2022年10月14日掲載
医師・歯科医師限定

【第59回日本癌治療学会学術集会レポート】胃がん周術期化学療法の現状と将来展望――各国における臨床試験の結果を踏まえて(3400字)

2022年10月14日掲載
医師・歯科医師限定

がん研有明病院 消化器化学療法科副部長

高張 大亮先生

がんの化学療法は現在もなお多くの新しい薬剤が開発され、併用療法も世界中で検証されている。胃癌治療ガイドラインのアップデートに伴い、周術期化学療法はどのように変化しているのだろうか。がん研有明病院 消化器化学療法科 副部長の高張 大亮氏は、第59回日本癌治療学会学術集会(2021年10月21〜23日・パシフィコ横浜)において、各国で実施されている臨床試験の結果に基づいた周術期胃がん療法の展望について講演を行った。

術後化学療法の現状

術後化学療法は2007年のACTS-GC試験により、日本でS-1の術後化学療法が標準治療となった。後にCLASSIC試験により、CapeOXも標準療法の1つと示された。胃癌治療ガイドライン第5版では「S-1またはCapeOXをpStage II/IIIの患者に用いる」とされているが、その優劣については明らかではない。この度OPAS-1試験、START-2試験、ARTIST2試験が報告され、ガイドラインが第6版にアップデートされている。

OPAS-1試験(JCOG1104)

pStage IIの胃がんに対し、標準治療であるS-1の8コースを4コースに短縮できるか否かを検証する試験であった。中間解析で非劣性を証明するのは難しいとの結果が得られたため、途中で中止となった。現在も標準治療は変わらず8コースである。

START-2試験(JACCRO GC-07)

pStage IIIの患者に対し、標準治療であるS-1の8コースのうち、サイクル2〜7の6回でドセタキセルを40mg/m2で上乗せする試験である。なお、サイクル2〜7間はS-1を2投1休で投与する。3年RFS(無再発生存期間)は、S-1単剤群で49.5%であったのに対し、上乗せ群は65.9%と有意差が認められた。転移部位別でもドセタキセルの上乗せによる再発抑制の効果が報告されている。

ARTIST2試験

pStage IIまたはIIIの胃がんに対して、S-1単剤、SOX療法(オキサリプラチン+S-1)、SOXRT療法(オキサリプラチン+S-1+化学放射線療法)の3群を比較した試験である。結果、DFS(無病生存期間)はS-1に対するSOX療法の優越性は認められたが、SOX療法に対するSOXRT療法の上乗せ効果は認めなかった。

これらの結果を踏まえて、胃癌治療ガイドライン第6版では以下のように定められている。

  • pStage IIに対する標準治療は、1年間(8コース)のS-1投与
  • pStage IIIにはドセタキセルとの併用療法が推奨され、S-1単剤療法は「条件付き推奨」
  • S-1+ドセタキセルの併用療法と、SOX療法などのオキサリプラチン併用療法との直接比較がないため、いずれがより有効かは不明


以上より、pStage IIはS-1単剤、pStage IIIは併用療法が現時点での主流だ。

胃がん患者に対する術前化学療法――世界からの報告

胃がん患者に対する術前化学療法のメリットは、術後よりも体力のある状態で投与できるため完遂率の上昇が期待できること、術前投与によって病理学的な検討ができ、薬剤への感受性が予測しやすいことなどがある。一方デメリットとして、本来必要のない早期患者にも投与してしまう可能性、術前化学療法中に進行する可能性、手術の合併症を増やす可能性などが挙げられる。

術前化学療法について検討した試験をいくつか紹介する。

FLOT4試験(ドイツ)

ドイツで実施されたphase II/III試験である。対象は、臨床病期cT2以上あるいはリンパ節転移陽性、またはその両方であり、遠隔転移がない切除可能な腫瘍を有する716例である。従来の標準治療であるECF/ECX 3コースに対して、FLOT療法(5-FU +ロイコボリン+オキサリプラチン+ドセタキセル)4コースの比較試験を行った。結果は、ハザード比0.77でOS(全生存期間)の中央値が35〜50か月と各年の生存点推定値でも上乗せ効果を認め、FLOT療法が標準治療となった。

現在ESMO(欧州臨床腫瘍学会)のガイドラインでは、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)ができるケースを除き、T1N0以上の早期胃がんでは周術期化学療法を優先的に行うべきとの記載がある。NCCN(全米総合がんセンターネットワーク)のガイドラインでも、cT2以上であればNを問わずに優先的に周術期化学療法を行うこととされている。

RESOLVE試験(中国)

RESOLVE試験はcT4aN+M0またはcT4bNxM0症例を以下3群に分けて実施した比較試験である。

  • D2郭清術後にCapeOX 療法を8サイクル行った群(Adjuvant CapeOX群)
  • D2郭清術後にSOX療法 を8サイクル行った群(Adjuvant SOX群)
  • D2郭清術前にSOX療法を3コース行い、術後にSOX 5コース+S-1単剤を投与した群(Perioperative SOX群)


3年PFS(無増悪生存期間)をみたところ、Perioperative SOX群はAdjuvant CapeOX群と比較して優越性が示された。一方、Adjuvant CapeOX/SOX群は非劣性と報告されている。なお、Adjuvant SOX群に対する Perioperative SOX群の上乗せ効果については言及されていない。

PRODIGY試験(韓国)

cT2-3N+またはcT4N-症例に対し、術前にDOS療法(ドセタキセル+オキサリプラチン+S-1)を3コース行うことによる手術単独群に対する上乗せ効果を調査したphase III試験である。3年PFSは、手術群で60%だったのに対しDOS群では66.3%(ハザード0.7)だった。なお、手術群におけるPFSの低下はランダム化後早期のみであり、それ以降では両群において低下の推移に差はみられない。OSの結果もまだ報告されていないため、DOS療法の上乗せ効果についてはさらなるデータが必要だろう。韓国のガイドラインでは、cT3-4またはcN+症例に対する術前療法について「Inconclusive(決定的ではない)」とされている。

日本における術前化学療法の位置付け

日本での術前化学療法に関する報告としてJCOG0501がある。大型3型・4型胃がんを対象に、SP療法(S-1+シスプラチン) 2コースによる手術単独群に対する術前化学療法の優越性をみた試験である(術後はS-1 1年)。病期診断目的で審査腹腔鏡を行い、CY1やP1も対象にされている。結果、3年OSが62%および60%で有意差は示されなかった。

日本では術前化学療法について、予後不良症例を中心にJCOGで開発が進められている。高度リンパ節転移(Bulky Nまたは傍大動脈リンパ節)の症例を対象とした試験(下図JCOG0001/JCOG0405/JCOG1002)では、術前のSP療法は優れた結果が示された。一方、ドセタキセルの上乗せは認められなかった。大型3型・4型(下図JCOG0002/JCOG0210/JCOG0501)に関しては、SP療法2コース実施後に手術、術後S-1単剤を投与した場合は手術後術後S-1単剤を投与した場合と比較して有意差が認められなかった。このように日本では術前化学療法の有用性が示されたphase III試験はまだないのが現状だ。

高張氏講演資料(提供:高張氏)

日本のガイドラインでは、cT2-4でBulky Nまたは16番リンパ節陽性の症例に対する術前化学療法は「Consideration(考慮してもよい)」の推奨度にとどまっている。ガイドライン CQ 28でも「明確な推奨はできない」と記載されており、臨床試験の結果を待っている状況である。

現在進行中の試験

JCOGでは現在、c(臨床病期)T(深達度)3-4かつN+(リンパ節転移陽性)症例を対象に術前のSOX 療法3コースの上乗せ効果を検証する「NAGISA試験(JCOG1509)」が進行中である。Bulky Nまたは#16転移に対するDCS(ドセタキセル+シスプラチン+TS-1)療法のSP療法を上回る効果は示されなかったため、シスプラチンをオキサリプラチンに変え、S-1の投与方法を改めたDOS療法のphase II試験が行われている。

また、国際共同治験として免疫チェックポイント阻害剤を含めた治療の試験が開始される。術後、S-1またはCapeOX療法にニボルマブを上乗せした効果をみるATTRACTION-5試験が登録完了している。周術期の試験としては、KEYNOTE-585試験が登録完了している。cT3-4またはN+を対象に、FP療法(5-FU+シスプラチン)、XP療法(カペシタビン+シスプラチン)、FLOT療法のいずれかにペムブロリズマブを周術期期に追加しその上乗せを検証する試験だ。さらに現在、cT2-4またはN+症例に対して PD-L1抗体であるデュルバルマブをFLOT療法に上乗せする「MATTERHORN試験」が進行中である。

講演のまとめ

  • 術後化学療法は日本ではpStage IIは現在 S-1単剤で、stage IIIになると併用療法が推奨されている
  • 術前化学療法は海外では標準的に用いられているが、日本でまだ十分な検証がされていない
  • 日本も参加している国際共同治験として、免疫チェックポイント阻害剤を含めた治療の試験がすでに開始されている

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