2021年10月11日掲載
医師・歯科医師限定

【論文紹介】Short-term Outcomes of Robotic Gastrectomy vs Laparoscopic Gastrectomy for Patients With Gastric Cancer: A Randomized Clinical Trial(2000字)

2021年10月11日掲載
医師・歯科医師限定

和歌山県立医科大学 外科学第二講座 講師

尾島 敏康先生

タイトル(和文)

胃がんに対するロボット支援下胃切除術と腹腔鏡下胃切除術の短期成績の比較:無作為化比較試験

研究の背景

胃がん手術における低侵襲手術の主流は腹腔鏡下手術である。数多くの無作為化比較試験において、腹腔鏡下胃がん手術は開腹胃がん手術と比較して短期成績、また生存率を含めた長期成績は変わらないとの結果であった(Ann Surg 2016, JAMA Oncol 2019)。低侵襲手術は時代の要請であり、今後さらに急増するであろう。ロボット支援下手術は腹腔鏡下手術の進化版といえる。多関節機能を付加したロボット鉗子、拡大視効果、手振れ防止機能、3D高解像度モニターといったこれまでの腹腔鏡下手術の欠点を補完する機能を有する。2018年4月より、ロボット支援下胃がん手術は保険適用となり、本邦においてその手術件数は急増している。しかし、ロボット胃がん手術が腹腔鏡下胃がん手術より優れているとするエビデンスはなく、「胃癌治療ガイドライン」にもロボット支援下手術の適応について明記されていないのが現状である。私たちの施設は保険適用前の2017年よりロボット支援下胃がん手術を開始した。ロボット支援下手術は前述のアドバンス機能により、これまでの腹腔鏡下胃がん手術後、ときに経験していた膵液漏や腹腔内膿瘍、縫合不全といった術後腹腔内感染性合併症が軽減することが期待される。私たちの前向き観察研究の結果、ロボット支援下胃がん手術は膵液漏を発症せず、腹腔内感染性合併症はほとんど認めなかった(Medicine 2019)。その結果を踏まえて、私たちは2018年4月よりロボット支援下胃がん手術の腹腔鏡下胃がん手術に対する優越性を検証した第III相無作為化比較試験(UMIN000031536)を行った。

要旨

試験デザイン

第III相非盲検無作為化比較試験

対象

根治切除可能胃がん患者(clinical Stage I-III)

参加施設

和歌山県立医科大学、三重大学

サンプルサイズ

ロボット群120例、腹腔鏡群120例

手術方法

ロボット群はda Vinci Surgical Systemを、腹腔鏡群はLaparoscopic Surgical Systemを用いる。胃癌取扱い規約に準拠した胃切除、リンパ節郭清を行う。再建術式に関する規定なし。10 cm以上の開腹創を開腹手術と規定する。

主要評価項目

腹腔内感染性合併症発生率(膵液漏、腹腔内膿瘍、縫合不全)

副次評価項目

術後全合併症発生率、術後経過、5年生存率

結果

119例がロボット群、122例が腹腔鏡群に割り付けられ、そのうち117例にロボット支援下手術が、119例に腹腔鏡下手術が行われた。患者背景、腫瘍学的背景には両群間に差は認めなかった。117例のロボット支援下手術のうち、2例が腹腔鏡下手術、2例が開腹手術へとコンバート、119例の腹腔鏡群のうち、2例が開腹手術へとコンバートとなり、最終的に113例にロボット支援下胃がん手術が、117例に腹腔鏡下胃がん手術が完遂された。

手術時間はロボット群で298分、腹腔鏡群で246分であり、ロボット群で有意に長かった。

出血量は両群とも25 mlであり差は認めなかった。主要評価項目である腹腔内感染性合併症はロボット群で6%、腹腔鏡群で8.4%であり、有意な差は認めなかった。全合併症発症率は、ロボット群8.5%、腹腔鏡群19.3%であり、ロボット群で有意に少なかった。術後のドレーン排液のアミラーゼ値は1日目がロボット群で438 IU/L、腹腔鏡群では893 IU/Lであり、ロボット群で有意に低い結果であったが、3日目の値は同等であった。術後の初回排ガスまでの期間はロボット群で有意に短く、術後鎮痛剤投与回数はロボット群で有意に少ない結果であった。

論文による影響や今後の課題

主要評価項目であった腹腔内感染性合併症発生率には両群間で有意差はなく、本論文の作業仮説「ロボット支援下胃がん手術は、腹腔鏡下胃がん手術より術後の腹腔内感染性合併症は軽減する」は棄却された。しかし、副次評価項目であった全合併症発生率はロボット群で有意に低い結果であった。一つひとつ合併症項目を検討すると、ロボット支援下胃がん手術は呼吸器合併症や血栓性合併症、その他尿路感染や胆嚢炎といった手術部位以外の感染性合併症が少ない結果であった。

ロボット支援下胃がん手術は膵臓に接触しない手術が可能であり、また胃以外の臓器(小腸や大腸など)を把持することなくリンパ節郭清することが可能である。その結果、ロボット支援下胃がん手術後の膵液漏発生は認めず、ドレーン排液のアミラーゼ値も低い結果であった。また、胃以外の臓器を把持しないため、術後の腸蠕動回復が早く、術後疼痛も少なかった。これらの要素より、ロボット支援下胃がん手術後はストレスが軽減されたほか、早期離床の促進や、呼吸器合併症、その他の合併症も軽減することができたと考察した。

しかし、ロボット支援下胃がん手術における術後ストレスの軽減に関して、術後の発熱や血清中の白血球数やCRP値には腹腔鏡群と差はなく、ストレス軽減の裏付けとなる科学的根拠は示せなかった。今後、血清IL-6値、IL-10値、HMGB1値など詳細に検討を行う必要がある。

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