治療を組み合わせながらQOL改善と治癒を目指す方向へ変化していくだろう。転移巣には体幹部定位放射線治療(SBRT)や手術、原発巣には放射線治療や腫瘍量減量前立腺全摘除術(cytoreductive radical prostatectomy)がそれぞれ有効であると報告されている。全身治療としてはADT単独療法やADT+αの併用療法が一般的だが、ADTの治療導入を遅らせるため治療戦略が検討されているので紹介する。

Recurrentオリゴ転移前立腺がん治療

STOMP試験

ここで第II相試験を2つ紹介する。1つは、根治治療後N1(所属リンパ節転移)やM1c(リンパ節、骨以外の転移)がみられた患者を対象としたSTOMP試験だ。なお、本試験には肺転移患者も含まれている。62例をAS(active surveillance)群とMDT群に1:1で振り分けた。転移巣の診断にはCholine-PETを用いており、3つ以下の骨・リンパ節転移のある患者が含まれている。MDT治療の内訳は、25例がSBRTによる寡分割照射(30Gy/3回)、5例は骨盤リンパ節摘出術、1例は肺転移切除である。追跡期間は3年間で、主要評価項目はADT導入までの期間(ADT-free survival)と設定された。

ADT-free survival の結果は、MDT群が中央値で21か月、AS群が13か月であり、ハザード比は0.60と40%のリスク減少が認められた。本試験は、MDT治療によるADT-free survival改善効果が認められた初めての第II相試験であり、現在は第III相試験が行われている。

さらに追跡期間を3年から5年に延長した際の試験結果が米国臨床腫瘍学会泌尿器癌シンポジウム2020(ASCO-GU 2020)で発表された。5年経過時点でのADT療法未導入率は、MDT群で34%、AS群で8%、ハザード比は0.57と報告されている。追跡期間が長期になればなるほど、MDT治療によるADT-free survival改善効果が期待できると考えてよいだろう。なお、CTCでグレード2(中等度)以上と分類される有害事象がみられなかったことにも注目したい。

ORIOLE試験

もう1つ、根治療法後にN1〜M1bの再発が確認された54例を対象に行ったORIOLE試験を紹介する。登録患者は、2:1の割合でMDT群と経過観察(Observation)群に振り分けられた。本試験の診断方法には、Conventional Imagingを用いており、3つ以下の骨・リンパ節転移が認められた患者が含まれている。

MDT群では全例にSABRが行われ、19.5~48.0Gyを3~5回に分けて照射している。追跡期間は18.8か月であり、主要評価項目は6か月以内の病勢進行と設定された。結果として、MDT群では経過観察群に対して70%のリスク減少が認められ、グレード3(重症/高度)以上の有害事象はみられなかった。

本試験には2つの注目点がある。1つは、SABRによるT細胞分の拡大が示されたことだ。SABRによるMDTは、免疫応答を亢進させている可能性がある。さらにもう1つは、TP53、ATM、BRCA1・2、RB1といった生殖細胞遺伝子変異が確認されない症例ではSABR後の進行を認めていないことである。今後MDT治療効果の事前予測が可能になるかもしれない。

de novoオリゴ転移前立腺がん治療

de novoのオリゴ転移症例を対象としたデータは非常に少ない。そのようななか、貴重な資料の1つとして北里大学 津村 秀康氏の後ろ向き研究を紹介する。

本試験では、Conventional Imagingで5つ以下の骨もしくはリンパ節転移が認められた40例が登録された。原発巣に対して、高線量率小線源療法(HDR)と放射線外照射療法(EBRT)、新規ホルモン療法(NHT)、アジュバントホルモン療法(AHT)に加えてMDTを行った18例と、行わなかった22例を比較している。骨に対する照射量は、15~25回で合計30~50Gy、骨盤内のリンパ節に対しては全骨盤照射40Gyに加えて10Gyを追加照射した。結果として、評価項目であるCRPCに移行するまでの期間(CRPC-free survival)は、有意差をもってMDT治療群で良好であることが示された。

オリゴ転移症例を対象とした前立腺全摘除術に関しては、現在非常に多くの臨床試験が実施されている。2020年には、無増悪生存期間(PFS)を評価項目とした第II相試験が終了した。さらに1,200例を対象としてOSを検証するSWOG1802や、がん特異的生存率(Cancer-specific survival: CSS)を評価するG-RAMPPなどが進行中である。しかしながら現時点で発表されている第III相試験は存在せず、患者選択や検査方法、治療方法に至るまで、統一された判断基準がないことが課題だろう。

講演のまとめ

  • 生存期間延長効果が認められている治療法は、ADT+ARTA、ADT+DOC、ADT+EBRTのみである
  • 2つの第II相試験(STOMP試験、ORIOLE試験)では、MDTによる予後改善効果が示されている
  • de novo例では、HDR+EBRT+HTにMDTを追加することによる予後改善効果が後ろ向き試験の結果、示された
  • 前立腺全摘除術の有用性に関してはデータを待つのみである

会員登録をすると、
記事全文が読めるページに遷移できます。

会員登録して全文を読む

医師について

新着記事