2022年04月28日掲載
医師・歯科医師限定

【プレスリリース紹介】糖尿病網膜症・黄斑浮腫の低侵襲早期診断法の確立とフェノフィブラートナノ粒子点眼による新規低侵襲治療法確立への可能性(2800字)

2022年04月28日掲載
医師・歯科医師限定

MedicalNoteExpert編集部

2型糖尿病モデルマウスにおいて早期から引き起こされる網膜血流調節障害を評価指標として、ナノ粒子化したフェノフィブラート点眼による糖尿病網膜症予防の可能性を検討し、「フェノフィブラートナノ点眼薬」が早期網膜血流障害を改善することを日本大学・近畿大学・明治薬科大学の共同研究グループ*が発見したと発表した。この研究成果は、世界初の糖尿病網膜症治療用点眼薬の開発につながる可能性があるという。本研究に関する詳細は日本大学ウェブサイトから確認できる。

*日本大学医学部附属板橋病院眼科(主任研究者:診療教授 長岡 泰司、准教授 横田 陽匡、専修医/大学院生 花栗 潤哉、主任教授 山上 聡)、近畿大学薬学部(准教授 長井 紀章)と明治薬科大学薬学部(教授 櫛山 暁史)らの研究グループ(以下、同研究グループ)。

研究の背景

糖尿病網膜症は、糖尿病の主な合併症の1つであり、いまだに失明原因の上位となっている。その治療法はこれまで網膜光凝固術(レーザー)や手術などの侵襲的な外科治療のみであった。これらの治療は視力を脅かすほど進行した網膜症に対して行われるが、一度低下した視機能を回復させるのは容易ではなく、視力が良好な早期網膜症、あるいは網膜症の発症前からの治療が重要である。したがって同研究グループは、糖尿病網膜症の超早期の段階で行う有効な新しい薬理学的治療が必要と考え、研究を重ねてきたという。

研究の内容

脂質異常症治療薬として臨床ですでに広く用いられている「フェノフィブラート」は α型ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR-α)のアゴニスト(作用薬)としてはたらき、このフェノフィブラートを内服することで糖尿病合併症に対しても有益な効果を示すという報告が数多くある。しかしながら、内服する場合は薬の重篤な副作用のリスクを考えなければならない。そこで同研究では、フェノフィブラートの全身への作用を最小限にして眼局所のみに作用を発揮させられるように点眼薬として糖尿病網膜症治療に用いることができるかを検討した。

従来の点眼薬では、眼球の後部にある網膜にまで薬剤を有効濃度で浸透させることは困難だった。しかし近畿大学薬学部のグループが開発した方法により、ナノ粒子レベルまで粉砕した点眼薬ではエンドサイトーシス(飲食作用)による角膜での透過性を亢進し、また眼内で強膜やぶどう膜を通過して網膜にまで高濃度で到達させることが可能になったという。今回の共同研究ではフェノフィブラートのナノ粒子点眼を作成し、マウスおよびウサギを用いた動物実験において、角膜を透過して前房内に入り、強膜ぶどう膜経路を介して実際に網膜まで有効濃度で到達することを確認したとしている。

同研究グループによると以前、2型糖尿病マウスを用いて糖尿病網膜症発症前から網膜血流障害の程度が糖尿病による網膜機能障害の定量的指標になることを確認しており、今回もこの網膜血流に着目してフェノフィブラートのナノ粒子点眼の効果判定を行ったという。

特にフリッカー刺激(点滅光)に対する網膜血流増加反応には神経細胞やグリアが密接に関与しており、この現象は神経血管連関(neurovascular coupling)*として広く認知され、糖尿病ではこの神経血管連関が糖尿病発症早期から障害されると考えられている。

*神経血管連関(neurovascular coupling):神経の興奮に伴って血管が拡張し血流が増加する生理現象。

日本大学 プレスリリースより引用

過去、同研究グループではフリッカー刺激と高酸素吸入の2つの負荷に対する網膜血流反応を用いて、網膜神経・網膜グリア・網膜血流の中でも、特にこれまで評価が困難であった網膜グリア機能を評価することに成功。その評価法を用いて2型糖尿病モデルマウスにおいて早期からこれらの負荷に対する網膜血流反応が障害されていることを明らかにしており、今回、フェノフィブラートナノ点眼がこれらの早期障害を改善させるか否かを検討することとした。

今回の研究では、6週齢の2型糖尿病マウスを媒体のみで薬物効果のない基剤を点眼した無治療対照群とフェノフィブラートナノ点眼をした治療群とに分けて毎日朝夕の2回点眼を行い、8週齢から14週齢まで隔週で網膜血流測定を実施。

その結果、治療群では安静時の網膜血流に影響を与えなかったにもかかわらず、フリッカー刺激および高酸素吸入に対する網膜血流反応をいずれも8週齢から改善させ、この反応は14週齢まで持続していたことが分かったと報告している。

また同一個体の免疫組織学的検討では、無治療対照群では網膜グリア障害の指標となるグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)が亢進し、さらに糖尿病網膜症・黄斑浮腫の責任因子である血管内皮増殖因子(VEGF)の発現も増強。一方、治療群では両者はいずれも抑制されており、フェノフィブラートナノ点眼により網膜グリア機能が保護され、VEGFは抑制され、網膜組織内の水分調節に重要な水チャネルであるアクアポリン4(AQP4)の発現が無治療群では低下していたが、フェノフィブラートナノ点眼によりこのAQP4発現低下も改善されていたという。

同研究グループはこれらの結果から、フェノフィブラートナノ点眼が網膜まで効率的に浸透し、その長期投与によりPPAR-αのリン酸化を介して網膜グリア機能障害を改善し、2型糖尿病マウスの網膜血流反応障害を改善させた可能性があると考えている。

日本大学 プレスリリースより引用

さらに、同研究グループはVEGFの発現亢進やAQP4の発現低下もフェノフィブラートナノ点眼により改善されたことは、糖尿病網膜症のみならず糖尿病黄斑浮腫の治療への応用も期待されると述べる。現在、糖尿病黄斑浮腫の治療としては抗VEGF剤の硝子体注射が第一選択であるが、患者の負担も大きい治療である。このフェノフィブラートナノ点眼で低侵襲治療が可能となれば、糖尿病網膜症や黄斑浮腫の予防のみならず、既存の治療法との併用でさらなる効果的治療にも役立つであろう。報告は低侵襲的な新規糖尿病網膜症治療法としてフェノフィブラートナノ点眼の今後の可能性に期待が高まると締めくくられている。

今後の展開

本研究成果から、フェノフィブラートナノ点眼が糖尿病網膜症・黄斑浮腫の発症予防や早期治療法となる可能性が見出されたと同研究グループは報告する。今後はまず前臨床試験として眼球構造や形態が人眼と類似するブタを用いてこの治療の再現性と安全性の検討を行っていく必要がある。また同研究グループは将来的に、臨床研究にて糖尿病網膜症・黄斑浮腫治療薬としての効果の検討を行い、全国で1,000万人以上いるとされる糖尿病患者の視機能を守ることを目指していくという。


【参考】
・日本大学 プレスリリース 2022/03/04

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