2022年09月13日掲載
医師・歯科医師限定

【第19回日本臨床腫瘍学会レポート】COVID-19が肺がん診療に及ぼした影響――日本肺癌学会、日本対がん協会の調査報告をもとに(2000字)

2022年09月13日掲載
医師・歯科医師限定

大分大学医学部 呼吸器・乳腺外科学講座 教授

杉尾 賢二先生

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、現在も変異によって感染力を維持しており、がん診療にも深刻な影響をもたらしている。今回杉尾 賢二氏(大分大学医学部呼吸器・乳腺外科学講座 教授)は第19回日本臨床腫瘍学会学術集会(2月17日~19日)における合同シンポジウムの中で「COVID-19が肺がん診療に及ぼした影響」と題し、講演を行った。

日本肺癌学会の調査報告

調査時期と対象施設

2021年に日本肺癌学会では、COVID-19が肺がん診療に及ぼした影響に関する調査を行っている。治療法ごとの新規治療患者数についてCOVID-19流行前である2019年1~10月と、2020年1月~10月(第1波・第2波にあたる時期)を比較している。

本調査を行うにあたり、我々は国内490施設に調査を依頼した。そのうち回答施設数は124施設(回収率 25.3%)、最終的な解析施設数は118 施設(6 施設はデータ不十分のため除外)であった。 

118施設の内訳は、大学病院が43施設(36.4%)、がん専門病院が10施設(8.5%)、国立病院が11施設(9.3%)、公立病院が22施設(18.6%)、その他が32施設(27.1%)である。COVID-19陽性者の受け入れ数については、受け入れていない施設が23施設、50人以下が52施設、51~100人が18施設、101人以上が25施設であった。国公立病院は感染症指定病院に認定されている施設が多く、COVID-19陽性者の受け入れ数も若干多い傾向がみられている。

調査結果――化学療法への多大な影響

結果を提示する。通常体制であった2019年と、COVID-19蔓延後の2020年とを比較すると、手術治療単独は5.4%減、手術治療+周術期治療は11%減、手術治療全体では6%減となっていた。続いて放射線治療は、化学放射線治療が3.9%減、放射線治療単独が3.6%減であったが、ほかの治療法と比べると影響が少ない結果となっている。

一方、もっとも大きな影響がみられた治療法は化学療法単独(殺細胞抗がん剤)の20.7%減だ。さらに、同じく薬物治療に分類される分子標的治療は9.2%減、免疫治療単独も8.8%減と減少傾向にあるなか、免疫治療+化学療法は10.5%の増加が確認された。これは、2020年にガイドラインが改訂され、免疫治療+化学療法が肺がんに対する標準治療と認定されたことによるものだと考えられる。新規治療患者数全体では、6.62%の減少となっている。

杉尾氏講演資料(提供:杉尾氏)

全国がん登録のデータでは、毎年約13万人が肺がんの診断・治療を受けていると報告されていることから、6.62%は約8,600人に該当する。つまり2020年には、国内約8,600人の方が、肺がんの診断と治療の機会が失われたと推定される。

また病院別では、COVID-19陽性者の受け入れ数が多い施設や、感染症指定病院が多く含まれる公立病院での肺がん治療減少率が高い結果となっている。

追加調査から見えてきたこと

上述の解析結果は、1~10月を対象期間としているが、実際に本邦でCOVID-19感染拡大の影響がみられたのは、4月以降とされている。実際に月別解析でも、前年に比べて治療患者数の減少がみられ始めたのは2020年4月以降であった。そこで我々は、対象期間を4月~翌年3月に改めた追加調査を行った。調査依頼を行った時期がCOVID-19の第5波と重なったこともあり、27施設のみのデータではあるものの、2019年度と比べて2020年度の新規治療患者数は907件(14.0%)減となっている。先程提示した1~10月における6.62%減と比較しても、その影響がより大きくなっていることは明白だ。

治療法別では、1~10月のデータと同様に、放射線治療の減少幅がもっとも小さく、化学療法単独がもっとも大きい結果となった。一方、初回調査で10.5%の増加がみられた免疫治療+化学療法は、9.6%の減少傾向となっている。病院別では、COVID-19陽性者の受け入れ数が多い施設や国公立病院で大幅な減少がみられている。

さらにステージ別解析では、比較的早期であるIA期は15%減、IB期が8.0%減、II期が5.9%減、III期が10.8%減、IV期が13.7%減であった。無症状であるIA期の減少幅がもっとも大きく、これは健康診断やがん検診を控えた患者が多かったことが影響していると考えられる。

日本対がん協会の報告

日本対がん協会による報告では、2019年~2020年にかけて30.5%のがん検診減少が確認されており、特に4~7月の減少幅が大きかったことが示されている。さらに1~6月の検診数を比べると、2019年と比べて2020年は62.8%の減少、2021年も、2019年と比べて17.4%の減少となっている。このことから、がんの診断を受ける機会が減少し、治療を受けられていない患者が増加していることが危惧される。

講演のまとめ

  • COVID-19感染拡大による肺がん治療への影響は明白である
  • コロナ禍での検診控えによっていまだ診断を受けていない肺がん患者が増加しており、今後、進行がんの割合が増加することが危惧される。

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