2023年05月01日掲載
医師・歯科医師限定

「慈心妙手」の精神伝える第75回日本産科婦人科学会の見どころ――6か国の若手医師が議論する場も

2023年05月01日掲載
医師・歯科医師限定

東京慈恵会医科大学 産婦人科学講座 主任教授

岡本 愛光先生

第75回日本産科婦人科学会学術講演会が2023年5月12日〜14日、東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催される(現地開催・ライブ配信ありのハイブリッド形式)。国際的なプログラムが多数あるほか、ソニー株式会社を復活させた平井 一夫氏(ソニーグループ株式会社シニアアドバイザー/一般社団法人プロジェクト希望代表理事)の講演や、脚本家の三谷 幸喜氏によるトークセッションなど多彩なプログラムが準備されている。会長を務める、東京慈恵会医科大学(以下、慈恵医大)産婦人科学講座 主任教授の岡本 愛光氏に、学術講演会の見どころや開催に向けた思いを聞いた。

テーマ「慈心妙手」に込めた思い

今年の学術講演会のテーマは「慈心妙手」とした。この言葉は、1903年(明治36年)に慈恵医大産婦人科学講座の初代教授に就任した樋口 繁次氏から代々伝わる教えだ。「患者に対して慈しむ心を持ち、優れた技術で物事に対応しなさい」という意味である。慈恵医大産婦人科では、手術の前に必ず患者の前で合掌する伝統がある。「今から最善を尽くして手術をします。そして、多くのことを学ばせていただきます」と感謝をするのだ。

一人ひとりの患者を慈しみ、日々技術を研鑽し続ける努力を怠らず、常に進化をし続けるプロフェッショナルであれ――この精神を伝えるべく、テーマに慈心妙手の言葉を選んだ。我々は、先達によって培われてきた教えを継承しながらも、新しい知見・技術を身につけて進化を続けていかなければならない。今回の学術講演会を、これからの日本の産科婦人科医療について一人ひとりが考えを巡らせ、知的好奇心をくすぐる大会にできればと考えている。

国際色豊かな学術講演会に――海外の若手医師との交流

近年、海外への留学者数が減少傾向にあり「井の中の蛙」になっている若手医師が少なくない印象を受ける。もっと世界に目を向けて、新しい知識や技術を取り入れて視野を広げてほしいという思いから、本学術講演会では国際的なプログラムを多数用意した。自身が長年日本産科婦人科学会の渉外委員会の委員長を務めていた際のご縁で、各国のエキスパートの先生を十数人お呼びしている。

注目演題の1つが、国際産婦人科連合(FIGO)会長を務めるJeanne A. Conry氏による「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(Sexual and Reproductive Health and Rights:SRHR)」に関する講演だ。SRHRとは「性と生殖に関する健康と権利」という意味で、近年WHO(世界保健機関)やFIGOが力を入れて取り組んでいる世界的なテーマである。SRHRについては「日本におけるSRHRの諸問題〜どう解決していくか〜」と題した委員会企画も用意している。

もう1つ、Jonathan S. Berek氏(FIGO婦人科がん委員会委員長)には、分子学的特徴を組み入れた子宮内膜がん(子宮体がん)のFIGO病期分類についてご講演いただく。そのほか、日本産科婦人科学会とドイツ産科婦人科学会(DGGG)との合同カンファレンス、アジア・オセアニア産婦人科連合(AOFOG)のシンポジウムなど海外セッションを多数用意している。なお英語のシンポジウムでは、AI(人工知能)による同時翻訳を取り入れる予定だ。

さらに今回、ドイツ、韓国、台湾、カンボジア、イギリス、日本の若手医師同士が交流・議論する機会も設けている。妊娠高血圧症候群の診断と治療、働き方改革、がんゲノム医療(プレジション・メディシン)の3テーマごとにチームを割り振り、ディスカッションしていただく。各国の現状や考え方について、活発な議論展開がなされることを期待している。

多様な招請講演、メタバースを活用したセミナー

全てのプログラムが注目演題ではあるが、いくつか特徴的なプログラムをピックアップして紹介する。

若手医師にぜひ聞いていただきたいのが、平井 一夫氏による「モチベーショナル・リーダーになる為に」だ。平井氏は経営危機に直面していたソニー株式会社を再生させた人物である。将来を担う若手医師に、モチベーションを持ち続けてほしいという願いを込めて平井氏に講演をお願いした。

ほかにも、内閣府のAIホスピタルプロジェクトのディレクターを務める中村 祐輔氏(医薬基盤・健康・栄養研究所理事長)による「AI・デジタルで心温まる医療を」、衆議院議員・小泉 進次郎氏による「政治に必要なこと。産婦人科医療に必要なこと。」も見どころだ。

内閣府のムーンショット型研究開発事業に取り組む合原 一幸氏(東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構)の「複雑系数理モデル学の基礎理論とその未病医学への応用」にも注目したい。

また、今回初の試みとして、メタバース(インターネット上の仮想空間)を活用したセミナーを準備した(要事前登録)。演者の先生に講演いただいた後、メタバースで参加者同士がテーマについて話し合う。微妙な表情の変化をアバターでは瞬時に伝えられないなど、現実世界での交流に比べて劣る点はあるものの、現地に来ることができない医師でもほかの医師と交流できるよい機会になるのではないだろうか。

笑いを大切に、パッションを持ち続けよ――三谷 幸喜氏のトークセッションも

若手医師に伝えたいのは、基礎研究には「奥深い楽しみ」、臨床研究には「現実的な楽しみ」があることだ。特に基礎研究は、今治せない病気を治せる可能性がある非常に夢のある分野である。しかし先にも述べたとおり、最近は研究のために海外留学をする医師が減ってきている。私たちが若手の頃は海外留学に憧れのようなものを抱いたものだが、今の若手医師はわざわざストレスフルな環境に身を置いて修行しようとは思わない人が多いのだろうか。しかし、医療を進歩させるために、世界を知ることは非常に重要である。将来の可能性に満ち溢れる若手医師には高いモチベーションを持ち、国際レベルを目指してほしい。

臨床現場ではパッションを持ち続けることも大切にしてほしい。たとえば、進行卵巣がんの手術では、1回目の手術で腫瘍をどれだけ肉眼的に切除できるかどうかで、生存期間が大きく変わる。長時間の手術になっても、それが患者さんのためになるのであれば、可能な限り腫瘍を切除することを執刀医は諦めてはいけない。しかし最近、「医師の働き方改革」の影響により、手術時間短縮に向けた風潮が出始めている。これには強い危機感を覚える。

基礎研究、臨床研究、臨床は楽しく行うのが一番だ。これからを担う医師に「笑いを大切に楽しく生きてほしい」という思いを込め、特別トークセッションに三谷 幸喜氏をお招きした。笑いを大切にされている三谷氏ならではの興味深い話が聞けることだろう。

誰にも負けない「腕」を持つ

慈恵医大産婦人科学講座では「世界の女性と子どもを幸せにする」という理念を掲げている。そのためには一人ひとりの医師が日々精進し、技術を磨いていくことが非常に重要である。ただし、全てをオールマイティにこなせる人はいない。テーマである「慈心妙手」には「誰にも負けない腕を持て」という意味も込められている。手術の腕、研究の腕、教育の腕――これだけは誰にも負けない「腕」を持つことを学術講演会の場で再認識していただければと思う。学術講演会は慈恵医大らしいホスピタリティで誠意準備にあたっている。皆さんに楽しんでいただけるようなユニークで充実した学術講演会にしたいと思う。たくさんの方の参加をお待ちしている。

感謝の気持ちを込めて

学術講演会の開催にあたり、慈恵医大産婦人科学講座の故・寺島 芳輝教授、田中 忠夫名誉教授、安田 允教授、落合 和徳教授、落合 和彦教授などをはじめとする諸先輩方、同窓会の先生方、前国立がんセンター研究所の横田 淳氏、寺田 雅昭氏、米国国立衛生研究所(NIH)のCurtis C. Harris氏、東京大学の秋山 徹氏、国立成育医療研究センターの梅澤 明弘氏などの恩師には心から感謝申し上げたい。また、研究や臨床、教育などでお世話になった先生方、日本産科婦人科学会、日本婦人科腫瘍学会、婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG)などの理事やスタッフ、そして慈恵医大産婦人科学講座の全員に心から感謝申し上げる。

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