2022年11月28日掲載
医師・歯科医師限定

【第65回日本糖尿病学会レポート】糖尿病治療の進歩がもたらしたもの――スティグマ克服に向けた発信を(3000字)

2022年11月28日掲載
医師・歯科医師限定

神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学部門 准教授

廣田 勇士先生

近年、治療の進歩により糖尿病を持つ人の生活も大きく様変わりしている。その一方で、スティグマに根ざした社会的不利益があることも事実であり、その克服のためには、糖尿病治療の進歩がもたらした現状を発信していくことが重要だ。神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学部門 准教授である廣田 勇士氏は、第65回日本糖尿病学会年次学術集会(2022年5月12~14日)にて、「糖尿病治療の現状~糖尿病治療の進歩がもたらしたもの~」と題し講演を行った。

糖尿病治療の変化

はじめに、神戸大学医学部附属病院における1994年と2019年のデータを比較しながら、糖尿病治療の変化を検討してみたい。

入院患者の変化――療養支援・教育入院が増加、合併症治療は減少

年間の入院患者数は1994年の57人から、2019年には175人と著明に増加している。男女比、年齢、罹病期間、入院時HbA1cについては大きな変化はないが、1994年に23.1±4.8 kg/m2であったBMIは2019年には25.0±5.5 kg/m2と増加し、1994年に51.4±26.3日であった入院期間は、2019年には17.3±6.9日と大きく減少している。病型については、1994年に比べて2019年はIDDM(インスリン依存性糖尿病)が増加しているのも特徴だ。

目立った変化がみられるのが「入院目的」だ。1994年には、血糖コントロール入院が67%、療養支援・教育入院が12%だったのに対し、2019年は療養支援・教育入院目的が半数以上を占め、血糖コントロール入院は29%に減少した。また、インスリンポンプ療法などの先進デバイス導入目的入院の登場も新たな変化だろう。

さらに注目すべきは合併症関連の入院である。1994年と2019年を比べると、急性合併症(シックデイ、高血糖緊急症)が9%から5%に、慢性合併症(透析導入・管理、腎症関連)は13%から0%と明らかな変化がみられている。

廣田氏講演資料(提供:廣田氏)

糖尿病網膜症や腎症など、糖尿病合併症は大幅に減少

糖尿病合併症も25年間で大きく減少している。糖尿病網膜症に関しては、1994年は約30%に進行網膜症がみられたが、2019年には9%にまで減少。網膜症を合併していない患者は、1994年の37%から、2019年には71%まで増加している。また、糖尿病性腎症は1994年には3期以上が41%を占めていたが、2019年は13%に減少している。

低血糖が起こりにくく、臓器保護効果のある薬剤の登場

1994年はインスリン製剤が約50%、SU(スルホニル尿素)薬が約25%を占め、ビグアナイド薬はわずか数%しか用いられていなかった。対して2019年はインスリン製剤に次いで、ビグアナイド薬が約半数に使用されており、SU薬はほとんど使われなくなった。近年登場したDPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬といった低血糖の起こりにくい安全かつ有効な治療薬が多く用いられるようになってきている。特に臓器保護効果のあるSGLT2阻害薬やGPL-1受容体作動薬の登場は、近年の合併症減少に大きく寄与していると考えられるだろう。

インスリン治療の内訳については、1994年は混合型1日2回注射が約半数、basal-bolus(1日3回以上)が約14%、基礎(NPH)のみが10%であった。一方2019年は、basal-bolus(1日3回以上)が41%、インスリンポンプ療法が18%と変化している。混合型1日2回注射では個性的なインスリン分泌パターンが模倣できず血糖コントロールが困難だったが、basal-bolusやインスリンポンプ療法の台頭により、血糖コントロールが改善されてきた。

廣田氏講演資料(提供:廣田氏)

先進糖尿病デバイスの登場

血糖モニタリング技術は1986年に血糖自己測定(SMBG)が保険承認を得てからしばらく進歩がみられなかったが、2017年に間歇スキャン式持続血糖測定器(isCGM)、2019年に単体型リアルタイムCGMが保険承認され、近年進歩を遂げている。また、インスリンポンプの技術も発展しており、現在はCGMセンサーの情報によってインスリンポンプの注入量を自動で調整するClosed-loopシステムが登場している。

HbA1cの変化

日本における2型糖尿病患者のHbA1cを調査した研究を紹介する。患者をインスリン療法+内服療法、インスリン療法単独、非インスリン療法、薬剤なしの4群に分けてHbA1cの推移を2002〜2016年まで調査をしたところ、どの治療でもHbA1cの改善がみられた。さらにbasal-bolus、basal単独、bolus単独、混合型に分けて調査した結果について、いずれもHbA1cは改善していることからも、糖尿病治療の進歩による血糖管理状態の改善がうかがえる。

糖尿病患者における死因と平均余命の変化

次に、日本における糖尿病患者の死因の変化を見てみよう。日本糖尿病学会が10年ごとに実施しているアンケート調査によると、1971〜1980年に41.5%を占めていた血管障害による死亡は、2001〜2010年の調査では14.9%と激減している。その内訳を見ると、慢性腎不全による死亡は12.8%から3.5%、虚血性心疾患は12.3%から4.8%、脳血管障害は16.4%から6.6%と変化している。

また朝日生命成人病研究所附属医院の調査では、40歳時において糖尿病を持つ人の平均余命は一般人の平均余命と変わらない可能性が報告された。日本では、こうした研究はいまだ不足しており、さらに調査研究を進めていく必要があるだろう。

今後の展望

ここまで述べたように、糖尿病における治療の進歩、先進デバイスの登場、患者への治療支援の強化などにより血糖コントロール状態が改善し、合併症も著しく減少している。そうした状況で糖尿病患者の生活も大きく変化していることを、しっかり発信していくことが重要だ。糖尿病治療ガイドでは、治療の目標は「糖尿病のない人と変わらない寿命とQOL」とされている。これを実現させるためには、アドボカシー活動を通じてスティグマを解消していく必要があるだろう。

講演のまとめ

  • 近年、糖尿病治療の進歩により血糖管理状態が改善している
  • 糖尿病関連の合併症の発症および死亡も大きく減少している
  • 40歳時点における糖尿病患者の平均余命は一般人と変わらないことが報告されている
  • スティグマ解消のためには、糖尿病を取り巻く現状の変化を社会全体で認識することが重要である

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