2021年11月19日掲載

JAK阻害剤のかゆみへの効果メカニズム

2021年11月19日掲載

近畿大学病院 皮膚科 医学部講師

中嶋 千紗先生

アトピー性皮膚炎は「バリア機能異常」、「免疫システムの破綻」、「かゆみ」という3つの因子が絡み合うことで発症・増悪するといわれている。なかでも「かゆみ」のコントロールは重要だ。アトピー性皮膚炎患者を対象とした海外のアンケート結果によると、約8割の患者が毎日かゆみを感じ、約6割の患者が重度および耐え難いかゆみと戦っている。そして約半数の患者が、もっとも負担となるアトピー性皮膚炎の症状をかゆみだと訴えている。

第120回日本皮膚科学会総会(2021年6月10~13日)にて行われた教育講演の中で、近畿大学の中嶋 千紗氏は、アトピー性皮膚炎の主症状である「かゆみ」に焦点を当て、そのメカニズムとJAK阻害剤の効果メカニズムについて解説した。

かゆみの評価方法

かゆみの評価方法は主観的な評価と客観的な評価に大別される。主観的な評価方法では、かゆみの強さを評価する方法として、以下のような評価方法が用いられる。

・VAS(Visual analog scale)

・VRS(Verbal rating scale)

・NRS(Numerical rating scale)

・BRS(Behavioral rating scale)

など

これらのうち、中嶋氏は日常診療にてNRS方式を採用している。NRS方式は0をかゆみなし、10をこれまで経験した一番強いかゆみとして11段階で評価するものだ。さらに頻度や持続時間といったかゆみの質は、質問票方式のItchy QOLや5Dのかゆみスケールを用いることで評価可能である。

一方、客観的な評価方法では、掻破行動を確認する方法として主に以下の2つがある。

・加速度センサーによる測定:Actinograph, Itch Trackerなど

・赤外線ビデオカメラによる測定

Itch Trackerは、iPhoneやApple Watchにダウンロードが可能なアプリケーションであり、睡眠中の掻破回数や時間などを記録することができる。ここで中嶋氏は、デュピルマブを投与した症例でItch Trackerを使用した例を紹介した。

かゆみの伝達経路 一次感覚神経のトピックス

次に中嶋氏は、主に一次感覚神経に関わるかゆみの伝達経路について解説した。伝達経路は、ヒスタミン作動性と非ヒスタミン作動性の2つに分類され、アトピー性皮膚炎のかゆみは非ヒスタミン作動性といわれている。

かゆみの伝達経路として一般的なものは、掻破などの刺激によって、かゆみメディエーター(起痒物質)が一次感覚神経の終末にある受容体にはたらき、かゆみのシグナルとして脊髄後角、脊髄視床路を介して大脳へと伝わるという流れによって起こる。

これまで皮膚に分布する一次感覚神経は、有髄のAβ線維・Aδ線維、無髄のC線維という3種類に大別され、かゆみを伝える神経がC線維であると考えられてきた。C線維は、Aβ線維やAδ線維と異なりミエリン鞘に巻かれていないため、伝達速度が極めて遅く、遅い痛みやかゆみを伝えるといわれてきた。

しかし近年、マウスのシングルセルRNA-seqの解析によって、一次感覚神経の新たなサブセット分類が進んでいる。中嶋氏は、マウスの脊髄後根神経節(DRG)の感覚神経を11のサブセットに分類したを提示した。このうちNP1、NP2、NP3、PEP1、THが無髄神経で従来のC線維に相当し、特にNP神経がかゆみに関わる神経として重要だという。


中嶋氏講演資料(提供:中嶋氏<論文より改変>)

分類を細かく見ていくと、かゆみの伝達物質であるヒスタミン受容体がNP2やNP3に発現していることや、IL-4/IL-13受容体がNP1、NP2、NP3の全てに発現していることが分かる。また、IL-31受容体はNP3のみにみられるなど、各伝達物質の受容体発現程度はさまざまである。なお、現在推察されている各神経とかゆみとの関連は以下のとおりである。

・NP1神経:かゆみだけでなく痛みや温度にも関わっている

・NP2神経:かゆみだけでなく痛みにも関わっている

・NP3神経:かゆみ特異的

中嶋氏は「今後の解析によって、よりかゆみに特異的なサブセットの解明が進むだろう」との見解を示した。

JAK/STATシグナル伝達経路とは

次に中嶋氏は、本講演の本題であるJAK/STATシグナル伝達経路について解説した。JAK/STATシグナル伝達経路は数あるサイトカインのシグナル伝達の1つであり、サイトカインの受容体とヤヌスキナーゼ(JAK)、シグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)によって構成される。


Front Immunol. 2019 Dec 3;10:2847より引用

JAK/STATシグナル伝達経路では、サイトカインが結合することによって受容体が二量化し、JAKがリン酸化される。その後STATもリン酸化され、核内へ移行しサイトカインやケモカインの産生が進むという流れである。

なお、JAKにはJAK1、JAK2、JAK3、TYK2の4種類があり、それぞれがペアとなってはたらいている。各ペアは多くのサイトカイン受容体で結合しており、そのペアもさまざまである。細胞性免疫、抗炎症リンパ球分化、造血、抗ウイルス作用など多くの生命現象にJAK/STAT系が関与している。


O’shea JJ et al.Nat Rev Rheumatol. 2013 Mar;9(3):173-82より引用

慢性のかゆみに関しては、IL-4、IL-13、IL-31、TSLPの主に4つのサイトカインが関与しており、これらが直接一次感覚神経に作用することでかゆみが誘発されているといわれている。各サイトカインが結合する受容体と、それらに結合するJAKは以下のとおりである。

・I型IL-4受容体(IL-4):JAK1、JAK3

・II型IL-4受容体(IL-4、IL-13):JAK1、TYK2

・IL-31受容体(IL-31):JAK1、JAK2

・TSLP受容体(TSLP):JAK1、JAK2

続いて中嶋氏は、慢性のかゆみに関わるサイトカインであるTSLP、IL-4/IL-13、IL-31について解説した。

まずTSLPは、胸腺、扁桃、器官、皮膚、腸管の上皮細胞で産生され、Th2細胞の免疫応答を誘導するマスターレギュレーターといわれている。アトピー性皮膚炎患者では表皮で高頻度に発現しており、末梢神経に直接作用していることが2013年に報告され話題となった。ただし、現時点ではマウスでのデータしか存在せず、抗TSLPモノクローナル抗体(テゼペルマブ)のアトピー性皮膚炎に対する治験でも、かゆみの抑制効果がそれほど認められていないため、ヒトでの関与は現時点で不明である。

IL-4/IL-13はTh2細胞から産生されるサイトカインである。これらの受容体であるIL-4受容体αは末梢神経に発現しており、JAK1を介して慢性のかゆみが誘導されていると考えられている。

かゆみ特異的といわれているIL-31も、主に活性型Th2細胞によって産生されるサイトカインである。IL-31を高発現したマウスでは、神経マーカーPGP9.5の上昇がみられ、NP3神経での受容体発現も確認されている。試験管内の実験において神経分枝の増加も確認されている。また抗IL-31受容体Aヒト化モノクローナル抗体(ネモリズマブ)の国内第III相臨床試験では、ネモリズマブ投与後翌日からのVASスコア低下が確認された。

<ネモリズマブ 有効性の結果>


Panel A:16週目までのVASスコアの変化(週平均)

Panel B:15日目までのVASスコアの変化(日平均)

Kabashima K.et al.New England J Med.2020 383(2):141-150より引用

また、JAK/STATシグナル伝達経路に関わる薬剤としては、JAKファミリーのキナーゼ全てを阻害するデルゴシチニブや、JAK1・JAK2を主に阻害するバリシチニブなどにかゆみを抑制する効果が認められている。

JAK阻害剤とアトピー性皮膚炎モデルマウス

表皮のバリア機能の維持には、プロフィラグリン、フィラグリン、フィラグリンモノマー、天然保湿因子(NMF) などが重要であり、アトピー性皮膚炎の発症要因にはバリア機能の破壊が大きく関与していると推定されている。しかし、その詳しいメカニズムについては明らかにはなっていなかった。そこで中嶋氏らの研究チームは、発症にかかわるメカニズム解明に向けた研究を行い、その結果を報告した。

本研究では、コンベンショナルな環境でアトピー性皮膚炎を発症するNC/Ngaマウスに対し、デルゴシチニブを塗布した。すると臨床症状の改善だけではなく、経表皮水分蒸散量(TEWL)の低下や、タンパクレベルでのフィラグリンモノマーの増加、STAT3のリン酸化抑制が確認された。また、アトピー性皮膚炎の発症によって低下する天然保湿因子(NMF)もアトピーを発症していないマウスと同程度にまで改善したという。

また、試験管内において正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)にデルゴシチニブを添加してみても、フィラグリンやプロフィラグリンの発現が増加した。さらに、ヒューマンスキングラフトモデルにデルゴシチニブを塗布すると、H&E所見では大差がないものの、免疫染色によってフィラグリンの著明な増加がみられたという。

Th2環境ではJAK/STATシグナル伝達経路におけるリン酸化によって、STAT3とSTAT6の活性化が起こるが、以上の研究からSTAT3の活性化がフィラグリン低下によるバリア破壊を招いたり、STAT6の活性化がケモカイン産生の亢進による皮膚炎症を引き起こしたりすることで、アトピー性皮膚炎が誘導されることが示唆された。そして、デルゴシチニブの投与によってSTAT3の活性化が抑制され、バリア機能を改善させることも分かった。


中嶋氏講演資料(提供:中嶋氏<論文より改変>)

それでは、デルゴシチニブはかゆみにも効果はあるのだろうか。中嶋氏はデルゴシチニブのかゆみ抑制効果に関する研究を報告した。本研究ではアトピー性皮膚炎モデルのマウスにデルゴシチニブを塗布し、スクラバリアルという機械を用いて掻破回数や時間を記録した。すると14日後、28日後ともに掻破回数の減少が確認でき、IL-31誘発の掻破行動に関しても濃度依存性に掻破回数の減少がみられた。

さらに同研究では、生体イメージングを使った末梢神経の観察も行っている。アトピー性皮膚炎モデルのマウスを観察すると、表皮内に神経が多数確認されたものの、デルゴシチニブ塗布によって減少を認めた。IL-31を脊髄後根神経節(DRG)に添加し末梢神経が伸長したマウスでも、同様の改善効果がみられたことを報告した。また、IL-31による末梢神経の伸長は、STAT3/5、AKTのリン酸化を介していることも推測された。

以上から、掻破行動の原因となる末梢神経の伸長は、少なくともSTAT3/5、AKTの活性化を介して行われており、アトピー性皮膚炎の増悪にも関わっているのではないかということが示唆された。


中嶋氏講演資料(提供:中嶋氏<論文より改変>)

まとめ

中嶋氏は本講演のポイントを以下のとおりまとめ、講演を締めくくった。

・アトピー性皮膚炎に代表される慢性のかゆみはヒスタミン非依存性である

・IL-4/IL-13、IL-31、TSLPなど、サイトカインの受容体が末梢神経の終末に直接存在することから、JAK/STATシグナル伝達を介して慢性のかゆみが直接誘導されていることが示唆されている

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