2023年01月04日掲載
医師・歯科医師限定

【第84回日本血液学会レポート】挙児希望のある慢性骨髄性白血病(CML)患者の治療(4100字)

2023年01月04日掲載
医師・歯科医師限定

医療法人 菊郷会 愛育病院 血液内科・血液病センター 血液病センター長

近藤 健先生

慢性骨髄性白血病(CML)は若年者での発症も多い疾患であることから、治療にあたっては妊娠への影響を十分に考慮する必要がある。第84回日本血液学会学術集会(2022年10月14日〜16日)において、愛育病院 血液内科・血液病センター 血液病センター長の近藤 健氏は、主にチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)によるCML治療が妊娠や胎児に与える影響について、過去のエビデンスに基づき講演を行った。

妊娠時期によって異なるTKI投与リスク

CML治療で用いられるTKIは本来の標的だけでなく別の分子(off-target)にも作用する。これにより、妊孕性の問題、早産、死産、胎児の奇形や発達遅延などを引き起こすリスクが報告されている。

妊娠16週までは胎児の奇形発生リスクが高い

妊娠に対するTKIの影響は妊娠週数によって異なる(下図)。妊娠3週未満では、TKI投与により胎芽へダメージが加わっても「all-or-none(全か無か)の法則」で、修復不能な場合には流産となり、生存できた場合には胎児へ影響は生じない。

奇形を生じるリスクがもっとも高いのが妊娠3週~13週未満の器官形成期であり、奇形の発生率に関する複数の報告がある。また、胎盤が形成される妊娠13~16週頃も、胎児への薬剤移行が懸念されるためTKI投与は避ける必要がある。

近藤氏講演資料(提供:近藤氏)

妊娠16週以降も薬剤移行のリスクが高いダサチニブ

妊娠16週以降におけるTKI使用の安全性は示唆されているものの、ダサチニブでは2例中1例に奇形が生じたとの報告がある。イマチニブやニロチニブによる奇形は現在のところ報告されていない。

薬剤別に胎児/母体比のTKI濃度を見てみると、イマチニブが0.115%であったのに対し、ダサチニブでは0.75%とTKI移行率が高いことが分かる。ニロチニブについてはイマチニブとダサチニブの中間の移行率だとされている。

なお添付文書上、妊婦へのTKI投与は禁忌とされている。ただし、近年登場したアシミニブは、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与との記載がある。今後、アシミニブ投与中の患者が妊娠した場合に備えてエビデンスの蓄積が求められる。またTKIは母乳移行することから、出産後の授乳は控えなければならない。なお、男性CML患者では、TKIを投与しても奇形発生率は上昇しないと報告されている。

TKIを投与できない患者にはIFNαを用いるのが一般的だ。CMLに対する劇的な効果は認められないものの、妊娠初期から後期まで使用可能であり、奇形や流産、死産が増加するリスクはないと報告されている。

妊娠中のCML発症に対する治療方針

妊婦がCMLを発症した場合、まずは妊娠を継続するか否かを決める必要がある。その際、本人の希望や妊娠週数、CMLのリスク評価、合併症の有無などに基づき、産婦人科医と連携して方針を決定していく。

近藤氏講演資料(提供:近藤氏)

妊娠中のCML発症に対する治療法としては、IFNαやPEG-IFNを用いたとする報告が多い。血球コントロールが難しい症例に対しては妊娠後期にTKIを併用したケースもある。また、治療介入の遅れにより急性転化したとの報告もあるため、安易に妊娠継続の判断を行うことは、時に大きな落とし穴になりかねないことを知っておく必要があるだろう。

本邦のリアルワールドデータ(挙児希望のある慢性骨髄性白血病患者の治療実態調査)では、妊娠中にCMLを発症した9例のうち2例が人工妊娠中絶を選択したことが分かっている。そのほか無治療が3例、イマチニブ投与が2例、IFNα投与が2例であり、いずれの出産においても異常はみられていない。

CML発症時は卵子保存の提案を

若年のCML患者をみた場合、パートナーがいる女性には受精卵保存を、未婚の女性には未受精卵保存を提案することが重要だ。

CMLではTFR(無治療寛解)が1つの治療目標となり、TFRを維持するための基準の1つとして5年以上のTKI治療が挙げられている。しかし、仮に30歳で治療を開始した場合、5年後には卵子の質の低下により妊娠確率が低下してしまう。現在、日本における第一子出産時の母親の平均年齢は30.9歳である。挙児希望がある患者に対しては年齢が若いうちに何らかの対応を取る必要があるだろう。

先述した本邦のリアルワールドデータでは、CML発症年齢ごとに卵子保存の件数が示されている。20~24歳では受精卵保存が4例(15例中)、25~29歳では受精卵保存が2例(24例中)、30~34歳では受精卵保存が3例、未受精卵保存が1例(11例中)、35歳以上ではいずれも0例(2例中)であった。なお、生殖補助療法(ART)での妊娠は13例あり、全て30歳以上の出産例であった。妊娠可能女性のCML診断時にはARTも視野に入れてインフォームドコンセントを行うことがポイントだ。

TKI治療中の計画外妊娠/計画的妊娠

計画外妊娠への対応

TKI治療中に計画外の妊娠が判明した場合、まずは胎児の状態や合併症の有無、妊娠継続に関する本人の希望などを確認する必要がある。

胎盤が形成されるまでの妊娠初期の場合はTKIを中断する。その際、TFR基準を満たせばTFRを試みるべきであるが、TFR基準外であれば治療の反応性などをみてTFRとしてよいか、あるいはINFα治療を行うかなど適宜判断していく。またその後、MMR(分子遺伝学的大奏効)喪失や病状増悪を認める場合は治療介入の検討が必要だろう。

計画的妊娠への対応

一方、TKI治療中に妊娠を望む場合、一度TKIを中断したうえで妊娠を試みるのか、IFNαに切り替えてから妊娠を試みるのかなど、患者の治療経過によって方針は大きく異なる。妊娠成立前に再発した場合にはTKIの再導入が必要となり、妊娠経過中に増悪した場合には、妊娠週数に合わせて無治療の可能性も含め治療方針を判断することになる。

2022年の『臨床血液』誌では、ダサチニブ中止後のTFRで出産した症例が報告された。当然全ての患者でTFRが可能になるわけではないため、TFRを目指しながら、それ以外の選択肢も考えておかなければならない。

妊娠中のみTKIを中断する「Treatment-Free Pregnancy(TFP)」という考えもある。TFPについては複数報告があり、16例中全例でMMR喪失(TFR 0%)17例中10例でMMR喪失(TFR 37.5%)24例中9例でMMR喪失(TFR 52.6%)といった報告がある。3つ目の報告のTFR率は、人工妊娠中絶を含めた流産を除き妊娠継続した症例の結果だ。ただしこれらの結果だけで、どのような場合にTFRやTFPが可能となるのかについては判断が難しいだろう。

また、TKI治療からIFNα治療への切り替えで出産に至った症例に関する複数の報告を見ると、効果喪失を生じた/生じなかった症例がちょうど半数ずつと、五分五分の結果であった。

リアルワールドデータからみる計画的/計画外妊娠

本邦のリアルワールドデータによると、36例の計画的妊娠のうち出生に至ったのは27例であった。27例の治療の内訳は、IFNα12例、TKI中断が15例である。IFNαの治療中央期間は128か月と非常に長く、有効率は92%であった(増悪なしを有効とした場合)。対して、TKIを中断した15例のTFR率は67%だった。ただし、これには本来TFR基準を満たさない症例を含んでおり、DMR例に限定すると83%と示されている。

一方、計画外妊娠は25例であり、8例が人工妊娠中絶を選択、14例が出生に至っている。出生例のうち、ダサチニブからIFNαに切り替えた症例が2例、TKIを中断した症例が12例だ。IFNαの治療中央期間は60か月で、有効率は50%だった(2例中1例が増悪)。対してTKI中断の12例のTFR率は67%であり、DMR例では86%だった。治療期間が長ければ高いTFR率が得られる可能性がある点は、希望が持てる状況だと考えられる。

治療反応性が乏しい患者は病状進行リスクに注意

妊娠期間中に治療を中断する場合、そのリスクについて十分に念頭に置く必要がある。妊娠中のCML発症に対してIFNα治療を実施し、出産後早期に急性転化を起こした2症例に関する報告がある。それぞれ、出産後にヒドロキシウレアとダサチニブを投与しており、ダサチニブを投与した症例についてはT315I変異を認め、妊娠期間中に耐性を獲得していたと考えられた。

そのほか、CML治療中に妊娠が判明した2症例に関する報告もある。1例はダサチニブを約5年、もう1例はイマチニブを約4か月投与していたが、いずれの症例も治療反応性が不良であった。出産後にTKI治療を再開したものの無効であった。治療抵抗性の患者に妊娠を許可するのは、非常に高いリスクを伴う可能性があるのだ。

本邦のリアルワールドデータでも病状進行を認めた3症例の報告がある。1例は詳細不明であるが、2例はCML治療中の妊娠である。1例については、妊娠期間中は無治療として出産後にTKI治療を行ったが約1年後に急性転化している。もう1例は人工妊娠中絶を選択してTKI治療を再開したが210か月後に急性転化に至った。いずれの症例も妊娠判明前にTKI治療を実施していたが治療反応性は乏しく、やはり治療反応性が不十分な患者では病状進行のリスクが高いことが示唆される。

講演のまとめ

  • 妊娠可能なCML患者には、TKI治療導入時にCMLの病態と治療が妊娠に与える影響を十分に説明し、卵子保存の提示と治療中の避妊を指導する
  • 妊娠中のCML発症では妊娠継続の妥当性を評価し、治療介入の適否を検討する
  • IFNαは妊娠の全経過中に投与できるが速効性は期待できない
  • TKI投与中の計画外妊娠ではTKI投与を中断し、病状に応じた治療介入を検討する。特に妊娠4週以降~16週は胎児への影響が大きく禁忌である
  • 16週以降では、イマチニブとニロチニブは慎重投与可能と思われるが、ダサチニブは奇形発生の報告があり投与を回避する
  • CML患者の妊娠には、患者とのシェアードディシジョンメイキングおよび産科との緊密な連携が重要である

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