2021年09月02日掲載
医師・歯科医師限定

80年の歴史回顧し未来を展望――日本癌学会学術総会9月末から横浜で

2021年09月02日掲載
医師・歯科医師限定

慶應義塾大学医学部 先端医科学研究所 遺伝子制御研究部門 教授

佐谷 秀行先生

佐谷秀行・学術会長が語るテーマ、見所

日本癌学会は2021年9月30日~10月2日、横浜市のパシフィコ横浜を会場に第80回学術総会を開催します(オンライン併用ハイブリッド開催)。「80年を超え、がん撲滅の願いを未来へ」をテーマに、がん研究の“レジェンド”やiPS細胞でノーベル賞を受賞した山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所長の特別講演などを通じて歴史を振り返り、将来を展望します。また、若手研究者のポスター発表に賞を設けて賞金を授与するなど、若手育成の場になることも期待されます。見どころや今回の総会にかける思いなどについて、学術会長の佐谷秀行先生(慶應義塾大学医学部先端医科学研究所教授)に伺いました。

“巨人たち”が築いた80年の偉業を回顧

今回は80回という記念の学会になります。がんの研究は、誰かがある発見をし、それに関して多くの研究者が検証を繰り返す、そして新たな発見がそれに加わる……というように「大きな瓶に1滴ずつ水をためていく」作業の積み重ねで今があるのです。日本ではその“1滴ずつ”の作業が80年にわたって連綿と続けられ、これまでがん研究に携わってきた多くの先生方の努力の結果が、いま大きな成果を生んでいるのだと思います。

そうした研究のおかげで治療成績が向上し、今は約60%の患者さんが、がんになっても5~10年生きることができるようになっています。ただ、裏を返せば約40%のがんは治療が完全にできず、再発したり命を落としたりする患者さんがいらっしゃいます。それをどうするかが、次の課題になります。

80年というがん研究の歴史、先人たちのやってきたことをきちんとレビューするのが、今回の学会の大きなテーマです。

学会のポスターに「Standing on the shoulders of Giants(巨人の肩に立つ)」というアイザック・ニュートンの言葉が書かれています。「巨人」はすなわち先人。その肩の上に若い人たちが立って新たな未来を見ていく、新たな1滴を瓶に加えるというイメージを表現しました。

若手支援にクラファンも

歴史のレビューという大きなテーマに加えて今回は、

・若手の参加

・異分野との協働

の2つにも力を入れています。

若手の参加に関しては、少子化の影響もあって研究に入ってくる若い人が減っています。若手の学会参加を促すとともに研究を支援するため、ポスター発表に賞を設けるなどしました。賞金に充てるための資金をクラウドファンディングで募ったところ、500人以上の方から目標の300万円を大きく上回る約730万円が寄せられました。がん研究に期待し、若い研究者の苦労に報いたいと思われる方が多くいてくれるのだと、ありがたく思います。

異分野との協働は、これからのがん克服研究に欠かせないものです。革新的な診断や治療法の開発には、医学者だけでなく、分子生物学、遺伝子工学、AIや画像技術に関する電子工学など新しい知識、新しい技術が必須です。

歴史レビューと併せて3つのテーマに沿ってプログラムを組んでいます。これまでのがんの研究がどう行われてきたかを顧み、がんの新たな研究・治療がどのように発展していくかを立体的に知っていただきたいと思っています。専門家にとってはより先端的な知識や技術を身につけられ、初学者や異分野の方にはがんというものを明解に理解したいただける学会にすべく、準備を進めています。

「iPS細胞とがん研究」山中伸弥先生の特別講演も

そのようなテーマに基づきさまざまなプログラムを用意しています。中でも特に注目のセッションをいくつかご紹介します。

iPS細胞の研究でノーベル医学生理学賞を2012年に受賞した山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所長の特別講演▽がん研究の“レジェンド”といわれるロバート・ワインバーグ、ダグラス・ハナハン両先生によるビデオ講演▽がん研究の入門コース▽日本癌学会と米国癌学会(AACR)のジョイントシンポジウム――これらはぜひ、多くの方にご参加いただきたいものです。

このうち山中先生の講演は、先ほど述べた異分野との協働の中でも大変重要な「再生医療をがん研究にどう取り入れていくか」に関わります。

再生医療のがんへの応用には、現段階で2つのことが考えられます。1つはがん細胞という非常に多面的な能力を持った細胞を理解するために、同じように多能性を持ったiPS細胞の知識は極めて重要ということです。もう1つは、がんの一因に免疫細胞の老化があることに関わります。iPS細胞は老化した細胞を初期化する=若返らせることができるところにポイントがあります。たとえば、免疫細胞をiPS化することによって、衰えた免疫機能を“新品”に転換しようということがすでに行われています。

最初にiPS細胞が作られた時には誰も考えなかったようなアイデアが、今はどんどん出てきているということを、山中先生の講演を通じてがん研究者にも知ってもらいたいと思っています。

ワインバーグ、ハナハン両先生による「Hallmarks of Cancer」は、がんの研究者であれば知らない人はほとんどいないという有名な教科書です。私たちの年代の研究者は、皆この教科書で勉強をしました。その2人がいま、がんに対してどのような考えを持っているかを語っていただきます。今回のテーマの1つである歴史の振り返りとがん研究の将来展望について、非常にインパクトのあるプログラムだと考えています。

がん研究の入門コースは、これまでも毎年行い、非常に評判がよいセッションです。長年がん研究に携わってきたベテランの先生方、そして新しい分野で活躍している新進気鋭の研究者にお話しいただき、がんのことを知らない人でもこのコースを3日間通しで聞けば、がんのことがほぼ分かるようになるというものを企画しています。

AACRとのジョイントシンポジウムは、日本とアメリカから今一番トレンディーな研究者が登壇し、がん研究のもっともホットな話題について発表していただくというセッションです。

がんワクチンはRNAで開発へ

一般の方向けの市民公開講座の中に、「メッセンジャーRNAワクチン~新型コロナウイルスからがん治療へ」という演題があります。新型コロナワクチンのうち、国内で主に使われているmRNAワクチンは、実はがん研究から生まれたものです。ファイザー/ビオンテック、モデルナとも、がんのワクチンを目指して長い間開発を行ってきました。その技術を今回、使用したということです。

がんのワクチンは、これからRNAで開発されることになるでしょう。これまでは安全性の確認などの問題もあり、なかなか前に進みませんでした。ところが新型コロナで使わざるを得なくなりました。副反応などがあるにせよ、有効性が明確になりましたので、おそらく今後、がんのワクチンとして生まれ変わってくるのではないかと思ってます。

また、若い世代で「がん」というキーワードに興味を持ってくれる方々にも参加していただけるよう、大学の学部学生や高校生は登録料を無料にしました。がん研究の次の50年を支えてくれる人たちを、ここから育てたいと考えています。いわゆる“青田買い”です。

専門家、初学者、異分野研究者それぞれに見どころ

私は24歳で医学部を卒業してすぐに脳外科医になり、そこで脳腫瘍に出合ってからほぼ40年間、がん研究に携わってきました。80年の癌学会の歴史の半分は、自分自身が目撃者として研究発展の過程をリアルタイムで見て、経験してきたことになります。これまでのがんの研究がどう行われて来たかを顧みることで、新たながん研究や治療がどうなっていくか、立体的に知っていただける学会にしたいと思っています。

国民の2~3人に1人ががんになるといわれ、非常に重い責任があると同時に、がん研究は科学という意味でも非常にエキサイティングな領域です。

専門家にとってはより先端的な知識や技術を身につけられる、初学者や異分野の方には、がんというものを明解に理解していただけることを期待しています。そして、この学会に参加したことをきっかけにがんの研究者になり、将来“次の世代の若手”を育てることになる若い方が何人か出てくれることを望んでいます。

*プログラムの詳細や参加登録は学術総会のウェブサイトをご参照ください。

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