2021年10月27日掲載
医師・歯科医師限定

【第120回皮膚科学会レポート】全身炎症と乾癬(4700字)

2021年10月27日掲載
医師・歯科医師限定

帝京大学医学部 皮膚科学講座 主任教授

多田 弥生先生

乾癬患者に多い肥満は、乾癬の発症リスクや重症度、治療抵抗性などに影響することが多くの研究で示されている。また、乾癬では心血管疾患イベントをはじめ、NAFLD、骨折、うつ病、歯周病などを合併する頻度も高く、乾癬と全身炎症の深い関わりが示唆されている。

帝京大学医学部 皮膚科学講座主任教授の多田 弥生氏は、第120回日本皮膚科学会総会(2021年6月10~13日)で行われた会頭特別企画1の中で、乾癬と全身炎症の関わりについて解説した。

乾癬と肥満・メタボリックシンドローム、心血管イベントとの関連

乾癬と肥満は密接に関与しており、体重増加が乾癬や乾癬性関節炎の発症リスク上昇につながることが複数の研究によって明らかになっている。また、肥満は乾癬の重症度や治療抵抗性とも関係があることも分かっている。

実際に国内外のいくつかの研究で、乾癬患者では肥満やメタボリックシンドロームが多いことも報告されている。旭川医科大学のグループが行った研究でも乾癬患者とコントロール群を比較した場合、乾癬患者のほうが肥満/過体重、および胴囲増加の割合が高いことが分かっている。加えて、虚血性心疾患の発症も増加していることが明らかになった。また同研究ではメタボリックシンドロームの構成要素である、インスリン抵抗性/糖尿病、脂質異常症、高血圧を有している割合もコントロール群に比べて乾癬患者で高くなっている。

また、乾癬が心血管イベントの独立した危険因子になることについても、いくつかの研究にて報告されている。ある研究では、乾癬患者とコントロール群において心血管イベントのリスクとなる糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙など全て補正してもなお、乾癬患者のほうが心血管イベントのリスクが高いことが分かった。また60歳以下を対象にした調査では、健常人よりも乾癬患者の心血管イベントのリスクが高いことも報告されている。

重症な乾癬患者では、若年者であっても心血管イベントの発症に注意が必要だ。30歳代の乾癬患者で重症例と軽症例を比較した研究では、重症患者で約3倍心血管イベントリスクが高いという報告もある。これは乾癬の炎症程度が心血管イベントの発症に何らかの形で関与していることを示唆しているという。

さらに重症乾癬患者の死亡リスクを調査した研究では、健常人に比べて6年ほど寿命が短いことが報告されており、その主な要因は心血管イベントであることも分かっている。

<重症乾癬患者と健常人の死亡年齢の比較>


Psoriasis:n=3603 、Controls:n=14330

Abuabara K et al.Br J Dermatol 2010;163:586-92より引用

これらのことから多田氏は、乾癬患者には肥満やメタボリックシンドロームが多く、結果として心血管イベントの発症や死亡リスクの上昇につながっていると言及し「乾癬患者の診療では心血管イベントの発症リスクを念頭に置く必要があるだろう」と強調した。

乾癬から心血管イベントにつながる「乾癬マーチ」

乾癬における皮膚の炎症から心血管イベントにつながる概念として提唱されているのが「乾癬マーチ(Psoriatic March)」だ。

皮膚の炎症は肥満によって増幅される全身炎症に寄与し、これがメタボリックシンドロームの本体であるインスリン抵抗性を誘導する。その結果として血管内皮機能障害や動脈硬化、心筋梗塞へとマーチのようにつながっていくのが乾癬マーチの考え方である。

<乾癬マーチ>


多田氏より提供

それでは、皮膚の炎症はメタボリックシンドロームとどのようにしてつながるのか。皮膚の炎症とメタボリックシンドロームの相関について調べた研究では、乾癬の皮疹面積が狭い患者に比べて、広い患者のほうが高血圧や高脂血症、高血糖、肥満などのメタボリックシンドロームの構成要素の有病率が高いことが報告されている。

また反対に、減量によって皮疹が改善し、QOLの向上も認められたとする研究結果も報告されている。実際に多田氏も大幅な体重減少によってそれまで難治であった皮疹が消失した複数の症例を経験しているといい「実際に乾癬患者の一部には、脂肪細胞の寄与が強い患者がいると感じている」と述べた。

乾癬とアディポカイン

それでは、実際にどのような液性因子が脂肪細胞と乾癬をつないでいるのだろうか。その因子として注目されているのが脂肪細胞から放出される「アディポカイン」というサイトカインだ。

アディポカインには、メタボリックシンドロームを抑制する「善玉」タイプと、メタボリックシンドロームを促進する「悪玉」タイプが存在する。前者の代表としてはアディポネクチンが挙げられ、後者の代表としてはTNF-α、レプチン、レジスチンなどが挙げられ、乾癬患者では善玉タイプの発現量が低下し、悪玉タイプの発現量が上昇していることが指摘されている。

善玉アディポカインは乾癬の皮疹の炎症を抑制するのか

悪玉タイプのTNF-αに対してはTNF-α阻害薬が乾癬の皮膚症状の改善に有効であることが知られているが、善玉タイプのアディポカインが皮疹の炎症を抑える作用があるかについては明確なことが分かっていなかった。これに対し、多田氏は東京大学の柴田氏、佐藤氏らと共に行った研究について紹介した。

本研究では、乾癬患者におけるアディポネクチンが血中だけでなく、皮下脂肪組織や皮膚でも有意に低下していることを示したうえで、実際にアディポネクチンをノックアウトしたマウスを使って、乾癬の炎症とアディポネクチンの関連について検証した。

実験ではアディポネクチン欠損マウスに対してイミキモドを外用し、皮疹の程度を確認した。すると、臨床的にも組織学的にも皮疹の増悪がみられた。皮膚においては乾癬の病態にかかわるIL-17、IL-17F、IL-22などの上昇もみられ、γδT細胞におけるIL-17の産生も上昇していた。

最終的にIL-17抗体を投与したところ、アディポネクチン欠損マウスでは治療に対する抵抗性も示した。こうした結果を踏まえて「脂肪細胞の分泌する液性因子が皮膚での炎症を制御している可能性がある」との見解を示した。

脂肪細胞のリモデリングによるアディポカイン分泌パターンの変化

さらに多田氏は「肥満によって、脂肪細胞に量的な変化が起こるだけでなく質的な変化(リモデリング)も起こることで、結果的にアディポカインを含む液性因子の分泌パターンが変化するのではないか」と言及した。

<アディポカインの分泌パターンの変化>


多田氏より提供

それでは、変化したアディポカイン分泌パターンをサイトカイン阻害薬によって元に戻すことで、心血管イベントを減らせるのだろうか。この点について多田氏は「TNF阻害薬による心血管イベントの抑制を示したデンマークの重症乾癬患者の登録研究など数多くのエビデンスがある」としたうえで「サイトカイン阻害薬によって全身炎症を抑えることで心血管イベントを抑制できる可能性はあるのではないか」との見方を示した。

またIL-17はヒトにおいては動脈硬化を促進し、IL-17A阻害薬により非石灰化プラークが減少するとの報告もある。ただし、TNF阻害薬ほど心血管イベントを抑制することを示す大規模なデータは出ていないため、今後の検討が必要だという。

乾癬とNAFLD

乾癬では非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を合併する患者が多いことが分かっている。またNAFLDと乾癬を併存している患者では、乾癬がない例と比べて肝線維化が重症化するリスクが高いことや、乾癬がNAFLDの独立した危険因子であることが、これまでの研究で示されている。

乾癬患者におけるNAFLDの発症メカニズムとして現在、広く支持されているのが“two hit theory”だ。

<NAFLDのtwo hit theory>


多田氏より提供

肥満により脂肪組織における脂肪の蓄積が進み、脂肪細胞のリモデリングが起こるとインスリン抵抗性が惹起される(1st hit)。続いて肝臓や骨格筋といった脂肪組織以外の場所にも脂肪が蓄積し、脂肪肝に至る(2nd hit)。肝臓に蓄積した脂肪によって炎症が起こり、肝炎や肝硬変につながる、というのがtwo hit theoryの考え方だ。

多田氏は「通常、飲酒が乾癬の症状を増悪させることはないが、脂肪肝のある乾癬患者では飲酒が肝硬変への進行リスクを高める可能性がある」として生活指導上の注意についても呼びかけた。

乾癬と骨粗しょう症

骨粗しょう症と乾癬、乾癬性関節炎との関係についても複数の研究で報告されており、乾癬や乾癬性関節炎では骨粗しょう症性骨折のリスクが高くなることが示唆されている。

英国の長期コホート研究のデータを用いた乾癬性関節炎患者9,788例、乾癬患者15万8,323例、コントロール群82万1,834例の解析からは、乾癬性関節炎患者、軽症乾癬患者、重症乾癬患者における全骨折リスクの上昇や、軽症および重症の乾癬患者における脊椎骨折リスクの上昇が示されている。これらのデータを踏まえ、多田氏は「特に重症の乾癬や乾癬性関節炎の患者は骨折リスクが高いと考えられる」との見解を示した。

こうした骨密度の低下にはIL-17の関与も示唆されている。たとえば、乾癬患者では骨密度と血清IL-17A濃度が逆相関し、皮膚でIL-17が高発現した乾癬様皮疹を呈するマウスにおいて、骨密度の低下を認めたとする報告もある。

また、IL-17は骨芽細胞の分化を誘導するWntシグナルを阻害し、それによって骨密度の低下がもたらされることも示唆されている。多田氏は、これらの報告を紹介したうえで「皮膚の炎症からIL-17の産生レベルが上昇、Wntシグナルが阻害されることで骨形成の減少がもたらされることが、重症乾癬患者における骨折率の上昇の背景にあるのではないかと考えられる」と説明した。

乾癬とうつ病、クローン病、喫煙、歯周病

乾癬とうつ病の関係も以前から指摘されており、文献によって異なるが乾癬患者の32~60%にうつの傾向があると報告されている。うつ病の病態においても炎症性サイトカインが重要で、うつ病患者では血中の炎症性サイトカインが上昇していたとする報告がある。ただし、IL-17濃度とうつ病との関連については結果が一貫していないことから、多田氏は「乾癬患者でうつ病の頻度が高いことは間違いないが、具体的にどういったサイトカインが関係しているのかについては不明な点が多い印象がある」と述べた。

また、乾癬患者ではクローン病のリスクも高いという海外データもある。特に乾癬性関節炎患者では同リスクが大幅に高い(交絡因子を補正後の相対リスク:6.43)ことが米国の女性17万4,476例の前向きコホート研究で示されている。

またIL-17抗体製剤によって腸管上皮に炎症が起こり、炎症性腸疾患の新規発症や増悪をきたすことが分かっており、IL-17抗体製剤を使用する際には注意が必要だという。なおIL-23阻害薬に関してはこうした影響はない。

さらに喫煙が乾癬の発症リスクや重症化リスク、乾癬性関節炎の重症化リスクを高めることも大規模研究で示されている。禁煙による乾癬の改善を裏付けるエビデンスレベルの高い研究は今のところないが、難治性の病変の形成や治療抵抗性につながりやすいことが分かっている。その背景として喫煙によってTh17細胞の免疫反応が促進されることを示唆する報告が出されている。こうしたことから喫煙習慣のある乾癬患者に対しては禁煙指導が必要だと言及した。

そのほか、乾癬患者では健常人と比べて歯周病リスクが上昇することが分かっており、そのリスクは喫煙によって約6倍になることも明らかになっている。

特に重症乾癬患者や乾癬性関節炎の患者では大幅なリスク上昇が認められたとする報告もある。多田氏は「歯周病には乾癬と同様、IL-17と好中球がその病態に関与しており、歯周病は乾癬の粘膜病変としての表現型ではないかとの指摘もある」として、乾癬患者では歯周病に気を付けるよう注意を促した。

講演のまとめ

多田氏はポイントを以下のようにまとめ、講演を締めくくった。

・乾癬ではメタボリックシンドロームが多く、重症乾癬では心血管イベントのリスクが高まる

・メタボリックシンドロームを合併した乾癬では脂肪肝が重症化しやすい

・重症な乾癬、乾癬性関節炎では骨粗しょう症、骨折に注意する

・乾癬ではうつ病のリスクが高く、ここに炎症性サイトカインの関与も考えられている

・海外データでは乾癬ではクローン病を発症しやすく、乾癬性関節炎ではそのリスクが上昇する

・乾癬では歯周病の合併リスクが高く、重症度、関節炎、喫煙などによりリスクはさらに上昇する

・生物学的製剤などは全身炎症抑制作用により、これら合併症のリスク軽減にはたらく可能性が示唆されている

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