2022年10月21日掲載
医師・歯科医師限定

【第94回日本胃癌学会レポート】若手医師が臨床系英文論文を書く際のポイント――自身の経験をもとに考察(3200字)

2022年10月21日掲載
医師・歯科医師限定

名古屋大学大学院医学系研究科 消化器外科学 講師

神田 光郎先生

英文論文の執筆は、自分のデータが世界に発信される喜びを得られる。しかし、若手医師にとってはややハードルが高いのもまた事実である。日常臨床に加えて英文論文の執筆に挑戦することには、どのような意義があるのだろうか。

名古屋大学大学院医学系研究科 消化器外科学 講師の神田 光郎氏は、第94回日本胃癌学会総会(2022年3月2~4日)の中で、若手医師に英文論文の執筆を推奨する理由について、自身の経験を踏まえて講演を行った。

臨床医が英文論文を書く意義

臨床医が英文論文を書く意義として、自分のキャリアパスを形成する武器になる、国際人として成長できる、日常診療を個人の経験からScienceに昇華できるなどが挙げられる。欧米では「Publish or Perish:書かねば認められぬ」という考えのもと、学生時代から教育が行われている。

多忙な若手医師が、診療レベルを鍛えながら英文論文も書くのは難しいのが現実ではあるが、それでも挑戦すべき理由は複数ある。たとえば、以下のような理由が挙げられる。

  1. 専門医や学位を取るのに必要である
  2. 英文論文に慣れる
  3. 診療で用いられているガイドラインの根拠や仕組みを理解する
  4. 競争的資金を得る
  5. 後輩を指導できるようになる

英文論文のテーマはどのように探すか――実例の紹介

英文論文を執筆するきっかけは、学会や日常診療に多く隠されている。学会では、演題を考える際に英文論文化まで視野に入れることや、ほかの医師の発表から興味をもった点について自分なりに考えることが重要だ。日常診療では、外科領域に多い慣例的な治療法を検証することもテーマになるだろう。実際に我々が行った研究の中で、日常診療での疑問をきっかけにしたテーマを紹介する。

CQ.1  周術期の輸血は予後に悪影響があるのか?

ステージII・IIIの胃がんで術中に輸血を行うと、予後は大幅に悪化することが示された。一方、術前に輸血をすることで、予後は比較的良好に保たれている。このように客観的なデータとして示すことで、術中に漫然と行われる輸血指示に対して適切な対応が可能となった。

CQ.2  胃切除後にドレーンアミラーゼ値を測る意義は?

ドレーンアミラーゼ値は一時的に高値でも、術後3日で数値が下がれば治療を要する膵液関連の合併症は基本的に起こらないことが示された。この結果を踏まえて、現状では該当症例のドレーンを早期抜去し、患者の離床を促している。

CQ.3  S-1補助化学療法の開始が遅れるとどうなるのか?

ACTS-GC試験の結果やガイドラインでは、S-1補助化学療法は術後6週以内に開始するよう記載されている。しかし、患者の回復度合いによりしばしば間に合わないことがある。ただ、我々の研究により、化学療法の開始が術後8週以降になることで予後が明確に悪化することが示された。客観的なデータが示されたことで、栄養支持や患者への説明をより積極的に行えるようになった。

執筆開始に至るまでの流れ

英文論文の執筆を進めるためにまず重要なことは、日々の診療に尽力しチームに貢献することだ。こうして初めて、臨床データを用いた論文を執筆する権利が発生する。そのうえで、日常診療で思いついたアイデアをメモしておき、先行研究が存在しないかPubMedなどを駆使して念入りに下調べする。小規模のデータで探索的な解析を進め、専門家や指導医と議論して研究デザインを決定する。学会発表を終えた後は、直ちに英文論文執筆まで進めることが重要である。

なお、先行研究に類似した内容が書かれている、いわゆる“金太郎飴論文”は基礎実験論文の場合価値がまったくない。しかし、臨床論文は内容が類似していても、時代や治療背景、対象となる人種や症例規模などが異なることで新たに得られる知見もある。研究デザインが既出であっても、臨床論文に関しては執筆を躊躇しなくてよいと考える。

英文論文作成のコツは定型化と剽窃回避

英文論文作成の具体的なコツとして、以下の5つを紹介する。

1.模倣と定型化

手術を覚える際に、手術が上手な医師のビデオを見たり助手として手術に入ったりするのと同様に、類似の論文や良質な論文を読み込むことや、先輩の論文ファイルを借りて雛形にして執筆することが重要である。どのような査読コメントを受けたかも参考になる。模倣と定型化は、特に苦労する最初の数本の論文で有効である。

2.論文に起承転結、1本の筋道をつくる

臨床論文は簡潔さも求められる。結論を1つに絞ること、結論から逆算して筋道だった文章を書くことが重要である。

3.黄金比――バランスのよい臨床論文を

文章ボリュームの比率は、導入→方法→結果→考察の順に末広がりになることを意識するとよい。導入は研究の目的を簡潔に、方法も分かりやすく記載する。得られた結果は省略することなく記載し、結果に対する見解を考察で深掘りすることが重要だ。執筆順序は、図表作成から始め、導入部分は最後に書くことを推奨する。

4.剽窃対策――あえて英語を無視する

剽窃対策として、日本語で論文を執筆してから英訳する方法を採用している。はじめに日本語で執筆すると筋道が立てやすくなり、添削や修正もスムーズになるためである。加えて、日本語を英訳することで文章に個性が生まれ、結果的に剽窃を回避できる。

5.和文症例報告との別れ

若手医師の和文症例報告では、考察が過去の報告の羅列になっていることが多い。英文論文では考察とみなされないため、和文症例報告と英文論文は別物として扱うことが大切である。

編集者目線を意識した執筆――雑誌への誠意を示す

雑誌への誠意がみられない雑な論文は、直ちに不採択とされてしまうため注意が必要である。自身の経験では、過去に投稿雑誌名を修正せずに別の雑誌へ投稿してしまったことがある。図表のレイアウトがバラバラ、誤字脱字、修正履歴が残ったままなどの雑な論文も見受けられる。編集者の目線を意識した論文執筆を心がけるべきだ。

なお、論文の投稿先はインパクトファクターの高いものから挑戦して問題ない。私見ではあるが、日本の学会雑誌は、実際のインパクトファクターと比較してハードルが高い印象だ。アメリカの雑誌では、流行をとらえたものや独自の視点が好まれる傾向があるように感じている。ヨーロッパの雑誌は、多少テーマの斬新性が不足していても、丁寧なデータ解析であれば好意的に評価される印象である。雑誌ごとの特徴を加味して、投稿先を選択すべきである。

論文執筆からの発展

1本の論文執筆から、臨床試験への発展や人とのつながりも期待できる。後ろ向き解析や基礎実験が知的財産となり、前向き臨床試験に発展することもあるだろう。また、単施設でのデータ解析結果を多施設で検証することにより、多くの共同研究者との交流の機会が得られる。

具体的には、以下のような事例がある。

  • 食道がんの後ろ向き解析から、術前補助化学療法の前向き臨床試験を計画し、治療開発につながった事例
  • 単施設で行ったバイオマーカー研究成果を韓国の医師らとともに検証することで、腫瘍マーカーの開発研究につながった事例
  • バイオマーカー研究から治療標的候補が発見され、創薬研究につながった事例


英文論文の筆頭著書になることは、発想力、実行力、忍耐力、チームからの信頼などを積み重ねてきた証でもある。ぜひ積極的に挑戦いただきたい。

講演のまとめ

  • 英文論文を発表することは多くの喜びと意義がある
  • 日常臨床の疑問が研究テーマになりうる
  • 日々の臨床でチームに貢献し、テーマについて念入りに下調べをしてから研究デザインを考えることが重要である
  • 臨床論文は的を絞って簡潔にまとめることが求められる
  • 編集者側の目線も意識しながら執筆することも重要である
  • 英文論文の執筆は、前向き臨床試験への発展や人との交流を拡大する可能性を秘めている

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